【小説 パパはゲームプログラマー】第七話 戦士の国2
森を抜けると、そこに滝が現れた。
5メートルくらいの落差で、水が上から下へ降りてくる。
僕の顔に冷たい水しぶきがかかる。
「ここでスライム狩りをしよう」
カズシが僕にそう言うと、早速水の中からスライムが飛び出して来た。
「たぁっ!」
ブチュッ!
カズシの魔法剣でスライムは真っ二つになった。
数秒後、スライムから煙が出て消滅した。
後には緑色の『スライムの欠片』が残されていた。
普通の武器で倒した時の10倍の量だ。
「すげー!」
「この調子で、どんどん行くぞ!」
カズシは滝の周りにいるスライムを狩って回った。
僕はそんな彼のサポートに回った。
ご飯や飲み物を買って来てあげたり、肩や腰をマッサージしてやった。
そして、だんだん日が暮れて来た。
「今日だけで、100個採れた」
つまり、スライムを10匹狩ったとうことだ。
「どうだ?」
「う~ん。タケルの量に比べたら少ないね」
スライム島では、500人の労働者が一日に一人あたり5個の『スライムの欠片』を採っていた。
一日で2500個だ。
今日、僕らが頑張った分の25倍。
これじゃ、勝ち目がない。
「さすがにスライム島ほど、ここにはスライムはいないぞ」
カズシが仕方なさそうに言う。
「スライムが多ければいいんだよね。う~ん」
僕は考えた。
そうだ!
「スライムを繁殖出来ないかな?」
「どうやって?」
「それはこれから勉強するんだ」
次の日。
スライム狩りはカズシに任せて僕は街の本屋に向かった。
『モンスター大図鑑』
『スライムの特徴』
この二冊を買った。
専門書なので、結構値が張った。
出費が痛かった。
だけど、先行投資だ。
カズシがスライムと戦っている横で、一心不乱に僕は本を読んだ。
「スライムの大好物は米......」
「スライムの雄と雌の割合は、3対7......」
色んなことが分かって来た。
僕は早速、スライム繁殖のための設備を整えることにした。
まずはスライムを囲うための柵を作った。
乗り越えられない様に上にはネットを張る。
餌となる米を大量に調達し、ネットの隙間から放り込んで食べれる様にする。
即席のスライム牧場が出来上がった。
「生け捕りにしたぞ!」
タケルが雄と雌のスライムを一匹ずつ持って来た。
それを柵の中に入れる。
次の日。
スライムが三匹になっていた。
やった!
繁殖に成功したのだ。
子供のスライムが大人になるまで三日掛かる。
それまで待つことにした。
そして、三日後。
大人になった子供スライムを狩ってみる。
「あれ? 何だか? 色が悪いね」
『スライムの欠片』の色つやが悪い。
その後も、牧場で繁殖させたスライムがドロップする『スライムの欠片』はどこか品質が悪そうだった。
これじゃ高値で売れないなあ。
「多分、柵の中に閉じ込めて育てるのが良くないんだよ」
カズシがそう言った。
「確かに、野放しにしてるスライムの方が健康的で『スライムの欠片』の色つやも良いね」
僕は納得した。
「牛や鶏や豚も、のびのび育てられた方が肉も美味しいからな」
「そうだね」
僕とカズシは話し合った。
スライムにとってはのびのびと生活させた方がいいのだろう。
品質の良い『スライムの欠片』を手に入れたかったら、やっぱり放牧がいいみたい。
「しかし、野放しにすると逃げ出したり、今みたいに管理出来なくなるぞ」
「僕らが24時間見張るのは現実的じゃない。それに放牧となると見張る範囲も広い。だから、代わりにやってくれる人を探そうと思うんだ」
「人は金が掛かるぞ」
「そうだね」
牧場を作るのにだいぶ資金を使ってしまった。
もう無駄遣いは出来ない。
「何も人じゃなくてもいいだろ? 番犬とかでもいいだろ」
「それだ!」
僕は次の日、街に行って犬を10匹買って来た。
カズシが放し飼いにしているスライムを狩っている間に僕は犬をしつけていた。
僕のしつけじゃ犬が言うことを聞かないので、『調教』スキルを持つ人をギルドから雇って来た。
「任せとけ!」
ネスという50歳くらいの調教師のおじさんは、張り切って犬を番犬に育ててくれた。
僕はお金が足りなくなってきたので、船長とサチエに追加でお金をくれないかお願いした。
「追加融資ね」
サチエは10万エン出してくれた。
「将来、儲けさせてくれよ」
船長は50万エン出してくれた。
こうして、番犬に見張られた広大な放牧場で、スライムはのびのびと育った。
餌も見直した。
ただの米じゃなくて、栄養価の高いブランド米にした。
こうして僕のスライムは大量繁殖し、品質の高い『スライムの欠片』をドロップしてくれるようになった。
カズシは一人で一日当たり100匹のスライムを狩ってくれた。
一日当たり1000個の『スライムの欠片』が手に入る。
生産量じゃタケルにまだ勝てない。
だが、僕の『スライムの欠片』はタケルの物に比べて品質が良い。
太陽の下で、餌にこだわり、伸び伸び育てたからだ。
暗いダンジョンの中で土だけ食べて育ったスライムとは物が違う。
その証拠に......
「おおっ! これは素晴らしい!」
質屋に持っていくと、僕の『スライムの欠片』はS級と鑑定された。
品質にはS、A、B、C、Dというランク付けがされていて、タケルの『スライムの欠片』はC、Dという低品質らしい。
「品質が高いと、ポーションの上級、エーテルの素材にもなるんだ」
「へえ!」
今は生産量はタケルには及ばないけど、品質で勝負出来る。
これを安値で大量に売れば、タケルの『スライムの欠片』は売れ残るはずだ。
「問題は、どこにどうやって売るかだろ?」
カズシの問いに、僕は考えた。
「船長に相談してみよう」
僕は船長に相談しに行ったんだ。
「確かにスライム島のものより色つやがいいから、高値で売れそうだな」
船長は、僕の『スライムの欠片』を手に取ってそう言った。
「これを売りたいんです」
「うむ」
僕は船長の船を指差した。
「この船は『スライムの欠片』を、メルル王国まで運んでますよね」
「そうだけど」
「この船で僕の『スライムの欠片』も、メルル王国に輸送してもらえませんか?」
「う~ん」
船長が腕を組んで考え込んでいる。
「そりゃ難しいな」
「なんで?」
「だって、この船はタケル様の船だ。勝手に管理していない物を運んでバレたら、俺の首が飛ぶ」
......確かに。
「じゃ、僕を船員として雇ってください」
「またっ!?」
「で、『スライムの欠片』を私物として持ち込みます」
僕は袋一杯の『スライムの欠片』を見せた。
「だめだ、だめだ。そんなにいっぱい持ってたら親衛隊に怪しまれる」
う〜ん。
どうしようか。
ブオー。
汽笛を上げながら桃色の船が入港して来た。
「あの船は?」
「メルル王国の船だよ」
「へえ」
「タケル様の国はメルル王国から、農作物を輸入しているのだ」
桃色の船から沢山の野菜や果物が下ろされている。
それを見て、僕は閃いた。
「よし」
上手く行くか分からないけど、この方法で行くか!
「じゃ、とりあえず船員として雇ってください」
船長は僕の考えを聞くと、
「それは面白い」
と、僕を船員として再雇用してくれた。
次の日。
僕は船に乗って、メルル王国に着いた。
メルル王国は、グラン王国と同じくらいの人口、面積の国だ。
魔王からの侵略を受けなかったので平和だし、国民も穏やかだ。
「じゃ、行ってきます」
「おう」
船員として一仕事終えた僕は、船長に挨拶すると船を後にして街に向かった。
自由時間の間に、商談をまとめなくちゃ。
「ここだな」
船長に教えてもらった工場だ。
スライム島で採れた『スライムの欠片』はこの工場で、ポーションやらエーテルを作る素になっているそうだ。
「僕の『スライムの欠片』は品質がいいんですよ」
僕はポケットに一個だけ忍ばせておいた『スライムの欠片』を、工場長に見せた。
僕より背が小さく日焼けしたマッチョな工場長は、それを手に取ると目を細めた。
「おお! いい輝きだ!」
「でしょ? 買いませんか?」
「だけど、もう、グラン王国のタケルから輸入するって決まってるからなあ」
「うちの方がタケルのやつより品質がいいし、安く出来ますよ!」
「いくらだ?」
工場長の目が輝いた。
「15万エンでどうでしょう?」
「むむ、それじゃ今より高いじゃないか」
やっぱり、工場長はもっと安くしてほしいみたいだ。
「でもこの品質ですよ」
「確かに品質は素晴らしいが、値段がなあ......。せめて今の輸入業者と同じ額にならんかね」
「う~ん」
僕は悩んでる振りをした。
名案を悟られないように。
つづく
コメント
VBA使い
なかなか進まないRPGと違って、話のテンポがさくさくでいいですね。
foo
> ブオー。
>
> 汽笛を上げながら桃色の船が入港して来た。
や、
> 船長に教えてもらった工場だ。
あたりの描写からすると、メルル王国はかなり技術力が高い国ってことになりそう。
汽笛が使われるという事は、メルル王国は蒸気を動力に利用する機関を発明しているだろうし、「工場」なんてものができてる時点で、家内制手工業からも卒業していることだろうし。
動力源は果たして何なんだろう。現実世界と同じく石炭を燃料にしているのか、はたまた火属性魔法と水属性魔法を利用した魔導エンジンでも積んでいるのか?
湯二
VBA使いさん。
コメントありがとうございます。
多少の辻褄あわないところとか、無視して、どんどん進めてってます。
湯二
fooさん。
コメントありがとうございます。
>メルル王国はかなり技術力
魔王に侵略されなかった分、国が発展する機会が多かったのか。。。
確かに蒸気機関が発達しているところを書いているので、産業革命が起きた国とも考えられます。
※言われて、改めて考察してます。
>魔導エンジン
魔法を科学技術として使用している設定にするのか、魔法と科学は別にするのか、こういう世界を作るとき、一番最初に考えないといけないところなんでしょうね。
桜子さんが一番
いろんなスキルを持った仲間がそれぞれの仕事をする。気持ちいいw
湯二
桜子さんが一番さん。
>いろんなスキルを持った仲間がそれぞれの仕事をする
ITエンジニアのプロジェクトも、そんな感じになれば皆、ハッピーなのに。。。
※無理やりつなげてみる。