制度、制度というけれど……
前回のコラム「非常事態の備え、万全ですか?」の中で、子育てについての状況や万一の場合の対応について、普段から上司や周囲の仲間に相談しておくと良いのではと書きました。
私のところに相談にいらっしゃる女性ITエンジニアの多くの方が、将来の出産や育児に備えて、これらの制度や福利厚生が充実していることを、転職先の企業に望まれています。
フレックスタイム制や裁量労働制、短時間勤務制度など、育児との両立をバックアップしてくれる制度を設けている企業は着実に増加しています。しかし、そうした制度があれば絶対に安心なのかと言えば、必ずしもそうとは言い切れない部分があるのではないかと私は考えています。
以前、転職活動のサポートをさせていただいた女性ITエンジニアの金子さん(仮称)は、一次請けのシステムインテグレータの協力要員として、社員数20名ほどのシステム開発会社から大手証券会社に常駐していた際、社員から聞いた充実した育児制度の内容が忘れられず、現場を離れた数年後に一念発起、その証券会社への転職を成功させました。
ところが、入社してみて愕然としたそうです。
相当数の女性社員がいるはずなのに、その制度を利用した実績がここ数年でわずか3名。彼女が所属する情報システム部に限ると、なんと利用実績はゼロだったのです。
先輩の女性エンジニアにこっそりと確認してみたところ、社内は旧態依然とした男性優位の社風で、管理職はほぼ男性。
制度を利用しようとしても、「周囲に迷惑がかかる」「中途半端に仕事をしていても成果は出ない」などあまりにも無理解な言葉を浴びせられるような状況で、ほとんどの女性が、出産や育児の途中であきらめてしまうとのこと。
金子さんの転職をサポートするにあたっては、制度や福利厚生のこともさることながら、転職先の対象となる企業で、これまでに出産、育児を経て職場に復帰した方からヒアリングをしたり、内定後に女性社員の方との面談をお願いしたりして、実際の雰囲気を十分に把握できるよう配慮しました。
男性、女性ともにご自身が子育てを楽しんだ経験のある管理職の方が多く在籍するシステム開発会社への転職を成功させた金子さんは、来るべき日に向けて「今のうちに頑張らなきゃ」と、ハードな業務にも負けずに頑張っていらっしゃいます。
どんなに制度が整っていても、周囲の理解と協力がなければ、それは絵に描いた餅。
ある大手食品メーカーでは、ワークライフバランスに対する意識を高めるため、課や営業所単位での社員ミーティングを実施し、家族や趣味など、仕事以外のことについても話し合い、お休みや早退が必要な際に同僚の理解を得やすい環境作りをしているそうです。
「娘が急に熱を出してしまって……」
「大変! すぐに向かってあげて。仕事はみんなで調整しておくから!」
……こんな職場が日本中に増えていけば、ワークライフバランス型社会の実現も夢ではありませんね。