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【小説 パパはゲームプログラマー】第十六話 魔法使いの国3

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 マリナ。

 僕の愛する人。
 彼女と離れ離れになってから、その名前を僕は一度だって忘れたことが無い。

「もっとその人のことを教えてください」
「はぁ?」

 不審そうにジェニ姫が眉根を寄せる。
 僕は話した。
 マリナが僕の婚約者だということを。

「そっか......」

 ジェニ姫は僕に同情したのか、伏し目がちに言葉を続けた。

「寝取られ......」
「え!?」

 ジェニ姫の言葉に僕は驚きパニックになった。
 思わず彼女の両肩を掴んで揺さぶる。

「痛い! 痛い! 話は最後まで聞きなさいよ」
「はぁ、はぁ......」
「よっぽどその人のこと好きなんだね」
「はい」

 僕は大きく頷いた。

「大丈夫よ。多分、寝取られては無いと思う。そのマリナって人、グランが何度口説いても相手にしてなかったから」
「良かった......」

 僕はホッと胸を撫で下ろした。

「......だけど、それは数カ月前の話よ。私が追放された後のことは......。今、どうなってるか分からない」
「僕はマリナを信じています!」
「純粋ね。君はパーティの仲間に裏切られて、今ここにいるんだよ。人なんて信じたって悲しくなるだけよ。だから、私は自分しか信じないけどね」

 ジェニ姫の言葉はどこか寂しかった。
 僕はどこか心地良い感傷に浸っていた。
 僕は悲劇の主人公......。

 だけど僕はマリナのことを信じてる。
 マリナだって僕のことを信じてるはずだ。

 この世界で僕と彼女は唯一無二の存在。
 そんな気分。
 そんな甘ったるい雰囲気を断ち切る様に、ジェニ姫はスッと立ち上がった。

「さ、こんなところでグズグズしてる暇は無いわ。今から行きましょう! グランを倒しに!」

 白いローブをはためかせ、僕を置いてギルドを出ようとする。

「ちょっ、ちょっと待って!」

 次の日。
 僕は廃校になった学校の校舎を安く借りることが出来た。
 そして、こんなビラを街中にまいた。

『ルキ魔法学校生徒募集! ベテラン水属性魔女が丁寧に教えます!』

「ちょっと! このベテラン水属性魔女って私のこと!?」
「え、ええ。はい」
「ベテランじゃ、なんか年寄りみたいじゃない。私、まだ16よ!」
「じゃ、ツンデレとかにしますか......?」
「うっ、うん......。ケンタがそう言うなら......全然いいよっ♡ ......って、デレってこんな感じでいいんだっけ?」

 ジェニ姫って意外にノリがいいというか、ボケ担当って感じだな。

「あの~、募集してますか?」
「はい!」

 おお!
 生徒第一号!
 大人しそうな女の子。
 黒いおかっぱに、小豆みたいな小さな目。
 身体に合ってないブカブカの黒いローブを地面に引きずりながら歩いてる様は、いかにも魔法使いの卵っぽい。

「未成年は保護者の同意があれば入れます。授業料は......」

 僕は学校の説明を始めた。
 まずはカリキュラム。
 もちろん、魔法使いを育てるのは手段であって目的じゃない。 
 ルビーとの約束を果たすため。
 そして、僕は魔法が解かれた瞬間、ジェニ姫の力を借りてルビーを殺す。

 召喚魔法の素質を持つ人間が入校してくれることを、僕は願った。

 ルキ魔法学校で学べる学問は以下の通りだ。

『魔法属性学』
『ディオ王国歴史学』
『魔法機械学』
『魔法薬学』
『魔法武器学』

「この落ちこぼれ共! 私の授業にしっかりついて来るのよ!」

 教室中にジェニ姫の檄が飛ぶ。
 入学したばかりの生徒たち10名は、その声にビックリして肩をビクつかせた。

「まずは、『魔法属性学』からよ。この世界の攻撃魔法は火、水、土、風の4つの属性で構成されているわ。魔法使いとしてどの属性を伸ばすかは自分で決めずに先輩魔法使いのアドバイスを聞いて決めること。いいわね」
「はい!」

 元気な返事だ。
 生徒からの質問が飛ぶ。
 それを受けたジェニ姫が厳しく応えている。
 校長の僕はその熱いやり取りを見て満足した。

「次は『ディオ王国歴史学』。この大陸は、今はグラン王国って呼ばれてるけど、ついこの前までは私の父、ディオ・アフォン・エスタークが統治してたの。ここはテストに出るわよ!」

 生徒たちが一斉にノートをとっている。

「エスターク一族は、500年前にこの大陸を見つけ切り拓いたの。奢り高ぶった狂った王グランやあなた達は、エスターク一族のお陰で今、ここにいるのよ」

 ジェニ姫は自分の胸を張り、その胸に親指を押し当てた。
 誇り高くこう続ける。

「エスターク一族は、100年に一度、流星が落ちる度に起こる厄災にも負けずこの大陸を発展させて来たの」

 僕は子供の頃、マリナに教えてもらった伝説を思い出した。

~~~~~~~~~
黒い流れ星が落ちる時、魔王がこの大陸に降り立つだろう。
同時に救世主も誕生する。
救世主は6人の使徒を引き連れ、魔王を倒すだろう。
~~~~~~~~~

 魔王討伐は勇者グランを中心としたパーティによって達成された。
 救世主がグランだとするなら、あとの6人、戦士のタケル、魔法使いのルビー、僧侶のコブチャ、武闘家のソウニン、賢者のマリク、そして雑用係の僕はその使徒ということか。
 そうか。
 ディオ王は伝説に従い、グラン達を集めたんだ。
 だが、悲しいことにグランは救世主では無かったということか。

「グランは私達エスターク一族の恩を忘れて暴虐の限りを尽くしているわ! 今こそ倒しに行くのよ!」

 ジェニ姫が生徒達を煽り、教室から連れ出そうとする。

「ちょっ、ちょっと待ってください! ジェニ姫。急ぎすぎです!」

 その日の夜。

「参ったわね。素質のありそうな子がいないわ」

 教室で僕とジェニ姫は途方に暮れていた。
 一通り授業を終えた後、生徒達の素質を評価しようとあるテストを行った。

 その日の夕方に時は遡る。

「皆、一列に並べ!」

 夕日でオレンジ色に染まった校庭。
 ジェニ姫は整列した生徒達一人ひとりの顔を覗き込む。

「今から皆さんをクラス分けします」

 生徒達の顔が強張る。

「クラスって?」

 一人の生徒が問い掛ける。

「能力ごとに分けます」

 生徒たちがざわつく。

「黙れい!」

 ジェニ姫が一喝すると、皆黙った。

「今から一人ずつ、この魔法陣に向かって召喚魔法を唱えてもらう! 召喚獣のレベルが高い者ほど良いクラスに配属する!」

「降臨《サモン》」

 生徒が一人ずつ魔法陣に向かって、召喚魔法を唱える。
 この世界には魔法には大きく分けて3種類ある。
 攻撃魔法、治癒魔法、そして召喚魔法。
 シヲリが言っていた通り、魔法使いはその3つを使うことが出来る。
 だが、その3つを同等レベルに使いこなすのは難しい。
 だから、多くの魔法使いは、自分の専門とする魔法を選択し、その技術を磨くことになる。
 ただし、賢者を除いて。

「ワンワン!」

 一人目の生徒の手によって召喚されたのは、柴犬だった。
 次の生徒は、湯呑に入った緑茶だった。
 次の生徒は、レトルトパウチの味噌汁だった。

 そして、その日の夜に時間は戻る。

「あ」

 僕は閃いた。

「何?」
「ジェニ姫、あなたはどうですか?」
「私に召喚魔法をやれって?」
「はい」

 そして、僕らは深夜の校庭に立った。
 目の前には魔法陣がある。

「私、召喚魔法やったことないんだよね。何が出て来るか分からないわよ」
「大丈夫です! 水属性最強の攻撃魔法使いジェニ姫なら召喚魔法なんてちょろいですよ!」

 僕が褒めたことで気を良くしたのか、ジェニ姫は唱えた。

「降臨《サモン》」

 魔法陣の中央から光の柱が立ち昇る。
 光の中から現れたのは......

「誰?」

 魔法陣の中央に倒れているのは、細身の女の子だった。
 年は十代といったところか。
 美しく長い栗色の髪。
 服装は、僕の少ない語彙じゃ形容し難いな。
 上着は紺色で胸に白いリボンが付いている。
 肩から胸元にかけて前掛けをしている。
 その前掛けには白いストライプが入ってる。
 スカートは膝丈までで、これまた紺色。

「あれ? ここはどこ?」

 目を覚ました。
 不思議そうにあたりを見渡している。

「ここは、グラン王国です」
「え?」

 少女の顔に不安の色が差す。
 見る物全てが初めてなのだろう。
 熱を持った赤い空。
 小高い丘の上に建つ真っ赤に染まったルビーの城。

「私、渋谷で慶太君とデートしてたのに......。ねえ? 慶太君はどこ?」

 少女が取り乱している。
 僕は安心させるために、こう言った。

「大丈夫です。ここは安全ですから。きっと戻してあげます」
「いやああ! 今スグ日本に戻して!」

 どうしていいか分からない僕はジェニ姫の方を向いた。
 ジェニ姫は肩をすくめた。

「デーモンでも呼ぼうと思ったら、こんなガキが出て来るなんて」

 デーモンとは......
 身長50メートル。
 筋肉質の真っ黒な体。
 太い首に牛の顔が乗っかっていて、額の両サイドから渦巻き状の羊みたいな角が飛び出ている。
 異常な魔力と攻撃力を誇る。
 そんなラスボスみたいな生物をジェニ姫は召喚するつもりだったらしい。

「だって、デーモンと契約すれば、グラン何て簡単に倒せそうじゃない」

 ジェニ姫は事も無げにそう言った。
 僕は、そんな恐ろしい奴と一緒に戦いたくない。

「あの......」

 少女が僕とジェニ姫のやり取りに割って入る。

「私、早川沙織って言います。南都可高校の一年です。マジ早く帰りたいので、警察呼んでもらえませんか?」

つづく

Comment(6)

コメント

VBA使い

君はパーティの仲間に裏切「ら」れて


地面に引きずりながら「て」歩いてる様は


武闘「家」のソウニン


「ディオ」王は伝説に従い、グラン達を集めたんだ。


教室「から」連れ出そうとする。


今スグ日本に戻して!
→ニッホンじゃなかったw


大体RPGって(最近のはどうか知らないけど)弱小状態から始まって、ある程度強くなってから次の国にいくけど、この話はどの国からでも、身一つからクリアしちゃうあたりが新鮮ですね。

桜子さんが一番

召喚魔法乱発したら、エライことになりそうですね・・・

湯二

VBA使いさん。


校正、コメントありがとうございます。


結構、重要なところを間違えていて、すいません。

>ニッホン
実際の日本とつながってます。


>身一つからクリアしちゃうあたりが新鮮
主人公がいつまでたっても強くならないし、人を利用してばかりなので、、、

湯二

桜子さんが一番さん。


コメントありがとうございます。


>召喚魔法乱発
世界のパワーバランスが崩れますね。

白栁隆司@エンジニアカウンセラー

なるほど。この世界の魔法は「概念の操作」なんですね。


時間と空間は、概念として認識する事が難しいから、使い手も少ない、と。
そうすると確かに、世界の仕組みとして【スキル】とも相性が良さそうですね。
なるほど、よく考えられていると感じました。

湯二

白栁隆司@エンジニアカウンセラーさん。


コメントありがとうございます


>よく考えられている
いや~、そこまでよく考えてないです。
ただ、時間を操るのって皆、出来ちゃうと大変なことになるから、難しいっていう感覚だけはあります。

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