【小説 パパはゲームプログラマー】第三十三話 雑用係と姫のリベンジ2
「ケンタ......今まですまなかった」
あのグランが僕に頭を下げている。
彼の目はすっかり改心したかの様に見える。
「どこへでも二人で行けばいい」
僕はそう言うと、踵を返しジェニ姫の方を向いた。
彼女は無言で頷いた。
この場を去って行く二つの足音が僕の耳に響く。
さよなら、マリナ。
「もう。男の子が泣かないの」
「......だって」
「私がいるでしょ」
そう言うと、彼女は背伸びして僕の頭を撫でた。(ジェニ姫は僕よりちょっとだけ背が低いのだ)
心が癒される。
そう思ったのも束の間、空に暗雲が垂れ込めた。
「そろそろ来るわよ。本当に復讐すべき相手が」
風が吹く。
ジェニ姫の白いローブがはためいた。
「ケンタ君」
「はい」
「ここから先は、私に任せて」
「はい」
雷鳴が轟き、瞬間、地面に穴が穿たれる。
「うわわわ」
怯える僕に、ジェニ姫が手をかざす。
「対魔法保護《マジックプロテクト》」
僕の身体が光に包まれる。
「な、何です? これ?」
「この結界の中だと、私が死なない限り安全だから」
周りが光り輝いていて良く見えない。
辛うじてジェニ姫のシルエットが見えるだけだ。
「ジェニ姫、動けません!」
足が地面に張り付いたかの様に一歩も前に踏み出せない。
「わざとそうしたの」
「え?」
「私がピンチになると、君がいつも助けに来るから」
「だ、だけど......」
シルエットのジェニ姫が一瞬笑顔に見えた。
「毎回、来るなって言っても来るし。それはいつも、すっごく嬉しいことなんだよ。だけど、私を助けに来た君はいつもマリクに殺されるんだよ」
「僕が......」
「私、その度に、わざとマリクに倒されてたんだから」
「え?」
どういうこと?
「だって、君がいない人生、意味が無いもん」
シルエットのジェニ姫は一呼吸置くと、こう言った。
「だから私を信頼して、ずっとそこで待ってて」
シルエットが消えた。
僕はじっとしているしか無かった。
今、ジェニ姫とマリクが最後の戦いを繰り広げている。
だけど、この光の結界の中にいる僕には、その音も聞こえない、その姿も見えない。
光の結界が解け、目の前の風景がクリアに広がる。
それまでの暗雲はどこへやら。
雲一つない青空に浮かぶ太陽が、大地と僕とジェニ姫を照らしていた。
「勝ったよ」
ジェニ姫の顔には傷一つ無かった。
ローブも汚れ一つ無い。
時間にして一分程度。
そんなわずかな時間で、あのマリクを消滅させた。
「す、すごいですね」
「当たり前じゃん。ケンタ君がでしゃばらなければ、15ループ目辺りで勝ててたんだから」
「すいません」
「ふふふ」
ジェニ姫は悪戯っ子のような笑顔でこう言った。
「チートしちゃった」
「ズルしたんですか?」
僕はおずおずと問い掛ける。
「ズルとか人聞きの悪いこと言わないでよ」
ジェニ姫が頬を膨らませる。
チートと言えば、ゲームで言うところのズルのことだ。
例えば、ゲームの不備を突いて、キャラクターのステータスをカンストさせるとか、強いアイテムを手に入れるとか。
現実の世界にも、そういったことがあるのだろうか。
「数日前、家を留守にしましたよね?」
「うん」
「その時、チートの実でも食べに行ってたんですか?」
「ふふふ、まあそんなとこね」
ジェニ姫が意味深に笑う。
「その前に、この話をしておこうかな」
そして、ローブの内ポケットから長方形の物体『ゲーム』を取り出す。
「これ、やっとクリア出来たんだ」
「おお、ついに」
僕は驚いた。
あの誰もクリア出来なかったゲームをクリアするとは。
「エンディング、見せてあげる」
ジェニ姫はそう言うと、STARTボタンを押した。
画面に、モードが表示される。
START
CONTINUE
ENDING
クリアすると、ENDINGモードで何度もエンディングが見られるらしい。
ジェニ姫はENDINGを選んだ。
ジェニ姫のプレイ記録から、特に素晴らしかった場面(ゲームの独断だが)が次々表示される。
最後は、魔王との戦いの場面だ。
魔王の鋭い牙や角、吊り上がった目などがドットで毒々しく描かれている。
主人公が魔王を光の剣で攻撃している。
魔王は光の剣での攻撃しかダメージを受けない。
だから、光の剣はゲーム攻略の上で必須アイテムだった。
その存在はプレイヤーの間で広まっていた。
だけど、誰も手に入れることが出来なかった。
「光の剣は、ゲーム終盤に現れる魔導士から手渡されるの。だけどその条件が難しくて。まず、パーティを組んでいないこと。つまり勇者一人でプレイしていること。もう一つは勇者の性別が女であること」
魔王のHPが下がって行く。
遂に0になった。
魔王が光り輝き、画面が真っ白になる。
次の瞬間、ドットで描かれた紫色のローブを着た賢者が現れた。
荒いドット絵だけど見覚えがある。
「マリクですか?」
「そう」
ゲームの中のマリクがこう言った。(実際はメッセージが流れている)
「ジェス姫、よくぞゲームをクリアしてくれました。ありがとうございます。このゲームはあなたなら楽勝でクリア出来る様に作りました。なぜなら、ゲームの中には君の好きなものや、行きたい場所、好きな物語を散りばめたからです。だから、あなただけが自然と謎解きを楽しんでクリア出来る様になっています」
ドット絵のマリクは得意げだ。
「ゲームはマリクが作ったんですね」
「そう。きっとジェス姉に直接告白するのが恥ずかしかったからゲームの中で告白しようとしたんじゃないの? 意外に小心者よね」
ジェス姫にプレイして欲しいゲームは、運命のいたずらによってジェニ姫の手に渡った。
そしてゲームは、今や全世界の人々がプレイしていた。
ゲームの中のマリクは最後にこう続ける。
「私は、あなたがゲームをクリアするのを、ずっと待っていました。このメッセージを読んだら、ガクシャケンの丘まで来てください。あなたが欲しかったチートの実を持って、待っています」
きっとマリクはガクシャケンの丘で、ジェス姫をずっと待ってたんだろう。
だけど、ゲームによるラブレターは届かなかった。
「で、ガクシャケンの丘に行って見たの」
ジェニ姫はゲームを15ループ目でクリアし、エンディングに到達した。
マリクのメッセージを頼りに、城から42km離れたガクシャケンの丘へ足を踏み入れた。
「思った通り、チートの実が落ちてたの」
だが、そのチートの実は時間が経ち、腐っていたそうだ。
「ジェニ姫は、まさか、それを......」
「そう食べたの」
「お腹大丈夫ですか?」
「うん。何ともないよ」
ジェニ姫はローブの上からお腹をさすって見せた。
しかし、チートの実とは一体何なのか?
「チートの実は、お伽話や神話で語られる架空の果実。自然災害や、怪物、病気に怯える人間の憧れみたいな物よ。こんな都合のいい実が、実際にこの世にあるなんて誰も信じてないわよ」
「へぇ、でも、マリクはそれを手に入れたわけですよね」
「ジェス姉はチートの実を食べて、無限の能力を手に入れてこの世を平和にしたいと思っていたの。マリクはそれにつけ込んで、偽物を用意してジェス姉を呼び出したと思ったけど。実際は本物だったみたいね。私が食べてみたらこの結果。腐ってて不味かったけど。マリクはこれをどこで見つけたか知らないけど......。あいつは何でも出来るからなぁ。こんな神話じみた物も見つけることが出来たのかもね」
そのチートの実のお陰で、ジェニ姫は今やこの世界で敵無し。
最強の存在になったわけだ。
「これからどうするんですか?」
ジェニ姫は小さな顎に手を当て、考え込む。
フッと、口角を上げ、こう答えた。
「そうね。世界征服、といったところかしら」
僕はそれが冗談だと分かっていた。
だから、笑顔でこう返す。
「僕と一緒に......住」
その先の言葉を待たずして、ジェニ姫は意識を失った。
雑用係と姫のリベンジ編 おわり
コメント
VBA使い
真っ青な青空が大地と僕とジェニ姫を照らしていた。
→照らすのは太陽では?
あと2話、誰の視点で語られるんかな?
再びマリク→最後にケンタ?
桜子さんが一番
最後にどうなるんや?読ませますね~w
湯二
VBA使いさん。
コメントありがとうございます。
>→照らすのは太陽では?
雲一つない青空に浮かぶ太陽が
>再びマリク→最後にケンタ?
最後は主人公で締めたいと思います。
あ、マリナが一回も無かった。。。
に変えました。
湯二
桜子さんが一番さん。
コメントありがとうございます。
最後まであとひくように考えました~。