エンジニアとしてどうあればいいのか、企業の期待とどう折り合いをつけるのか、激しく変化する環境下で生き抜くための考え方

職場評価の傾向分析 ←職場を評価してみよう! 自分が成長できる環境ですか?

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  前回のコラムでは回答ありがとうございました。

皆さんが働いている職場を評価してもらうために、10個の質問を投げかけました。

 (1)従業員の持っている能力のレベルを測定し、高めていく仕組みがあるか?

 (2)それは、教育研修と連携しており、従業員の多くが活用しているか?

 (3)会社から新しい仕事や学習のための機会を提供しているか?

 (4)それは、従業員側から手を挙げて挑戦(参加)できるか?

 (5)それらは、職場の活性化やモチベーションの向上につながっているか?

 (6)それらは、多くの職場で活用されているか?

 (7)従業員の強みや持ち味、希望を把握した上で、組織力(プロジェクト含め)が最大化されるような体制になっているか?

 (8)経営層、職場リーダークラス側は、(個別では無くて)組織(プロジェクト)の最適編成を進めるような意識を持っているか?

 (9)経営層と職場リーダークラスとの意識を合わせの定期的な対話などが日頃からなされており、経営に生かされているか?

 (10)職場リーダークラスが最適なマネジメントができるように、適切な教育が実施されているか?

 回答の仕方は、次のようにお願いしました。

 そう思わない:0
 ややそう思う:1
 そう思う  :2
 強くそう思う:3

 12名の方から回答が寄せられました。ありがとうございました。結果は次の表のとおりです。

It_work_analisys_2

(クリックで拡大)

 大企業の方が1名、11名の方は中小企業との回答です。残念ながら母数が少ないので、平均値(3.67)などはあまり意味がありませんが、全体に低めのポイントになったのは、IT企業の実態を表していると思われます。

 質問の形態としては(1)~(2)が、効率的な育成計画を進めるための仕組みのあるなしを聞いていて、(1)で0を回答すると(2)も0になってしまうことになります。(3)~(6)も同様で企業の姿勢や制度のあるなしを聞いています。以外は独立した質問ですので、全体で6つの分類の質問となります。

 単純に各質問への回答が2以上で、10問あることから合計20ポイントあれば、成長できる環境として満足できそうな状態だと言えますが、先ほどの6分類での加重平均を考えると、12ポイント以上でそれに近しいと割り切ることも出来ます。

 また、質問内容は先に進むにつれて、「企業での実施は難しい」とされている内容にしています。

 ポイントの順でいくと、10番目の中小企業に勤務の回答者が11ポイントと最高で、2位の8番目の大企業勤務の方の8ポイントを上回っています。ほかは、ほぼ1桁前半に集中しています。また、合計ポイント0の方が2名ですが、質問内容と実態のかい離が大きすぎて、どこにもポイントが付かなかったと推測されます。今回アンケートの回答人数が12名と少ないのも、同様のことが原因であきらめた方もいたものと思われます。

 あくまで、この12名の方の回答からですが、次のような傾向があります。

  • ITエンジニアの能力を測定して効果的な対処を考えるための仕組みがない
  • (3)~(6)で示される「育成に対する企業の姿勢や制度」はそれなりに用意されているが、有効活用の面では今一歩物足りない
  • 仕事のアサインやプロジェクトの体制作りには、本人の強み弱み、希望などを考慮されていない場合が多い
  • 経営層と職場リーダーのコミュニケーションは、企業によってかなり格差がある
  • 職場リーダークラスに対して適正な教育がされていない

 筆者の経験では、自身のスキルやキャリア向上を目指しているITエンジニアは、能力測定などの見える化の仕組みを取り入れることに大賛成ですが、あまり技術力に自信がなく向上心も低い人は、拒否反応が激しい場合が多いと言えます。

 分かりやすく言うと、残念ながらITエンジニアと言えど、上だけを見て要領よく立ち回っている人もけっこういるということです。

 また、能力をしっかり把握できないということは、好き嫌いや過去の経緯、上司の言いなりでプロジェクト体制などを決めている場合も多いでしょう。

 ただ、現実には人もいなくて現有勢力でやるしかないということや、直感でのアサインであってもかなり的を得るような優秀なリーダーがいることは確かです。しかしながら、しっかり能力を見極める仕組みがある方がいいに決まっています。

 IPAの『IT人材白書2010』のIT企業のアンケートでは、人材過剰の傾向が現れています。スキルを持っていてやる気のある人材しか登用されなくなるという流れです。企業がこぞってITSSなどの可視化の仕組みを取り入れつつありますが、ITエンジニアも恐れることなく、実力を出していくための準備をしていくことが大切でしょう。

 経営層の考え方は企業によって千差万別ですが、筆者の考えは「経営方針に共感が持てて、この会社と一緒に進みたい」と思わなければ、早く別の環境を探したほうがいい、ということです。説明の必要はないと思いますが、要は「魅力を感じない企業にいても、自らの成長はない」と考えるからです。これは、自分には無理とあきらめてしまうことや、逃げることを言っているのではありません。チャンスは向こうからやって来ないので、自分でつかみ取るしかないのです。視点を変えることも含め努力をした結果、出てくる決断だと考えます。

 もちろん、生活があるので簡単に割り切れるものではないのは誰もが承知していると思いますが、達成感がないことほど、モチベーションが下がることはありません。仕事でやる気が出ない場合は、仕事以外のプライベート側を充実させることに比重を置くしかありません。その場合、給料をもらうただけのために仕事をするということになりますが、昨今の人員過剰傾向や成果主義の中では、将来どうなるかが予測できません。

 また、1日8時間以上、1週間に5日以上、体力も気力も充実した時期を仕事に費やすわけですから、仕事に面白みや達成感がないということは、自分の人生の上でかなりのインパクトになるに違いありません。

 そうなると、自分の実力を上げて達成感のある仕事や立場を勝ち取っていくしかないということになります。

 このような現実の中、筆者の提言は「個人でPDCAを回す」ということです。

  • 3年後の自分のなりたい姿を強く思い描き、能力、立場、処遇を詳しく定義する
  • そうなるためには何をしなければならないかを、半年単位に具体的に計画する。計画できないような目標であったなら変更する
  • 半年後に計画通りに進められているかをセルフチェックする。チェックして取り戻せないようなギャップがあれば、目標も含めてリプランする

 以前も書きましたが、「なりたいと思う姿を描けない限り、そうなれるわけがない」ということです。

 目標を持ってそれに向かっていくくせをつけないと、毎日の仕事に追われ時間だけが過ぎ去っていくということになりかねません。

 この考えで、自らを高めようとする姿勢を持つITエンジニアは、必ず花咲くと信じています。

Comment(2)

コメント

pokky

この分析だと、従業員のレベルに対して会社側の社員教育システムが十分追従できるぐらい「社員のレベルが低い」事を前提にしなくてはいけません。しかし、実際には社員教育システムが会社の業務実態に全くあっていない事が多い。それどころか業務内容的には業界最新の知識を必要とし、社員はそちらを追いかけているのに、十分古くなって「教育するうえでのノウハウ」が蓄積された後の内容を社員教育としていたりする。

さらに、これは日本の企業に置いて多く存在する困った現象ですが、本来5日間ぐらいかけて重要なポイントを何度も繰り返すようにデザインされている教育プログラムを、「2日に短縮」などとして詰め込むため、一部の「本当に教育が必要な社員」までも脳みそをあふれさせる結果に終わり、結果として2週間もすると教育の成果がきれいさっぱり消えている…。

このように「教育の質」を問わずに「教育しているかどうか」だけで判断しているのでは、判断基準としては極めて甘い、と言わざるを得ません。逆の言い方をするなら、「教育できないぐらい高いレベル」と「教育していないぐらい低いレベル」の区別がつかない程度の職場評価であると気がつかない段階で、その人がいる職場は程度が低い、と断言できるでしょう。

高橋秀典

pokkyさん、

コメントありがとうございます。高橋です。

職場主体の評価として組み立てているので、エンジニア個人についてもう少し加味する必要がありそうですね。検討してみます。

 私は教育を提供する立場ではありませんが、前職の時代でもpokkyさんと似たような思いを持っていました。
 社員教育の担当者は、例外なく現場で役に立たない、年齢もいっていて年下の上司が使いにくい人、ということになっていました。自分の将来が見えていて希望も無い(と思われる)人が、社員のスキルを高めてモチベーションの上がる、現状に適したプログラムを作ることは難しいと思います。事実、声の大きい人の言うことを聞いて適当なトレーニングを企画していた、という感じです。

 例えば、どこかの営業責任者が、たまたま客先で恥をかいたり指摘されたりして、「うちはJAVAが出来るエンジニアが少ないのではないか、至急対処しろ」という具合です。担当者はあわててサンマイクロと話しをして、何日間かのコースを設定して、社内にリリースする。そうすると、トレーニングが必要なエンジニアは忙しくて受講できず、暇な人間が応募する。せっかくトレーニングで得た知識も現場で使わないので、すぐ使い物にならなくなり、忘れ去られる。
 これでは、コストカットの際に、一番に教育費が削られるのも当然と言えます。

 IT業界は、人さえ集めればお金になる期間を長く持ちすぎました。自分もその真っ只中にいましたが、振り返ってみると、PMとして人を集めることに精を出しましたが、人材を育成することについては、ほとんどノーケアでした。それで成り立ってしまった世界だったと思います。優秀な人間に仕事が集中してつぶれてしまうこともしばしばでした。
 他業界では、人材育成担当に優秀で将来を嘱望されている人材が就きます。IT業界とは正反対ですね。
 さすがに最近は、私の知る限りですが、そんな状況はよくないことを認識し、人材育成に優秀な人材を当てたり、コストを割く企業が増えてきました。(そうは言ってもまだまだほんの一握りですが)

 言われるように、教育の質はとても大事だと思います。指摘されているのは、提供されるトレーニング内容そのものより、経営者や管理者が何が必要だと思っているか、その内容に適したトレーニングかどうか評価できるか、効果があったかどうかを判断する考えを持ち、行動しているかだと思います。私もその通りだと思っています。

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