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【小説 パパはゲームプログラマー】第二話 プロローグ2

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 いよいよマリナと誓いのキスを交わす。
 僕の胸の鼓動は高鳴った。
 マリナの真紅の唇が僕の唇と触れ合う--
 まさにその時だった。

「お前ら何をやっておる!」

 軍服の男達が、ドカドカと軍靴を鳴らしながらこちらにやって来る。
 グラン王国親衛隊。
 その真っ黒な集団はグラン王を守るため、国民を矯正するために構成された。
 僕は偉そうな彼らが大嫌いだった。
 参列者は恐れおののいて彼らのための道を作った。

「なっ、何をなされるのですかっ!」

 牧師様が僕らと親衛隊の間に立った。
 マリナのお父さんだ。
 親衛隊のリーダー(多分、この結婚式を邪魔するためだけに編成された部隊の隊長だろう)と睨み合う。

「あの女はお前の娘だな」

 髭もじゃのリーダーはゴツゴツした指でマリナのことを指差した。

「はい」
「グラン王が気に入ったそうだ。今から城に連れて行く。いいな」
「えっ......。娘は今日結婚するのですが......」
「王の命令だ」

 リーダーは牧師様の肩をポンポンと叩いた。
 グラン王国では王の言うことは絶対だった。
 親衛隊はその手足となって動く。

「くっ......」

 僕は怒りよりも怖くて何も出来ない自分に腹が立った。

「ケンタ......」

 マリナが僕の腕を掴む。

 グラン王が嫁探しをしているのは知っていた。
 彼の理想は高く、市井に美しい女がいればこうして連行して自分の物にしていた。
 一体何人の女が犠牲になったか分からない。
 僕は権力を持った彼を問い詰めたい。

 グラン、君は僕とパーティを組んでいた時、女性には優しかったよね?

 だけど、僕は結婚式を台無しにされた挙句、好きな女まで奪われようとしているのに足がすくんで動けない。

「勘弁して下さい! これじゃ娘も可哀そうだが、旦那になるケンタも可哀そうだ! ケンタは魔王討伐のために働いたのですよ。それに免じて許してやってください!」

 牧師様はリーダーの袖をつかんだ。
 リーダーは腰に差した剣に手を伸ばした。
 余りに素早い動作だったので、僕は何が起きたか分からなかった。
 ただ次の瞬間、僕の顔に真っ赤な血が降りかかった。

ドサリ......

 その音と共に牧師様の首が落ち、続けて首を失った胴体が膝をついて崩れ落ちた。
 僕は地面に真っ赤なバラの花が咲いたのを見たんだ。
 マリナの純白のドレスも真っ赤に染まっていた。

「お父様ぁ!」

 泣きじゃくるマリナを隊員5人がかりで馬車に乗せようとする。

「わー!」
「キャー!」

 見せしめとして殺された牧師様の死体を見て皆、逃げ惑っている。
 誰もマリナを助けようとしない。

「まったく。汚いものを切ってしまったわい」

 リーダーは剣に付いた血を振り払いながらそう言った。
 僕を育ててくれた牧師様。
 まるで父親の様だった牧師様。
 マリナのお父さんだった牧師様。
 もう死んだから、過去形の人。
 僕の中に怒りという名の火が着いた。

「ケンタ! 助けて!」

 馬車の荷台に乗せられたマリナと目が合う。
 もうどうにでもなれ!
 僕は怒りを勇気に転化して走り出す。
 必死だった。
 隊員の攻撃をかわし、馬車に追いすがる。
 もう少しで......伸ばした手が、マリナの手と触れ合う。

ゴン!

 後頭部に衝撃を受けた。
 僕は身体が痺れその場に倒れた。
 口の中に砂がじゃりじゃり入って気持ち悪い。
 意識が遠くなる。
 僕はマリナのことを守れなかった。
 このままじゃ、マリナがグラン王に寝取られてしまう。
 だが、負け犬で底辺に位置する僕には彼女を取り返す術も無い。
 何よりカンスト勇者のグラン王に勝てるわけがない。

 一週間後。

 僕は大陸から30kmほど海を隔てた離島にいた。
 『公務を妨害した罪』ということで島流しにされたのだ。
 そこで僕は朝から晩まで強制労働を課せられていた。

 『スライム島』は南北5km・東西6kmの自然豊かな島だ。
 元々は島の真ん中に100人くらい住んでいたらしい。
 だけど、グラン王国が侵攻して来たせいで島民は島の隅に追いやられてしまった。
 グラン王の独裁は大陸だけでなく近隣の島にまで及んでいたんだ。

 今、僕はそこで生活している。

 一年前、僕は魔王討伐の旅に出ていた。
 その頃の僕は、今の僕がここで強制労働させられている何て想像もしなかっただろう。
 人生は分からない。
 本当に分からない。
 まだ暗い朝5時に、親衛隊の隊員がやってくる。

「起床!」

 木材で作られたボロボロの宿(雨漏りもするし、ダニがウヨウヨいる)で雑魚寝している労働者を鞭で叩きながら起こす。
 僕は鞭で叩かれたくないから起床時間の10分前には目が覚めるようになっちゃったよ。
 何だか自分でも情けなくなる。

「早く食え!」

 わずかな米の飯と干し魚だけの朝食を1分で済ませると、縦一列に並ばされ作業場所へ連れて行かれる。
 島の中央に掘られた大きな穴がある。
 その中はダンジョンになっていて、地下5階まである。
 ここが僕の作業場所だ。

「おりゃあっ!」

 僕は棍棒を振り回している。
 スライムを狩るために。
 タイマツの明りだけが頼りの薄暗いダンジョンの中では、スライムに中々当たらない。
 しかも中は蒸し暑く、気持ちの悪い汗がじっとりと体から出てくる。
 空気も悪く激しい運動をすると咳が出る。
 僕以外の他の労働者も悪戦苦闘している。
 スライムは壁や天井を這いまわって逃げ回るから人間の手に負えない。
 それでも、一人一日最低5匹狩ることがノルマだった。
 ノルマを達成出来なかったら、晩飯抜きだ。
 ここでは食べることだけが唯一の希望なので、このペナルティは辛い。
 僕の様に大陸で何らかの罪(僕の場合はでっち上げだけど)を犯した人達はここに集められ、この強制労働をさせられている。

「おい、ケンタ!」

 浅黒い肌のオッサンが話し掛けてくる。
 
「はい」
「お前、もう8匹も狩ってるじゃねぇか。ちょっと俺に分けてくれねぇか?」
「あ、はぁ......」

 僕は『スライムの欠片』を彼に渡した。
 このオッサンは僕がここに来たばかりの頃、色々教えてくれた。
 親衛隊への接し方や、トイレの場所、適度なサボり方など。
 だから、お礼に僕の分をあげている。
 そしたら毎日欲しがるようになったのだ。
 『スライムの欠片』は価値があった。
 スライムは命を失うと、緑色の小さな塊になる。
 それは『ポーション』という傷薬の素材になったり、他にも色んなものの素材として使われるらしい。
 『スライム島』はその名の通りスライムが地下深くに大量に住んでいる。
 グラン王はそこに目を付けた。
 この島は領有権が曖昧だった。
 グラン王は我先にとばかりに、兵隊を送り込んで自分の物にした。
 そして、人工的にダンジョンを作り、その中に労働者を送り込んで『スライムの欠片』を集めだしたんだ。
 これを他国に高値で売ろうと考えているのか、自国で何かを大量生産しようとしているかは分からない。
 そんなことよりも、僕は、憎きグラン王のために働かされている今の自分が腹立たしくて情けない。

「おい、俺にもくれよ」
「えっ!? でも......もう」
「ケンタ、初日に俺に世話になったこと忘れたのかよ?」

 僕より屈強な男達が『スライムの欠片』を欲しがる。
 僕は他人に甘すぎたことを悔いた。
 ここにいる人たちには人間らしい余裕というものが無かった。

「やめんか! お前たち!」

 背後からしわがれた声が聞こえる。
 どこか聞き覚えがあるなあ。
 僕は振り返った。

「あっ! ディオ王様!」

 ビックリした。
 こんなところで、先代の王様に出会えるなんて。

「王様! どうしてこんなところに!?」

 ほんと、驚いたよ。
 先代の王様、ディオ・アフォン・エスタークが目の前にいるなんてね。
 長いからディオ王って呼ぶね。
 ディオ王は先代の王様なんだ。
 今のグラン王が即位する前に国を治めていた。
 そう、勇者グランに魔王討伐を依頼した張本人がこのディオ王なのだ。

「何だ、ジジイ邪魔だ」

 どうやら他の皆はこの人がディオ王だということを知らないようだ。
 無理もない。
 王様一族の顔を拝めるのは一部の人間だけだ。
 僕はグランのパーティに入っていたから王様に会うことが出来た。
 だから、僕は彼の顔を知っている。

「皆、この人はただのジジイじゃない。この人はな......」
「よいのじゃ。ケンタ」

 ディオ王は僕の肩を優しくポンと叩いた。
 そして袋から沢山の『スライムの欠片』を取り出し、皆に配った。

「ジジイ。見直したぜ!」
「ありがとよ!」

 ディオ王は皆の礼を無表情で受けている。
 そして、昼休み。
 約一時間の自由時間だ。
 皆、配給されたパンと水を口にする。
 ここで、人間は二種類に分かれる。
 ノルマをこなすために休み返上でスライムを狩る者。
 ダンジョン内の休憩室でむさぼるように昼寝をする者。
 僕は、今日、そのどちらでもない。
 ディオ王は僕を呼んだ。
 僕も訊きたいことが沢山ある。
 二人してダンジョンの外に出た。
 ダンジョンの周りは森になっている。
 鬱蒼とした暗い森の中を、二人して歩きながら話した。

「スライムなぞ、わしの魔法を使えばチョロいもんよ」

 そうだった。
 ディオ王は魔法使いだった。

 『毒餌《ポイズンバイト》』という魔法で、毒の餌(飴玉くらいの大きさ)を作り出しそれを仕掛けていたらしい。
 スライムはそれを食べて死ぬ。
 さすが!
 ディオ王。
 今はボロ布をまとっていても、王は王なのだ!

「だが魔法も注意して使わんとな。MPが中々回復しなくて困っておる。やはりここの食事が粗末だからかのう......」
「そうですね。ところで、ディオ王。なぜ、あなたはこの様な場所にいるのですか?」
「ふむ。わしもお前さんと同じく無実の罪でここに送られて来たのじゃ」
「無実の罪とは......?」
「グラン王を侮辱した罪らしい」

 ディオ王は勇者グランに王位を譲った後、相談役になった。
 王になったグランは独裁の限りを尽くし国民を恐怖で治めた。
 それを見かねたディオ王は、グラン王のやり方に異を唱えた。
 それがグラン王の怒りを買った。
 彼は権力を使い、ディオ王をこの『スライム島』に島流しにした。

「ひどい話ですね」

 僕はグラン王に怒りを感じた。
 そして、マリナの顔を思い出して胸が締め付けられそうになった。

「ケンタよ。そろそろお前がここに送り込まれて来る頃だと思っておったよ」
「え? 何故分かるのです?」

 僕が驚いて理由を訊こうとすると、一羽の鳥がディオ王の肩にとまった。

「こいつに色々調べさせておるからな」
「ピピピピ......」

 この鳥は王様のペット『ササミ』。
 人間の言葉を理解するスキルを持つそうだ。
 ディオ王とだけ意思疎通が出来るらしい。
 なるほど。
 ササミはどこへでも飛んで行ける。
 だから僕の状況も分かったのか。

「ま、そういうことでな。余生をここで過ごすことになったのじゃ」

 そんなこと言わないでよ、王様。
 あなたが王の頃は魔王がいたけど、ある意味、今よりマシだったなあ。
 僕はグランが許せない。
 元パーティの皆も許せない。
 牧師様の首を狩った親衛隊も許せない。
 彼らを倒したら、世界は平和になるのかなあ。
 
「ディオ王」
「何じゃ?」
「僕は愛する人を奪われました。グランに復讐がしたいのです」
「しー」

 ディオ王は口の前に人差し指を当て、周囲を見渡した。
 僕は口をつぐんだ。

「親衛隊がどこで見張っているか分からん。そういう話はな......。ここではない別の場所で話そう。それに、お前に見せたいものがある」

つづく

Comment(2)

コメント

VBA使い

@ITのトップページで、タイトルの丸数字が「?」に化けてしまいます
(私のAndroid Chromeで見た時ですが)


ステータスが上限越えたら、マイナス値になるっていうバグが残ってたらいいのになぁ

湯二

VBA使いさん。


指摘ありがとうございます。
なんだか、場所によっては①が?になってますね。
①とかなるべく使わない方がいいんでしょうねー。

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