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【小説 パパはゲームプログラマー】第八話 戦士の国3

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「割引してもいいですよ」

 僕は今思い付いたかのように言った。

「なんだって?」

 工場長はとても嬉しそうな顔をした。
 僕は工場長に提案した。

「その代わり工場側から、グラン王国のタケル領の港まで来てもらえませんか? そこでこの『スライムの欠片』を買い取って下さい。そうすれば一つあたり15万エンを10万エンにして差し上げます」

 工場長は腕を組んで唸った。
 そして、こう言った。

「こちらから、そちらに買いに行けば安くする......という訳か。抜け目がないなあ」

 工場長は続けてこう言った。

「ちょっと、うちの社長と話してくる」

 数分後、OKの返事が出た。
 商談成立。

 数時間後、僕は船でグラン王国に戻った。
 港で船長に今日の商売について報告し、日が暮れる前にカズシのところに向かった。
 カズシは今日の分のスライム狩りを終え、岩の上に座って一息ついていた。

「お前、面白いこと考えるなあ」

 カズシは僕の話に感心していた。

「だって、船で『スライムの欠片』を運べないなら、向こうから取りに来てもらうしかないじゃないか」
「確かにそうだが」
「それに、取りに来てもらえば、船で運ぶ代金も掛からないしね」
「まあ、そうだな」

 船で運ぶお金が掛からないから、その分を割引することが出来る。

「それに僕は元々10万エンで売ろうと思ってたから、損は無いよ」

 カズシは「すごいな」と言って、笑った。

「しかし、上手く行くもんだな。向こうが取りに行くのを嫌がったら話が成立しないだろ?」
「僕は最初からうまくいくと思ってたよ」

 僕はこう説明した。

「タケルはメルル王国から野菜を輸入してるんだよ。メルル王国から船が毎日、港に来るんだ」
「なるほど。航路が出来てた訳だ。その船で買ってもらった『スライムの欠片』を運んでもらえるって訳か」

 カズシは「大した奴だ」と言って、笑った。

 ある物は使う。

 それが商売の基本だった。
 それに......
 僕の『スライムの欠片』はタケルのよりも品質が良いうえに、同じ値段だ。
 売れない訳がない。

 メルル王国と僕との間で商売が始まった。
 工場は僕の『スライムの欠片』をメインに取り扱ってくれた。
 そのお陰で、タケルの『スライムの欠片』は取り扱われなくなった。

「タケル様が売れなくなって嘆いているぞ」

 船長が一仕事終えた僕に声を掛けて来た。

「船長は、大丈夫なんですか?」
「俺は無事に物を運べばいいだけだから。別にタケル様が儲からなくても、ちゃんと給料はもらえる」

 なら、安心だ。

「それに、お前が儲けてくれる方が、投資した俺としては嬉しいからな」

 僕、期待されてるんだなあ。

 『スライムの欠片』で大儲けした僕は、稼いだ金を東の国の国民に分配しようと思ったんだ。

「ちょっと待て。お前、見ず知らずの人に金をあげるのか?」

 カズシが街へ行こうとする僕を止めた。

「そうだよ。タケルの課した重税に苦しむ人々にお金を渡して、一緒に力をつけて反乱を起こすんだ」
「お前のやり方は、ちょっと強引だぞ」
「なんで?」
「見ず知らずの奴がいきなりお前のとこにやって来て、金をやるって言ったとして、お前はもらうか? 何か裏があると思って怪しむだろ。普通に」

 確かに。

「でも、じゃあどうしよう」

 僕は考えた。

「そうだ」

 僕は閃いた。

「あげるんじゃなくて、貸してあげればいいんだ!」

 早速、僕はサチエに頼み込んで、タピオカ屋だった空家を借り直した。
 そして、そこに看板をかけた。

『ルキ金貸し屋 無担保、無利子でお貸します。返すのはいつでもいいです』

「あの〜」

 お客さんかな?

「はい」
「表の看板見たんですけど、本当ですか?」

 痩せて疲れた顔のおじさんが、訪ねて来た。

「はい。本当です」
「じゃ、10万エン貸してください!」

 おじさんは僕の前で土下座した。

「ちょっと。頭を上げてください。貸してあげますから」

 僕はポンとお金を渡した。

「返すのはいつでもいいですよ」
「ありがとうございます!」

 おじさんは何度も僕に頭を下げた。

「なるほど。考えたな」

 カズシが様子を見に来てくれた。

「貸し借りなら、お互い上下関係も無いからね」

 お客さんが次々、お金を借りに来た。
 皆、助かったと言って嬉しそうに帰って行く。
 僕はそれだけで、この商売をやって良かったと思った。

「でも、金を借りて行った奴らは、お前がなんで金を貸してるのか理解してるのか?」
「純粋に貸してるだけだから、僕の目的なんて知らないと思う」
「それでいいのかよ?」
「いいんだよ。下手に僕が反乱を起こすために金を渡してるって言ったら、皆来なくなる。まずは、僕が皆を助けてあげることから始めないと信頼関係が作れないよ」

 僕は『スライムの欠片』で儲けた金を、金貸し屋ですべて吐き出す。
 一週間ほどこのサイクルを繰り返した。
 その間、誰も借りたお金を返しに来ない。
 まるでお金が僕の間を通って右から左に流れて行ってるみたいだ。

「あの~」

 あ、一番最初にお金を借りに来たおじさんだ。

「いらっしゃい」
「お金を返しに来ました」
「え! もうですか!」

 まさか、返す人がいるなんて。
 おじさんは袋に入った10万エンを僕に渡した。
 そして、

「少ないですが、利子です」

 1万エンを渡してくれた。

「利子なんて、いいんですよ!」
「いえ、あなたは私の家族を助けてくれました。だから、これは私の気持ちです」

 僕はおじさんの話を聞いた。
 おじさんの家は街工場をやっていて、そこで建物を補強するためのネジを作っている。
 タケルは『スライムの欠片』の儲けが少なくなり、国民に更に重税を課すようになった。
 お金をたくさん取られたおじさんは、工場の資金繰りに困っていた。
 死に場所を探してさまよっていた時、僕の店を見つけたそうだ。

「おじさん......、すいません」

 僕が『スライムの欠片』で儲けたしわ寄せが、弱い人達に集まってたんだなあ。

「いやいや、あなたは悪くない。悪いのはタケルの奴だ! 私利私欲のためにあいつは......」

 僕は、もうタケルを殺したくてたまらなくなった。

 ほとんどの人は、借りたお金を返してくれた。

「こんなに利子をいっぱい貰って、何だかこっちが申し訳ないです」

 僕はお客さんに頭を下げた。

「いいんですよ。私はあなたに救われたんだから」

 お客さんは笑顔で応えた。
 皆、沢山の利子を上乗せして返してくれた。
 いつの間にか僕の店には入りきれないくらいの人が来るようになった。
 僕は彼らの不満を沢山聞いた。
 僕は彼らから信頼を受けるようになった。
 僕はこのタイミングで、大きな一軒家を借りることにした。
 サチエに特殊な条件を提示して、それに見合う一軒家を探してもらった。

「あったわよ。あなたの望むピッタリの家が」

 僕はその家の戸に、看板を付けた。

『ルキ食堂』

 看板にはそう書いた。
 一階は食堂にした。
 だけど、それはこの場所の本当の目的をカムフラージュするためだ。
 だからといって、食堂として味に妥協はしたくない。
 だから、サチエのギルドから『調理』スキルを持つ人を何人か雇った。
 食堂は『特製・定食唐揚げ』が話題になり、毎日繁盛している。
 あの親衛隊まで食べに来ているようだ。
 食べ物の前では皆、平等なんだね。
 複雑な気持ちだなあ。

「タケルがまた税率を高くするらしいぞ」
「まったく、あの人の政治はめちゃくちゃだな」
「税金を収められない人間は、強制労働させられるらしい」

 今日も、沢山の人々が食堂の地下(アジト)に集まってこの国のことを憂いていた。
 僕の金貸し仕事で作った人的ネットワークは拡大の一途をたどった。
 そして、一つの組織が出来た。
 反乱を起こすための組織が。
 僕はこの組織が集まる場所が欲しかった。
 だから、サチエに大きな地下室がある物件を探してもらったんだ。

「ルキがこの国を治めてくれたらいいのになあ」

 誰かがそう言った。

「そうだ。ルキなら、この東の国を変えてくれる。ゆくゆくはグラン王国そのものを変えてくれるはずだ」

 皆が僕に期待している。
 僕は自分の素性を隠していることが後ろめたくなって来た。
 リーダーになろうとしている僕が、嘘を付いているのもどうかと思ったので、本当のことを皆に話した。

「ケンタ。お前、そんな目にあっても今日まで生きて来たんだな」

 皆、感動したみたいだ。
 拍手が起きた。

「お前の復讐に力を貸すぜ!」

 地下室に地鳴りの様な歓声が鳴り響いた。
 僕は嬉しかった。
 僕には味方がこんなにいる。
 この喜びを分かち合いたいと思い、横にいるカズシを見た。

「カズシ?」

 カズシは無表情で、この様子を見ていた。
 そして、

「お前ら、無暗に熱くなってるんじゃねえ!」

 皆を一喝した。
 場は一気に静まり返った。

つづく

Comment(2)

コメント

foo

ケンタが行くのは渋沢栄一ルートかと思いきや、ムハマド・ユヌスのグラミン銀行ルート。
無利子無担保無期限の貸金業で、それでも利子を付けて返しに来る人が出てくるあたりも、商才スキルの効果の一つだろうか。

ただ、こんな条件での金銭の貸し付けを行ったら、既存の金貸しギルドにとってはショバ荒らし以外の何物でもないし、特に闇金ギルドあたりから有形無形の圧力が加わりそうな……
……いや、

> 「タケルがまた税率を高くするらしいぞ」
> 「まったく、あの人の政治はめちゃくちゃだな」
> 「税金を収められない人間は、強制労働させられるらしい」

ともあるし、そもそもこの国では金貸しを営んでいる人間がほとんど居付いていない可能性もあるか。
少なくともタケルの施政は、いわゆる「重商主義」とは程遠いところにあるし、下手すりゃ脳筋思考にものを言わせ、金貸しを卑しい商売と弾圧していた可能性すらありそう。

湯二

fooさん。


コメントありがとうございます。


>ムハマド・ユヌスのグラミン銀行
教養が無いので、初めて知りました。


>商才スキルの効果の一つ
商才と魅力がごっちゃになってるあたり、スキルと人間性の複合みたいな感じになってます。


>既存の金貸しギルド
反対勢力のことは、ちょっと考えてなかったです。


>重商主義
この言葉も初めて知りました。
もっと本を読んで、勉強しなきゃという感じです。
それこそ私が脳筋かも。

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