ITエンジニアの実態と不安 ~IPA『IT人材白書2010』最終版より
前回、5月初旬に発表されたIPA『IT人材白書2010』概要編を元にアンケートデータを紹介しました。先日、最終版が発表となりました。
ひととおり眺めましたが、一番気になったのは「キャリア」についての考え方、そして先が見えずに将来を不安視しているITエンジニアの実態が浮き彫りになっていることです。
下記の図は、現在IT系企業に勤務している人への質問です。「なぜIT業界を選択したか」を年代ごとに集計したものです。
上位の3つを見ると、年代に関らずIT系の仕事自体は面白そうに見えていたということがうかがわれますが、「将来性がある」と答えたのは20代以外の世代であり、しかも倍ほどの開きがあるのが象徴的です。この傾向は、3番目の「先進的だと思ったから」という項目でも見られます。
20代の若手からすると、就職する前は「仕事は面白そうだが、将来性や先進性の点では評価していなかった」ことになります。
4番目の「技術やスキルが身に付きそう」という回答は、次の図の「定年までIT関連の仕事を続けたい」という考えにつながっているようで、IT業界の将来を考えると少しほっとする部分です。
前回お話ししたように、給与に対しての満足度はそれほど高くありませんが、かといって他業界と比較して特段IT系が低いとはいえないという結果が出ました。また、勤務環境も良好だということで、いままで言われていた3Kのイメージが変化してきているといえるでしょう。
しかし、一方で自身の将来についての不安が顕著に現れています。
次の図は、将来のキャリアに対する不安の内容を示しています。
「いま自分が持っているスキルが将来通用しなくなるのではないか」という不安がダントツで1位です。これはクラウドを筆頭に、SOA、BPMなど目まぐるしく変化するビジネスモデルや技術動向についていけるか、そのためにどうすればいいか分からないなどというところから来ていると考えられます。
次の図は「自分の将来の目標を持っているか」というアンケート結果です。
「明確な目標を持たない」という回答が圧倒的ですが、なぜ自分のキャリアについて考えないのかという理由が、次の図で示されています。
仕事をこなすだけで精一杯というのは、勤務環境が良好という結果からも、時間不足の問題ではなくて、能力とやる気の問題だと推測されます。
つまり、極端に言うと、「仕事をする時間は仕事をするだけで、ほかのことを考える余裕や気持ちがない」ということかもしれません。
なぜ考えられないか。下記では、「将来設計に関して企業が責任を果たしていない」という技術者の気持ちが見えます。
60%以上のIT人材が「キャリアパスを提示するのは会社の責任である」と考えています。
それに対し、企業側の同じく60%強が「キャリアパスについては個人の責任である」としています。
ここから、キャリアアップに関して、企業と個人が押し付け合いをしているという構図、また、個人の考えとして自身のキャリアアップは大きく企業に依存している、ということが見えてきます。
キャリアアップのために、キャリアパスの提示だけではなく、企業として実施してほしいこと(実施中も含めて)をまとめたものが、次の図です。
たとえば、キャリアカウンセリングについて、50%近くの人が必要だと考えているのに、現実は10%強しか実施されていないということになります。
プロフェッショナル・コミュニティに関しても、同様の傾向です。
キャリアカウンセリングなどは、企業が専門家を用意しないと現実的には実施不可ですが、コミュニティなどはやる気さえあれば、現場から声を上げて進めることは可能です。
企業ができること個人のできることを明確にして、どうするかを考えること、つまり目的-手段と役割分担を決めることはできそうです。
やる気次第でしょうが、このあたりがヒントになるのでは……と考えています。
皆さんはどう考えますか?