SEにプレゼンテーション能力は必要か?!
■テクニシャンとエンジニア
まず、システムエンジニア(SE)の定義から始める必要があるでしょう。
USのシステム開発業界では、技術力を持ったスペシャリスト、例えばプログラミングのプロフェッショナルやスーパー・インストラクターなどの技術者を「テクニシャン」という呼び、システムエンジニアとは明確に一線を画しています。
システムエンジニアとは、業務アプリケーションからインフラまでを対象として、顧客にソリューションを提供できる人材なのですが、これはどちらが上か、という考えではありません。
双方共にプロフェッショナルであり、プライドを持って仕事をするということでは、何も変わりません。
少し話が脱線しますが、USの技術者に仕事の話をたずねると、「現在の仕事が好きだ」「達成感がある」という答えが返ってきます。日本の技術者に同じ質問をすると、必ずといっていいほど、不服・不満の話になります。
しかし、技術者の転職率はUSの方がずっと高いのです。
これは何を表しているかというと、USのエンジニアは自分が属している企業を好きだと言っているわけではなく、職種が好きでプライドがあるということです。だから、どの企業にいるかは関係ないのです。
日本の技術者は、この職種のことを言っているのではなく、ほとんどが企業に対する不満を表現しています。
だからといって、積極的に転職を考える方は少ないようですが。
このように、USでは自分の職種に対する考え方が明確なので、「システムエンジニア」と「テクニシャン」は同等であり、どちらの仕事をする人もプライドを持っていると言えるわけです。
今まで日本では、職種自体の独立性はそれほどなく、プログラマ→SE→PMというキャリアパスが一般的でした。
しかし、近年、ITは企業にとって競合力を付けるための重要な武器となり、IT技術の進化のスピードも上がっています。従って、顧客の要求も幅広い範囲で深化し、技術エリアも多岐に広がりました。したがって、今までのように、ITエンジニアが多くの経験を積むことは、現実的に難しくなってきているのです。
US的になることが必ずしも正しい道ではないと思いますが、実質的に「職種」を意識した構図にならざるを得ない状況になってきている、と言えるのではないでしょうか。
そうすると、タイトルの「SEにプレゼンテーション能力は必要か」に対しては、自身が目標とする職種による、ということになります。
現在、日本で職種というと、オーソライズされた定義としてはITSSのものしかありません。
詳しい説明はしませんが、マーケティング、セールス、プロジェクトマネジメント、アプリケーションスペシャリスト、コンサルタント、ITアーキテクト、IT スペシャリスト、ITサービスマネジメント、カスタマサービス、システムディベロップメント、エデュケーションの11職種です。
※ITSSについては「キャリアデザインにITSSは有効!」参照
次の図は、これら職種の活動領域を求めたものです。
ここから考えると、いままで一般的にシステムエンジニアと呼んでいたのは、アプリケーションスペシャリスト、ITスペシャリストに当たることになります。厳密に言うとコンサルタントやITアーキテクトも一部重なるかもしれませんが、明らかなものだけに絞るとこの2職種でしょう。
しかも、今までのプログラマ級を除くとすると、各職種ともレベル3以上の条件がつきます。
なぜなら、レベル3からが独力でできる1人前であり、レベル2は指導されて実施できるレベルだからです。
つまり、アプリケーションスペシャリストとITスペシャリストというのは、顧客にソリューションを提供するというアクションの中心に位置することになりますので、この2職種の上位を目指す方々は、プレゼンテーション能力が必須になります。
また、キャリアパスで考えると、ITアーキテクト、PM、コンサルへもこの2職種を通る場合が多いので、それらをゴールとして考えている場合も、プレゼンテーション能力は必要となります。
「対顧客=ソリューションの提案と説明責任」の構図で、そのタスクを担う職種はプレゼンテーション能力が必須となるわけです。
■プレゼンテーションをするためのスキルとは
それでは、プレゼンテーション能力をどのように考えればいいでしょうか。
単にしゃべるのがうまいことでも、コミュニケーショ力が高いだけでもありません。
「伝えたこと」と「伝わったこと」は異なります。
伝わったことを確認することも必要だし、プレゼンの中での質問に対しても、問題発見力や解決力がないと適切に回答することができません。
対象となるスキルは、ヒューマンスキル系では次のものです。
- コミュニケーション・スキル
アクティブリスニング(受信)、アサーション(発信)
上司がわたしを分かってくれない ← 上司に分かるように伝えたか
(伝えたこと/伝わったことの違い) - プレゼンテーション・スキル
- ネゴシエーション・スキル
- アサーション・スキル
- リーダーシップ・スキル
- コーチング・スキル
- カウンセリング・スキル
コンセプチュアルスキル系では、ソリューション構築も入れると次のようになります。
- 戦略的思考力
- 情報感度
- 情報収集力
- 発信力
- 全体把握力
- 状況把握力
- 将来予想力
- 将来予備力
- 構想力
- 先見性
- 確実性
- 具現化力
- 戦略具現化力
- 戦略立案力
- 計画立案力
- 課題認識力
- 課題把握力
- 課題設定力
- 行動力
- 推進力
- 洞察力
- 創造力
- 発想力
- 探求力
- 探索力
- 解決力
- 統括力(広範囲にコントロールする力)
- 判断・意思決定力
- 推進力(確実さ)
- 推進力(力強さ)
※ヒューマンスキルとコンセプチュアルスキルについては「スキルとは何か~あなたは人に説明できますか?」参照
このように、プレゼンテーション能力は「ソリューションを構築するスキル」、および「ソリューションを顧客に理解させるスキル」という捉え方をしないと現実的ではありません。
コメント
ビガー
はじめまして、ビガーと申します。
興味深く拝読いたしました。
全体的にプレゼンテーションスキル(能力)というより所謂「地頭力」と
呼ばれているスキルに近しいものがSEには必要でしょうという話ですかね。
ビジネスマン全体にいえることでしょうが。
コラム内でたくさん羅列されているスキルの中でどれが重要でどのようにそういった
スキルをつければよいのか指針みたいなものが皆知りたい気がしますね。
私が思うに
1. 全体的な目的把握力
2. 目的に対応する課題解決力
3. 役割把握力
あたりに集約される気がしています。
このあたりのスキルがつけばプレゼンテーションもろもろは「自信」がついた状態に
なってしまえば自ずとできるようになるかなと。
高橋秀典
ビガーさん、
コメントありがとうございます。
おっしゃる通りだと思います。
私は前職で、若手エンジニアの育成を課題として捉えていましたが(人材育成担当ではありませんが)、その流れで自分でも思わぬ方向になり、現在のビジネスにつながっています。ビジネス上どうしても、企業相手になってしまうので、初志のエンジニア個人に対する思いが、薄れてしまうのを何とかしたい、常に意識しておきたい、という考えでコラムにストになりました。
特に強く感じるのは、指示されたことはそつなくできるエンジニアが多いのですが、イマジネーションやクリエイティブな感覚を持ち合わせているエンジニアは少ないと思います。
今までは、そういったコンピテンシー系のスキルは、本人の持って生まれたもので、どうしようもないものだと定義されていましたが、最近の流れは育てていくものという形に変化してきています。
自分の持っている良さをいかに気づいてもらうか、そのためには何をどうすればいいか、エンジニアの視点でこれからも追求していきたいと思います。
よろしくお願いします。