【小説 パパはゲームプログラマー】第十話 戦士の国5
「叔父さん。ゆ、許してくれ ほんの出来心だったんだー」
ボロボロになったカズシが、仁王立ちのタケルに土下座している。
さっきまでリーダーシップをはっていた威勢の良さは、もうどこかに吹き飛んでいた。
「反乱などと遊んでいる暇があったら、どうやって国民から金を巻き上げるか考えろ!」
「す、すまねー」
僕はこんな無様なカズシを見たくなかった。
僕は辺りを見渡した。
やはり、カズシじゃ無理だったか。
カズシが倒れても、この人数でタケルに襲い掛かれば勝てるかと思ったが、この兵士の数だとそれも無理そうだ。
すっかり怖気づいたBチームのメンバーの中に、きっと裏切り者がいるんだ。
そいつがタケルにこの反乱のことを密告したんだ。
「グルポ」
僕の後ろに立つ、屈強な角刈り戦士が頷いた。
こんなこともあろうかと、彼を雇っておいたのだ。
実は本当のこと言うと、僕はギルドでカズシと出会う前にグルポと出会っていたんだ。
サチエの能力測定器で彼の攻撃力が9999だったのには驚いた。
僕はすぐに彼を雇おうと思ったんだ。
「俺を雇うには999999999999999エン用意しろ」
当然、その頃の僕にはそんな大金なんて無かったから諦めた。
その後、カズシと組んでタピオカミルクティー屋をやったりスライム狩りで金を稼いだ。
稼いだ金で、グルポを雇いたかったからね。
だけど、彼が欲しい額の金なんてそう簡単に稼げなかった。
そうこうする内に、タケルの圧政が酷さを増して行った。
人々の不満を利用して反乱を起こすなら今かもしれない。
そう思った。
だけど、それは運頼みなところが大きかった。
だから、僕は昨日の夜、ダメもとでギルドにいる彼に声を掛けたんだ。
◇◇
「今は君が欲しいだけの金を持っていない。だけど、僕が将来、大富豪になったら君が欲しい金の倍をあげるよ」
「......」
「だから、力を貸してくれ」
「分かった。今回限りだ」
◇◇
僕とグルポの間には、カズシとの間にある友情なんてない。
あるのは金だけだ。
だけど、グルポの方が強いから信頼出来た。
「『スライムの欠片』の商売をやっている奴は誰だ!?」
カズシがタケルに締め上げられている。
「そ、それは、ケ......ケン......」
カズシが僕の名前を言いそうになっている。
やばい。
僕は思った。
復讐に友情は不要だ。
相手を打ち負かす圧倒的な力さえあればいい。
「やってくれ!」
僕の号令で、グルポがタケルに向かって行った。
次の瞬間、タケルの両腕と両足が吹き飛んでいた。
魔王討伐パーティ一番の戦士タケルは、ダルマになって床を這っていた。
さすがに、両手両足が無い状態では最強と謳われた戦士タケルといえども、どうしようもない。
「うっ、うわあああ......」
四散した四肢をかき集めようと、身体を芋虫みたいにくねらせている。
集めたって、くっつかないだろ。
僕はその様を見て、憐れだと思った。
「ひええ!}
兵士たちがそんなタケルを置いて逃げ出した。
そいつらをグルポが追い掛けて行く。
「おい! 貴様ら逃げるのか! 親衛隊はどこだ! こんな時のために高い金を払ってグランから雇ったんだぞ!」
もういいよ。
勝負は決まった。
僕の獲物はタケルだけだ。
「よお」
僕はしゃがみ込んで、タケルの顔を覗き込んだ。
「おっ! 貴様は、ケンタ! どうしてこんなところに?」
「そんなこと、どうでもいいだろ?」
僕はうつ伏せになっているタケルの身体を、爪先でゆっくり持ち上げて仰向けにしてやった。
「おっ! おい、こら! 動けないだろ!」
甲羅を背にした亀みたいに、短くなった手足(短くなったといっても、もうでっぱりくらいのものだが)をばたつかせた。
「ははは!」
僕は大笑いしてやった。
パーティを組んでいた頃、僕はタケルにいつも重い荷物を背負わされていた。
僕は重さに耐えかねて、仰向けに倒れた。
その様を、タケルは大笑いしていた。
同じことを今してやった。
「ケンタ......」
カズシがよろよろと立ち上がって僕の方に近づいて来た。
僕の豹変ぶりに驚いているようだ。
「さっきはすまなかった......」
僕の名前を言いそうになったことを気にしているみたいだ。
「いいよ。もうグルポが何とかしてくれた。カズシもよくやってくれた。あとはこの人を葬るだけだ」
僕はきっと、今、すごく冷たい目をしているんだと思う。
「すまない! 許してくれ! お前を平民にすると言ったのは、グランなんだ。俺はお前のことを評価してたんだ! だから、平民にするのはもったいないって言ってやったんだ。お願いだ! 俺には娘も嫁もいるんだ!」
娘も嫁もいるだと?
僕はマリナを奪われたんだぞ!
今頃、グランの奴に寝取られてるかもしれないんだぞ!
「貸してくれ!」
僕はカズシから無理やり剣を奪い取った。
それを、タケルの頭頂部に押し当てる。
「死ね!」
「待ってくれぇ! お前が一番復讐したいのはグランだろ? 奴の弱点を知りたいだろ? なっ?」
グランの弱点。
あの全ステータスがカンスト状態のグランに弱点があるのか?
あるとしたら、それが何なのか知りたい。
「それって......」
僕は下を向いて考えた。
一瞬油断してた。
「あっ」
顔を上げると、斧を口にくわえたタケルが僕の頭の上を飛んでいた。
鬼の様な顔で僕を睨みつけている。
仰向けで手足の無い状態から、どうやって弾みをつけて飛び上がったのか。
こんな目に合わせた僕への復讐心が、タケルの不可能を可能にしたんだろう。
首を振り口にくわえた斧を僕の頭に振り下ろしてくる。
血が降り注いだ。
僕の血じゃない。
頭が弾け飛び、胴体だけになったタケルが僕の身体に振って来た。
「ぐえ!」
僕はその身体に押しつぶされた。
一体何が起きたのか?
理解するのに数秒を要した。
遂に東の国を旅立つ日が来た。
「今までありがとう。じゃ、行ってくる」
「ああ。気を付けてな」
玉座に腰掛けるカズシに僕は礼を言った。
結局、世間的にはカズシが世代交代という形で東の国の首領という座におさまった。
彼なりにこの国を変えるんだと意気込んでいる。
「あの天井の穴をなんとかしなきゃな」
王の間を出ようとする僕の耳に、カズシのつぶやきが聞こえた。
僕は見上げた。
王の間の天井に巨大な穴が開いている。
数日前の反乱の日。
タケルが最後の力を振り絞り僕に斧を振り下ろそうとしたその時だった。
彼の頭が弾け飛び、僕は一命をとりとめた。
冷静さを取り戻した僕は、こういうことだと理解した。
空から王の間の天井を突き破り、タケルの頭に衝撃波が降り注いだのだ、と。
では、その衝撃波は何故、発生したのか?
誰かが発したのか?
都合良くタケルに命中したのも不可解だった。
王の間を後にし、城門をくぐり、僕は街に出た。
「ケンタ、頑張って来いよ!」
街の人や船長が僕を激励してくれた。
「ありがとう」
戦いの後、グルポはこう言った。
「いつかどこかで会うだろう。その時に、報酬は頂く」
彼は僕の有り金を受け取ることなく去って行った。
彼は本当に不思議な人だった。
だけど、きっとまたどこかで会わなければ。
彼にはまだ金を払っていない。
「寂しくなるけど、頑張ってね」
ギルドに行くと、サチエが僕の手を取って励ましてくれた。
「ところで次はどこに行くの?」
東の国に隣接しているのは、
魔法使いルビーが治める西の国。
僧侶コブチャが治める南の国。
そして、勇者グランの国。
「グランの国にすぐに行きたいです」
「無理よ」
「ですよね」
今の僕じゃグラン勝てないのは分かっていた。
グルポだけでなく、もっと強い仲間を見つけなければ。
そのためには、もっと金が必要だ。
その金だが、僕の手元には1万エンしかない。
この国の首領になったカズシに、僕は有り金のほとんどを渡したからだ。
カズシ、グランの圧力もあるかもしれないが、頑張って幸せな国を作ってくれ。
僕は南の国に向かうことにした。
僧侶コブチャが治める国だ。
彼は治癒魔法の使い手だ。
パーティを組んでいた頃、彼はトロルに襲われて瀕死だった僕に治癒魔法を使ってくれなかった。
その代わり、グランには惜しみなく治癒魔法を使っていた。
自分より地位が高い者には媚びへつらい、自分より地位が低い者には冷たい態度で接していた。
とてもマリナと同じ、聖職者とは思えない奴だ。
攻撃力という点では僕と同レベルのはずだ。
追い詰めてグランの弱点を聞き出してやる。
戦士の国編 おわり
コメント
VBA使い
999999999999999エン
→Oracle number型なら入るが、Excelの通貨型ではギリギリ入らない
「将来、大富豪になったら」
→家計簿はExcelでは管理できないので、Oracleを買ってください
奥さんのマリナなら使えるのでw
次の瞬間
⇒速っ
1890と9000の差なら分かるが、9000と9999の差ってそんなにあるもんですか?
じつは真の攻撃力は999999999999999やったりして
湯二
VBA使いさん。
コメントありがとうございます。
>999999999999999
999兆円ですか、この世界でつくられている紙幣よりも大きということにしておきましょう。
>家計簿はExcelでは管理
小遣い帳として使用していました。
>9000と9999の差
色々と隠しパラメータがあって、、、
桜子さんが一番
戦士の国編、お疲れ様でした。
湯二
桜子さんが一番さん。
ありがとうございます。
これからの展開にご期待ください。