常駐先で、ORACLEデータベースの管理やってます。ORACLE Platinum10g、データベーススペシャリスト保有してます。データベースの話をメインにしたいです

【小説 失格のエンジニア】第四話 彼女はS

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「では、竹芝システムさん。お願いします」

 そう目白部長に促された茶髪のイケメンが席を立った。
 プロジェクタにノートパソコンを取り付け、プレゼンを始めた。

「竹芝システムの新堀です。よろしくお願いいたします」

 雄一は競合相手のプレゼンを一言一句聴き逃すまいと身構えた。
 どこか弱点は無いか?
 それを質問タイムに徹底的に突いてやろうと思った。

「計画停止を除いて原則365日24時間稼働という要望を受け、当社はRACを用いた構成を考えています」

(可用性!?)

 その言葉を雄一は頭の中で何度も反芻した。
 笠松部長は可用性とかそういうことは一言も言って無かった。
 むしろ、『今のままでいいから安く確実にやってくれ』そればかりを言っていた。

「バックアップについては自然災害による被害を考え、データセンターに遠隔地バックアップを取ります」

 現行はexpコマンドによるダンプファイルのバックアップだ。
 しかもデータベースサーバのローカルディスクに取得している。
 これではサーバ自体が飛んだ時、ダンプファイル自体もお釈迦になる。
 雄一は現行踏襲を優先するあまり、そこまで考えが及んでいなかった。
 辺りを見渡すと、役員たちが熱心に聴き入っている。
 雄一は自分が一人取り残されていくような気がした。
 新堀のプレゼンは詰まることも無く、聴衆を惹きつけながら鮮やかに進行した。
 いつもは無表情の目白部長がそれを見て満足そうに笑っている。

(もしかして......)

 どういう理由か分からないが、ケチな府中屋の上層部は情シス経理課が目白部長になってからシステムに対する考え方が180度変わったのだ。
 それは今まさに、客からの要望をしっかりと反映した新堀のプレゼンを聴いていればよく分かる。

「以上です」

 一礼してプレゼンを終える。
 その直後、役員たちから次々に質問が上がった。
 その質疑応答の内容は前向きなものばかりだった。
 まるで新堀の提案でこれからプロジェクトを進めていくことが決まっているかのようなやり取りだ。
 プレゼンは完璧だった。

「くっ......」

 雄一は弱点を見つけようとしたが、それを見つけることが出来ず悔しさに呻いた。
 それでも一矢報いたいとは思っている。

(そうだ。新堀の提案にはコストの考えが無い。こんなにゴテゴテと新機能を使い、高スペックなサーバを大量に導入すればどれだけ費用が掛かるか。そこを突っ込んでやる)

 雄一が手を上げようとした時、和やかな雰囲気を切り裂く様な発言が会議室に響いた。

「そんなにシステムにコストを掛け過ぎていいんですか?」

 周囲がその言葉の主を一斉に見た。
 何もかもが滞り無く決まりそうなのに水を差すんじゃない。
 そう言わんばかりに。
 注目を集めたその男は腕を組んだまま、目白部長を見据えている。

「副社長、今のシステムでは遅いし信頼性も無いし、今後の市場におけるビジネススピードについていけませんよ」

 目白部長は愛想笑いを浮かべてそう言った。

「そうは言っても、うちの会社の人間しか使わないシステムだろ? そこに堅牢なデータの暗号化とか細かいデータの参照履歴の監査までする必要ある?」

 副社長と呼ばれた男はそう返した。
 興冷めしたのか室内はシンとなった。

「上場するにあたってシステムをしっかりしたものにすることは大事だけど、他にもやることがあると思います。支援してもらってるからって、何でもオペラキャピタルさんの言うことばっかり聴いてちゃだめですよ。父さん」

 四十代くらいと思しき副社長は、隣にいる杖を支えにして座っている老人に声を掛けた。
 老人は黙ったままだった。
 雄一は話に着いて行け無くなっていた。
 上層部の方で何か大きな話が動いていて、このシステムリプレースの案件にもそのことが影響しているのだろうとは思った。
 どちらにしても、自分はお客の要望に沿ったシステムを作るのが仕事だとシンプルに思っている。
 それだけにこういった政治的なやり取りは他でして欲しいと思った。

「まぁ、時間も時間だし今日はここまで」

 老人、やっと口を開いたかと思うと、それは閉会の言葉だった。


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 社に戻りグループウェアを立ち上げた。
 新着メールのランプが光っている。
 メーラーを開いた。
 「コンペの結果について」というサブジェクトのメールが来ている。
 雄一は胸を高鳴らせながらそのメールを開封した。

「ダメだったか......」

 雄一は福島課長に今日のコンペの出来について報告した。
 そして、落選メールが来たことも報告した。

「会社の名前は分かったか?」
「はい。竹芝システムという会社です」
「なるほど」

 課長はトントンと人差し指で机を叩きながら、上を向いたままだ。
 何か考え込んでいるのか。

「最近、他の案件でそこと争って取れなかったって話を良く聴くなあ」
「え!?」
「社員三十人程度の出来たばかりの会社だが、どこから集めたのかコンサルやPMの能力が高い人間ばかりらしい。その反面技術力は無いらしいが」

 新堀はあれで技術力が無いというのだろうか。
 それとも、外部に技術的な相談役がいるのだろうか。

「これで府中屋との契約は今月末までか」
「はい......」
「次の仕事を探さなきゃな......」

 派遣で外に出て働くことになるかもしれない。
 新人の時、一度だけ派遣先に常駐して仕事をしたことがある。
 その時、雄一はプロパーの偉そうな態度に疑問を感じ揉めたことがある。
 雄一としては社内にいて、自分の裁量で仕事が出来るほうが自分に向いていると思ったし、働きやすかった。
 憂鬱そうな顔をする雄一を見て福島課長はこう言った。

「私に考えがある」
「え? 何ですかそれ? 教えてください!」

 パッと目の前が明るくなった気がした。
 その様子を見て取った課長は満足そうに頷き、時計を見た。

「おっと、もう定時だ。今日はライブに行くんだろ? 取りあえず思いっきりストレス発散して来い。話は明日からだ」

 時計の針は17時30分を指していた。
 ライブは19時からスタートする。
 それまでにライブハウス「サマーダッシュ」に行かなければ。
 あらかじめ会社に用意しておいたスネアドラム、スティックそしてキックペダルを手に、会社を出ようとする。

 雄一は「キングジョージ」というバンドでドラムをやっている。
 大学時代にドラムを始めて、それから数々のバンドでドラムを叩き腕を磨いて来た。
 キングジョージには大学四年の時にヘルプで入った。
 それからはキングジョージでプロを目指したせいで勉学がおろそかになった。
 遂には留年までしてしまったが、そこまでしてもデビューは出来なかった。
 その後、幾度かのメンバーチェンジを繰り返しオリジナルメンバーはとうとう雄一だけになっていた。
 社会人になった雄一は、当初、バンドでプロになれたらとぼんやり考え仕事は上の空だった。
 しかし、桜子の影響で仕事に打ち込むようになってからはプロになるというその思いも消えて行った。
 今ではバンドは趣味として割り切り、仕事が優先になって来ている。
 高松鈴鹿(メンバー名:スズカ)というネットのメンバー募集で応募してきた女性ボーカルを迎えてからはメンバーも固定して来た。
 彼女と初めてスタジオで音合わせをした時のことだ。
 その歌声は割と爆音のキングジョージの楽曲を突き破り、メンバー全員に届いた。
 実際、その歌声に負けたエレキギターの音の方が聴こえなかったくらいだ。
 なんでも本人曰く、声の大きさのせいでカラオケマシーンを停めたことがあるのだそうだ。
 彼女の武器はそれだけじゃなかった。
 透き通った歌声は、バンドに退廃的でかつ美しいという矛盾する個性を与えた。
 スラリとした長い手足と黒いツヤのある長い髪。
 小顔で大きな瞳に白い肌という見た目の綺麗さもフロントとして必要十分な条件を満たしていた。

 あくまで趣味でだがバンド活動も充実し、仕事も充実して来た。
 府中屋の契約解除はその矢先の出来事だった。

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「それはそうと、明日のライブ頑張ってくださいね。楽しみにしています」
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 昨日の美穂の言葉を思い出した。
 彼女は、キングジョージの月二回のライブには毎回来てくれた。
 そう言えば彼女は、契約解除の本当の事情を教えると言っていた。
 ライブ終わりに彼女からそういった話を聴けるかもしれない。


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「あら、もうお帰り?」

 桜子に声を掛けられた。

「はい。これからライブなんです。安田さんもどうですか?」

 ダメもとで彼女にも声を掛けてみる。
 桜子については幾度となくライブに誘ったが、一度として来てくれたことは無かった。
 社交辞令的に「今度行くよ」とは言ってくれるのだが。
 そう考えると、毎回身銭を切って通ってくれる美穂がとてもありがたい存在に思えた。

「んー、今日かあ......丁度、予定も無いし行ってみてもいいかなあ......」
「え!? マジですか!?」

 まさか来てくれるとは思わなかった雄一は、大声で叫んでしまった。
 福島課長を始め他のメンバーが何事かと一斉に彼の方を向いた。

「だってしつこいんだもん。一回くらい行ったらもう誘わない?」
「そんなあぁ!」

 桜子はどこかSッ気があるのだろうか。
 そういえばエンジニアモードになった時も、雄一を呼び捨てにし、殴りつけたりもした。
 もうちょっと押してみるか、そう思ったとき、電話が鳴る音がした。
 福島課長がそれを取る。

「有馬。府中屋さんから電話」

(何だよこんな時に)

 と、心の中で悪態を吐きながらも電話に出ると目白部長の声がした。

「システムが全く使えないんだけど、見に来てくれ。今すぐにだ!」

つづく

Comment(4)

コメント

コバヤシ

これから盛り上がるであろう作戦会議を前に定時で帰らせてくれる上司さすがです

VBA使い

参照履歴の監査までする要ある?
→必要ある?


グループウエア
→グループウェア


カラオケマシーンが停めた
→カラオケマシーンを停めた


契約が残ってるから、適当な対応でいいや、と思うか、これを挽回のチャンスと思うか。
私は前者になってしまいそうな気がするorz

湯二

コバヤシさん。
毎度、コメントありがとうございます。
こんな上司ならいいんですけどね~って、話の都合上定時退社させました。

湯二

VBA使いさん。
毎度、コメントありがとうございます。
校正していただきありがとうございます。
だいたい三、四話くらい先まで書いてて、ここに載せる時に何回か読み返してるんですが、間違えちゃいますね。
そうですねー、主人公もライブに行きたいだろうしその辺の関係で対応が適当になるかもしれないです。

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