【小説 パパはゲームプログラマー】第九話 戦士の国4
地下室は静まり返った。
カズシは一体何を怒っているのか?
「ケンタ、お前の目的は何だ? この国の王様になることか? それともお前を追放したパーティのメンバー全員に復讐することか?」
カズシが僕に問い掛ける。
「僕はグラン達に復讐する。そして、マリナを取り戻す! それが僕の人生の目的だ」
僕は権力なんていらない。
僕をこんな目に合わせたメンバーを一人残らず殺し、マリナと結婚する。
その為だけに生きている。
「お前ら、聞いたか?」
カズシは皆に向き直る。
「ケンタの復讐はタケルを殺しただけで終わりじゃない。この後も続くんだ。だからケンタを反乱軍のリーダーにしたくない。目立たせたくないんだ!」
なるほど。
僕が反乱軍の首謀者になり、東の国の王様になったらその出来事は、きっとグランの耳にも届くだろう。
そうなると、僕の代わりにスライム島で強制労働しているルキにも迷惑が掛かる。
それに、僕の素性もバレてグランから命を狙われる。
「だから、反乱軍のリーダーは俺がやる!」
カズシがそう宣言した。
「いいのかい?」
カズシは叔父であるタケルや、彼の親父であるタケシに歯向かう気か。
「ああ。俺が反乱軍のリーダーになる」
カズシはフッと笑った。
そして、こう言った。
「身内が起こした反乱だ。ただの内紛だとグランも思うだけだろう」
「カズシ......」
「いいんだ。俺はこの国の王様になって、色々変えたいんだ。そしてお前は、ひっそりと旅立つんだ。次のメンバーに復讐するために」
このままカズシや皆とこの国で過ごしたい。
だけど、僕は旅立つことを決めた。
「さて、そこで反乱の仕方なんだが......」
カズシと皆は打ち合わせをし始めた。
カズシはまず、チームを二つに分けた。
Aチームは、タケルの城に正面から向かって行く。
城門の前で圧政に抗議するデモを行わせるのだ。
「で、この地下室から、城内まで続くトンネルを掘っておくんだ」
デモにタケルの兵が気を取られている間、城内の守備は手薄になる。
Bチームはトンネルを通って、城内に出る。
そして、タケルを包囲し玉座を制圧する。
「そして、最後に......」
カズシは僕に一振りの剣を差しだした。
「タケルを殺すのはお前だ」
僕には武力が無い。
カズシは反乱を起こし、タケル城を壊滅させる。
そして、タケルをボコボコする。
最後のとどめは僕が差す。
そんな流れだ。
カズシの計画はイケてると思う。
だけど、一つだけ穴がある。
それは、カズシよりもタケルの方が絶対的に強いということだ。
二人のステータスを比較してみる。
カズシのステータス(サチエの自家製能力測定器で測定)
Lv.535
スキル :魔法剣技(中級)
攻撃力 : 1890
防御力 : 950
HP : 650
MP : 1030
素早さ :452
知力 : 1216
運 : 315
タケルのステータス(マリクの能力監視《キャパシティーモニター》で測定)
Lv.1000
スキル :闘魂の斧《バトルアクス》
攻撃力 : 9000
防御力 : 1500
HP : 2650
MP : 0
素早さ :252
知力 :203
運 : 115
カズシはスライム狩りでかなりレベルを上げた。
だけど、タケルには劣る。
特に攻撃力においては戦士であるタケルに軍配が上がる。
タケルは魔王討伐パーティの中で一番の攻撃力を誇っていた。(今は、グランの攻撃力9999の方が上だけどね)
戦いの時はまるで血に飢えた虎の様に、得意の斧さばきで暴れ回っていたよ。
戦意喪失して逃げ惑うモンスターを、どこまでも追い掛けて八つ裂きにしていた。
カズシの気持ちは嬉しい。
彼には『魔法剣技』というスキルがあるけど、圧倒的な攻撃力の前に勝つことは難しいだろう。
「カズシ、よろしく頼むよ」
それでも僕はカズシに頭を下げた。
彼のプライドを尊重するために。
そして、一方では別のことも気にしていた。
いや、取り越し苦労だったらいいんだけどね。
僕は皆を信用してるから。
一週間後。
『ルキ食堂』の地下室から、タケルの城の城内に通じるトンネルが開通した。
トンネル掘りには、サチエのギルドから『採掘』スキルを持つ人を雇ったから思いのほか順調だった。
「明日、決行する」
地下室で、皆に囲まれたカズシはそう宣言した。
正面から城に向かうAチーム1000人。
トンネルを通って城内から攻め込むBチーム500人。
東の国の国民は10万いる。
命を優先したい者は不参加となった。
仕方ない。
皆、家族がいるからね。
集まったのは死を覚悟した者ばかりだ。
「いくぞ、ケンタ」
「うん」
カズシに声を掛けられ、僕はトンネルの中を進んだ。
「ん? 見ない顔だな?」
カズシは僕の隣にいる男に目をやった。
「ああ、彼の名はグルポ。ギルドで雇った戦士さ」
「ふうん。ま、人数は多い方がいいか」
カズシは特にグルポのことを気にしていないようだ。
グルポは細マッチョの角刈り、タケルと同じく斧を使う。
僕と同い年らしい。
先日、サチエのギルドで雇ったばかりだから、彼のことはまだ良く知らない。
一つだけ知っているのは、彼の攻撃力が9999でカンストしているということだけだ。
Bチーム500人でゾロゾロと地下トンネルを歩く。
そして、着いた。
トンネルの突端。
僕は見上げた。
この真上がタケルの城の城内だ。
「税金を下げろー!」
「おおー!」
「過重労働反対!」
「おおー!」
「平和な国のために!」
「おおー!」
突端から少し後ろに下がった場所。
その真上から地鳴りと声が聞こえてくる。
Aチームが城門の前でデモをしているのだ。
「ギャー!」
「うわー!」
叫び声が聞こえて来た。
剣がぶつかり合い、矢の飛ぶ音がする。
肉の切れる音と、人が倒れる音がする。
城門の前で戦闘が始まったらしい。
「時間がないな。やるぞ!」
「おお!」
カズシの号令と共に、皆が壁にハシゴを掛けた。
その上に昇り、天井の壁の土を掘って行く。
掘り進んで5分ほどで明りが見えて来た。
ゴボッ!
崩落という感じで土の塊が地面に落ちたかと思うと、大きな穴が開いた。
そこから白い光が降り注いでいる。
皆、その光に吸い寄せられるように、一斉に地上に上がって行った。
まるで天国に向かっているようだよ。
僕もそれに着いて行く。
「これがタケルの城か......」
トンネルは城の中庭に繋がっていた。
綺麗に狩り揃えた芝生が綺麗だ。
城はレンガ造りでしっかり作られている。
10メートルくらいあるタケルの銅像がある。
斧を地面に突き立てて、大股広げて立っている。
国民の税金でこんな無駄なものを作っていたのか。
数名の兵士が倒れていた。
既に、上に昇ったメンバーが倒したのだろう。
皆、城の中に入ろうと門や窓を打ち破っている。
僕も急いでそれに続く。
城内は兵士がほとんどいない。
手薄な状態だった。
きっと、Aチームとの交戦に戦力を使っているからだろう。
「行くぞー!」
カズシの号令で500人が階段を昇って行く。
僕もそれに続く。
タケルがいる王の間に着いた。
「なっ......!」
王の間には500人ほどの屈強な兵士達が控えていた。
その中央にタケルがいる。
「皆! 引くな! 進め!」
カズシの号令も虚しく、皆、後ずさりし始めた。
一般国民の雑軍と鍛えられた兵士軍では勝負にならない。
それにしても、一体何故、タケルはこれだけの兵士を用意出来たんだろう?
「お前らがここに攻めて来ることなどお見通しだ!」
タケルはそう言うと、大声で笑った。
僕らをバカにしたかのように。
「おい、カズシ。俺に歯向かうとは100万年早いぜ!」
タケルは自分の身の丈くらいある斧を持っている。
全身を黄金の鎧に包んで戦う気満々だ。
ズシズシ歩いて、王の間の中央に立った。
両軍、それを取り巻くように輪になった。
「カズシ。俺と勝負しよう。お前が勝てば俺は何でも行くことを聞くぜ」
周りがざわついた。
「カズシ......」
僕の声にカズシは小さく頷いた。
「分かった」
カズシは僕に背を向け、タケルの方に向かった。
だが、数秒後、彼は血まみれになって倒れていた。
つづく
コメント
VBA使い
防御力「力」 : 950
東の国の国民は10万「に」いる。
「カズシ」の号令と共に、皆が壁にハシゴを掛けた。
恒例の追い詰められ、来ましたね
桜子さんが一番
スパイがいたとか。。。やだなー。
foo
> カズシは僕に背を向け、タケルの方に向かった。
> だが、数秒後、彼は血まみれになって倒れていた。
余りの即落ち2コマ……もとい即落ち2行っぷりに唖然となったけど、これは一体どういう事だろう。
カズシは冒頭でケンタの策の甘さを指摘していたところからすると、ある程度冷静な判断はできるようだし、こんなやられ方をするのは不自然なような……?
現在のタケルの戦闘力がカズシの読みを大幅に上回っていたのか、はたまた肉親相手だとさすがに冷静さを保てなかったのか。
来週の展開が早くも気になる。
湯二
VBA使いさん。
コメントありがとうございます。
校正ありがとうございます。
>恒例の追い詰められ
一回ピンチは、物語の定石ですね!
湯二
桜子さんが一番さん。
コメントありがとうございます。
>スパイ
あれだけ人数がいれば、、、ですね。
湯二
fooさん。
コメントありがとうございます。
>これは一体どういう事だろう
カズシは噛ませ犬です。
>肉親相手
肉親相手だけに、カズシも力が及ばないと知っていながら、それを越えたかった、、、そう考えてます。