システム要求分析に通じる福山雅治の論理的思考
先だって放映されたTV番組「トップランナー」で、福山雅治を取り上げていました。NHK大河ドラマ「坂本龍馬」で人気爆発の彼ですが、忙しい中、ひとときの休日を自然に囲まれた環境で過ごすという設定でした。
その後半で、彼が作詩する場面がありました。見ていると、われわれがシステム構築を進める場合の上流工程、システム分析の中でもシステム要求をまとめる要求分析の局面で使用する、ロジックツリー法と同じ手順で進めているのに気付きました。
実際は、進行役のCMクリエータ箭内道彦が考えた詩を、福山雅治が組み立てなおし、メロディをつけるという流れでしたが、その作詩の部分に目をみはりました。
前もって作られた歌詞は、次のようなものでした。
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-I Think-
僕は思う
「がんばったね」ってのは
一番悲しい言葉なんだと
僕は思う
緊張するのは
あなたを大事に考えているからだと
僕は思う
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特徴的な詞をいきなり見せられた福山雅治は、それを360度検証するところから入りました。
「がんばったね」といったのは、悪気があったとは考えられない。だから「悲しい」とはならない。従って、「一番悲しくてうれしい言葉なんだ」、もしくは「一番くやしくてうれしい言葉」では?
ここに、「なぜ」という観点が入って理解を増す意味合いが注入されたことと、悲しいというオリジナルを大事にするという感覚がうかがわれます。
次に、「緊張する」のは「自分を自分以上に見せたい」とするほうが分かりやすいという話がありました。これも、先ほどと同様で「なぜ」という観点が入って分かりやすくなっています。
この一連の作業の中で、「吐露したものからさかのぼっていく」という話もありました。つまり、現状をできるだけ素直に表現して、その原因を「なぜ」という観点で追究していくのです。
さらに、「導入部分が重要」、ということや「さび(強調)は?」ということも出てきて、これぞ見ている側が分かりやすい、いいたいことを理解しやすいものにするという感覚です。
そのあと一文づつ紙を切り取ってテーブルに並べ、目的-手段で並べ替え、構造化をはじめたのです。KJ法ではないですか!
これには心底驚きました。
なんと論理的な思考なのでしょうか。彼の作る歌詞が、どうして分かりやすく、なぜ心に響くか分かったような気がしました。
■ロジックツリー法
ここで、論理的思考のメインストリーム、ロジックツリー法を簡単に説明します。 大きく分けて「目的-手段」で組み立てる、「全体-部分」で組み立てる、「結果-原因」で組み立てる、の3通りです。要件分析で使うのは、システム要求を目的-手段で組み立て、要求モデルを策定するという方法です。
残念ながら、おととしお亡くなりになった川喜多二郎先生の「KJ法」を使い、次の図のように同じ目的のものをグループ化し表札を付ける、今度はその表札を同じ目的のものでグループ化し、表札を付ける。この作業を繰り返して階層化するのが、ボトムアップ的なアプローチです。
ただし、これだけだと、上位に向かって拡散していく傾向があるので、トップダウンアプローチと併用してまとめていきます。
最上位は、新システムを構築する一番の目的になります。その下位はそのための手段、今度はその手段を目的と読み替えて手段を見いだす。これがトップダウンの考え方です。
上から2、3階層目くらいまでは、新システム構築の目的を把握できていれば展開することが可能です。
そうしておくと、ボトムアップで積み上げるときに目指すべき位置が見えやすくなります。それらがうまくつながらないときは、どこかか矛盾しているということなので、見直しをすればいいのです。
こうしてボトムアップとトップダウンを併用しながら要求モデルとして組み立てていきます。
■WHYツリーの活用
そうはいっても、うまく展開できない場合に必ず遭遇することになります。
例えば先の要求モデルの中で、「部品表を起こす工数の削減」とありますが、そのためになにをすればいいか分からない、といったようなケースです。
こういう場合は、ロジックツリー法で原因解析すると分かりやすく解けます。一般的に「WHYツリー」と呼ばれていますが、次の図のように結果から原因を導き出していくのです。
次の図は、結果から原因を突きとめるために展開した例ですが、問題を解決するにはツリーの右端に登場した6つの原因を解消しなければなりません。
その原因を要求表現に変換したものが、一番右側に記載されています。
原因を解消する解決策でないと、いいシステムを構築するためのシステム要求にはなりえません。原因を突きとめることができれば、それを要求モデルに追加していくと、うまく目的-手段で展開されたものができます。
福山雅治の論理的思考は、このWHYツリーの考え方と似ています。WHYツリーはシンプルで使いやすい方法でありながら、なかなかの説得力を持ちます。いろいろな局面で使えますので、ぜひ使いこなしてください。