【小説 パパはゲームプログラマー】第六話 戦士の国1
ハーレム部屋。
俺は自分の寝室をそう呼んでいる。
沢山の女をはべらせて今日も酒を飲む。
まったく、グラン王に紹介してもらった『スライムの欠片』を売る商売は儲かって仕方がない。
まぁ、グラン王に上納金を納めなきゃいけないけど、それを差し引いても大した金額だ。
お陰で、俺は毎日こうやって自分好みの女たちと酒を飲み、遊ぶことが出来る。
これが桃源郷ってやつか!?
「タケル様」
扉越しに声がする。
またあいつか。
「なんだ?」
俺は苛立ちながら上着を羽織り、扉を開ける。
そこには黒い軍服に黒い帽子の男が一人。
我が国の親衛隊隊長・サトザキ。
相変わらず無表情で何を考えてるか分からん奴だ。
「なんだ?」
「カズシ様を今日、街で見掛けました」
「あいつ、また悪さしてたのか?」
カズシは俺の弟のタケシの息子だ。
つまり俺の甥っ子だ。
やたらと俺やタケシに反抗する面倒くさいガキだ。
「何? あいつがタピオカミルクティー屋を助けた?」
城を出たいなどとほざくから、好きにしろと言ったらこの様だ。
それにしてもタピオカミルクティーってなんだ?
「ほっとけ。その内、自分の力を思い知って戻ってくるわい!」
俺は早く酒池肉林の中で溺れたかった。
そんな俺をサトザキが軽蔑する様に、じっと見る。
俺は親衛隊が好きじゃない。
国の統治のために、グラン王からレンタルする形で仕方なく親衛隊を雇っているが、あいつらは報酬がやたらと掛かる。
かと言って、ケチケチしてると足元を見られて、そのことをグラン王にチクられかねない。
バタン!
俺は力任せに扉を閉めた。
「タケル様、気分直しにブランデーでもどうぞ!」
「私がお相手しましょうか?」
「何よ! 私が先よ」
女たちが不機嫌な俺のご機嫌を取ろうとする。
俺はそんな女たちに金をばら撒く。
我先にと、女たちが金を拾おうと醜く争う。
まったく、金さえあれば何とでもなる。
東の国の統治者になって一年。
俺にとってのこの一年は忙しく、短いものだった。
グラン王から東の国を治めるように言われた時は、これで俺も一国一城の主になれたと喜んだもんだ。
だけど、統治者という位置がこれほど大変だとは夢にも思わなかった。
武力一辺倒で生きて来た俺に政治なんて土台無理なのだ。
だからその辺は、弟のタケシに任せている。
ああ!
戦いたい!
剣を振り回したい!
パーティを組んで魔王討伐の旅をしていた頃が一番楽しかった。
いっそのこと反乱でも起こして、グラン王を倒してやろうか?
いやいや、それは難しいな。
だって、俺は嫁と娘をグラン王に人質として取られている。
今は『スライムの欠片』を他国や工場に高値で売ることで金を稼ぐことだけが生き甲斐だ。
『スライムの欠片』は様々な薬の原料になるということで、様々な場所で引っ張りだこだ。
俺が治める東の国が『スライム島』に近かったのと、船を所有していたことが幸いした。
グラン王がこの『スライムの欠片』貿易を俺に任せてくれたのは幸運だった。
金があれば何でも出来る。
いつか、俺の描く世界、そう、血の匂いがする戦いの世界を作りたい。
◇◇
僕がタピオカミルクティー屋を始めてから二週間が経った。
お客さんが連日列をなして来てくれた。
主に観光客や若い女の子が中心だった。
そんな中、船長やサチエ、そしてカズシもよく買いに来てくれた。
カズシはタピオカミルクティーが飲みたいというよりも、僕の店に親衛隊が攻めてこないか、見張りに来てくれてる感じだった。
「さぁ、今日もそろそろ終わりますかね」
空がうっすら暮れて来た。
僕は店の戸を閉め、売り上げ金を計算する。
コンコン。
「はい」
僕はノックに応える。
「ケンタ。俺だ」
カズシの声だ。
僕はカズシに自分の本当の名前を教えていた。
彼は僕の友達だからね。
「カズシ。こんな遅くに何だい?」
「お前に教えたいことがあって来た」
「ほほう」
「タケルがタピオカミルクティー屋を始めるそうだ」
カズシが言うには、タケルは僕のタピオカミルクティーが飛ぶように売れているのを見て羨ましくなったそうだ。
国をあげて街のあちこちにタピオカミルクティー屋を開店する予定らしい。
価格は僕の店より安い一杯30エンで売るそうだ。
「う~ん」
「どうする?」
「タピオカミルクティー屋は今日で閉店だね」
僕の答えにカズシは目を丸くした。
「いいのか? 今、儲かってるんじゃないのか?」
「うん。だけど......僕の店より安いうえに、沢山店を作って売られたんじゃ勝てないよ。全部お客さんを取られちゃう」
「確かにそうだが......」
「それに、そろそろ辞めようかと思ってたんだ」
僕はタピオカミルクティーを一杯50エンで売ることに限界を感じていた。
いくら頑張っても一日10万エンを稼ぐのがやっとだった。
そこから家賃や材料費を引くと、儲けは3万エンくらいだ。
もっと儲かる商売はないものかと考えていた。
「カズシ、君は『スライムの欠片』というのを知っているかい?」
「ああ。あのポーションとかいう傷薬の原料になるやつだろ」
「うん」
数日前、僕は盗んだ『スライムの欠片』を道具屋に持って行った。
売った場合の値段を訊いた。
「なんと、10万エンもしたんだ」
「すげえな」
時価だから、日によって値段は変わるのかもしれない。
だけど、たったひとつでタピオカミルクティー屋の一日の売上と同じなのにはビックリした。
「僕は『スライムの欠片』を集めてそれで商売がしたいんだ」
「確かに儲かるかもな」
カズシは頷いた。
「僕が『スライムの欠片』で商売したい理由は儲けたいからだけじゃないんだ」
「何だ?」
「タケルも『スライムの欠片』で商売をしている。僕も同じ商売をする。そして、奴の『スライムの欠片』の儲けを奪ってやりたいんだ」
僕は『スライムの欠片』をタケルより沢山仕入れて、他国や工場に安く売る。
いずれ、『スライムの欠片』は供給過多になって値崩れを起こすだろう。
そうなれば、タケルの財力は弱まるだろう。
反対に僕は財力が強まるはずだ。
その儲けを重税で貧困にあえぐこの国の人々に分配するんだ。
そして、皆で力を付けて反乱を起こすんだ。
「問題は『スライムの欠片』をどうやって集めるか、なんだけどね」
カズシは僕の話を聞き終わるとこう言った。
「俺に名案がある」
囁くように続ける。
「俺のスキルは『魔法剣技』なんだ」
カズシはそう言った。
「知ってるよ」
「このスキルは、ガチャを引いた時に手に入れたものだ」
カズシは親に反抗して城を出たその日、とある森の中で『ガチャ』と出会った。
その『ガチャ』を引いたことで『魔法剣技』というスキルを身に付けたそうだ。
ちなみに、その『ガチャ』はカズシが最後の一回を引いたから消滅したそうだ。
「で、これが魔法剣」
カズシが腰に差した剣を抜き取り、僕の前で一振りした。
刀身が明りに照らされてキラキラ輝いた。
『魔法剣技』スキルを身に付けた者が剣を持つと、その剣は『魔法剣』となるらしい。
そして、使えば使う程、『魔法剣』は強力になって行くそうだ。
「で、名案って何だい?」
「この魔法剣でスライムを狩ることだ」
僕はカズシが何を言いたいのか、まだ理解出来ない。
「どういうこと?」
「俺の魔法剣でモンスターを倒すと、モンスターはいつもの10倍の素材をドロップするんだ」
魔法剣に備わる『素材倍増《マテリアル・テン・タイムス》』という魔法。
それによって、モンスターを倒した後にドロップされる素材が、通常の10倍になるそうだ。
「例えば、スライムを一匹狩れば『スライムの欠片』は一つしか手に入らないが、俺の魔法剣で倒せば、『スライムの欠片』は10個手に入る」
スライムだけじゃない。
ゴブリンを倒せば、『ゴブリンの骨』が10個手に入る。
キメラを倒せば、『キメラの翼』が10個手に入る。
「すごいね!」
僕は感動した。
「俺が何でタピオカを沢山集めることが出来たか、これで分かっただろ?」
「そうか、魔法剣を使ったんだね」
カズシは頷いた。
「魔法剣で芋のモンスター『タロイモ』を沢山倒したんだ。そいつはタピオカをドロップする」
これでカズシの謎が一つ解けた。
ほんと、友達になれて良かったよ。
カズシは僕にこう言った。
「スライムはこの街を出て森を抜けたところに、そこそこいる。そこで狩りをしよう」
次の日。
僕はギルドに行った。
「タピオカミルクティー屋を辞めます」
「あら」
サチエが驚いている。
「新しい商売を始めます」
そう告げると、僕はサチエに約束通り二倍の敷金と礼金を払った。
「いらないわ」
「え?」
「君は商売の才能がある。その敷金と礼金はあなたへの投資金とするわ」
そう言われた僕は紙を取り出し、そこに投資してもらった金額と僕の名前『ルキ』と書いた。
「株券みたいなもんね」
サチエはその紙切れをそう呼んだ。
そう言えば船長もそんなこと言ってたな。
何だろう?
株って?
次に港に行き、船長に会った。
「タピオカミルクティー屋を辞めて、新しい商売を始めます」
「そうか」
イカツイ顔の船長は僕に「お疲れさま」と言って、10万エンを手渡した。
「お前は商売の才能がある。だから新しい商売にも投資しよう」
僕はまた船長に、金額と名前を書いた株券を渡した。
つづく
コメント
桜子さんが一番
なんだろう、半沢直樹臭がする。
VBA使い
1日8時間営業したとして、14.4秒に1杯か。なかなかのハイペース。
foo
> 魔法剣に備わる『素材倍増《マテリアル・テン・タイムス》』という魔法。
> それによって、モンスターを倒した後にドロップされる素材が、通常の10倍になるそうだ。
サラッと書いてあるけど、これは相当なチートスキル。
この書き方からすれば「ドロップしたときの数」が増えるだけで「ドロップする確率」自体は増えないだろうけど、確定でレア素材をドロップするボスキャラとの戦いなどで、是非とも使いたいスキルだな。
> 「君は商売の才能がある。その敷金と礼金はあなたへの投資金とするわ」
このパターンは二度目だけど、もしかしてこれって「商才」スキルのパッシブ効果か何かだろうか。
「遭遇した NPC に対し魅力判定をオート実行。その魅力判定に成功すると相手から融資を引き出すことができる」などの効果が働いていそうな予感……
……とも思ったけど、この世界だと魅力って能力値はそもそも存在してないか。
湯二
桜子さんが一番さん。
コメントありがとうございます。
>半沢直樹臭
復讐ものはだいたい展開が似てきますね。。。
湯二
VBA使いさん。
コメントありがとうございます。
ケンタが一日何時間働いてないのか書いてないけど、仕込みと店の掃除とかもやってるから八時間以上は働いてるはず。
空いた時間でチラシ配りもしてます。
湯二
fooさん。
コメントありがとうございます。
>相当なチートスキル
確かに。
実際のゲームとかでもこんなスキルあるのかな??
有ったらぜひ、ゲームの中で使って見たいです。
剣の技術が上がれば、ドロップ数も、率も上がったりなんかして。
>その魅力判定に成功すると相手から融資
ゲームにしたら面白そうな設定ですね。
>魅力って能力値
魅力は隠しパラメータなので、覗き見ることは出来ません。
上げる方法も明かされていない設定です。