エンジニアとしてどうあればいいのか、企業の期待とどう折り合いをつけるのか、激しく変化する環境下で生き抜くための考え方

年頭コラム 「作らない時代」にITエンジニアはどう立ち向かうか

»

 企業における戦略的IT活用を推進していくIT人材の役割は、今後ますます重要になると考えられます。しかし、その能力向上を妨げる大きな問題が表面化している側面も明らかになりつつあります。

 昨今のオフショア開発の拡大や、今後はクラウド・コンピューティングの普及が現実的なものになることから、「ソフトウェアを作らない時代」への急速なシフトが考えられます。

 それに対応するIT人材の可視化や能力定義が喫緊の課題となっており、さらに作らない時代へのシフトから、OJTなどでの経験を積める環境が無くなる可能性が大きく、IT人材の能力向上策やキャリアプラン策定に、大きな障害になることが考えられます。

IT人材の将来は

 IT企業では、筆者の知る一番深い下請け構造は16階層でした。大手が請けて利益を差引き、下請けに投げるというゼネコンのようなシステムです。下請け構造が一概に悪いとは言えませんが、少なくともIT業界の場合は、マイナスに作用してきたことは確実です。これでは、元請けは外注管理(これをプロジェクト管理と呼ぶらしいですが)で、下請けは部分的な開発になってしまい、全体観が分からずどこにもスキルやノウハウが蓄積できない、非効率なモデルだと言わざるを得ません。

 ここ数年は、何とかこの下請け構造を脱する必要があるということで、国が有識者を集合させて策を練ってきたわけですが、それも必要なくなる可能性が高いと思われます。

 何故なら、ご存知のSaaSやクラウド・コンピューティングの出現で、そんなに遠くない将来「開発しない」という方向に大きく舵を切ることになると予想されるからです。アジア勢と開発単価で競うこともなくなるでしょう。

 一方、企業の情報システム部門、および情報システム子会社のIT人材は、新規システム開発が少ないため、総じて運用管理やメンテナスの作業に従事しているという現実があります。

 また、アウトソーシングやパートナー企業への一部業務委託を多用している場合が多いため、外注管理的な業務が増え、IT戦略策定やその実現のためのシステム開発に携わることのできる人材は、ごく一部に過ぎないというのが実情です。

 これでは、経験実績を積む機会に乏しく、間近に迫るクラウド・コンピューティングの時代に対応するための能力開発に支障をきたすと言わざるを得ないでしょう。

 ITサービス企業、ユーザー企業の情報システム部門、情報システム子会社に共通して言えることは、今後必要なコア人材として、大きく次の3通りの人材が考えられるということです。

●イノベータ

 IT活用に有効かどうか常にアンテナを張って新しいテクノロジや製品を察知し、その評価や選定などを主導し新しいことを発想するする人材

●アーキテクト

 様々な技術を活用して統合的なアーキテクチャを構想する人材

●コンサルタント

 業務改革や課題解決を主導し、クラウドで提供されている様々なファンクションをインテグレートできる人材

 これからの変化を乗りこなしていくために、「イノベータ」「アーキテクト」「コンサルタント」の3種類のコア人材をモデル化した上で、早期育成していく必要があります。

これからのIT人材の能力定義

 作らない時代におけるIT人材のあり方について、明確な能力定義をすると共に、能力向上を促進するための手順、および実現策を明確にしていく必要があります。

 能力定義については、経済産業省/IPAから公表されているのITスキル標準(ITSS)/情報システム・ユーザースキル標準(UISS)などがありますが、双方共にクラウド・コンピューティングなどの最新技術、および激変するであろう環境を想定していないことで、かなりの見直しが必要であると考えられます。

 それらの見直しによる改善は、期待できるものの少し時間がかかるものと思われます。新バージョンの公表を待ちつつも、先行した対処が必須となるでしょう。

 その前提において、IT人材の能力開発の考え方としては、先の3つの人材モデルをベースに、次の観点を入れ込むと効果的です。

  • 知識ベースと応用力でカバーできる能力と、経験実績を積上げなければ形成できない能力の明確な定義
  • 次世代の環境に合った企業IT戦略を具体的に策定、実現できる人材
  • 比較的少数での戦略的IT推進体制と役割の実現
  • 企業で経験できない研究、開発(ものづくり)などに関する「経験する場所」の確保
  • 能力形成のための効果的なOff-JTとOJTの結合

「経験することができる場所」の考え方

 機会減少が著しいと考えられる経験実績を積み上げなければ形成できない能力を対象にし、その向上を図るための施策を具体化していく必要があります。

 例えば、企業とは離れた位置づけで、実証研究する場所(コミュニティなど)を設けるなどです。企業での実運用を前提とし、新技術を活用した業務システム開発を行うことで、企画から運用にいたる実経験を積むことができるようにするということです。

 対象システムは、SNSのようなものから、既存システムをクラウド化するようなものまで、幅広い選択枝がありますが、これらを実現するためには、企業の協力が不可欠です。

Comment(0)

コメント

コメントを投稿する