エンジニアとしてどうあればいいのか、企業の期待とどう折り合いをつけるのか、激しく変化する環境下で生き抜くための考え方

「ITスキル標準」と企業とITエンジニア

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 企業が「ITスキル標準」に注目している中、エンジニア自身はどのように考えているのでしょうか。もともと「ITスキル標準」は、エンジニア個人にとっても有効に使えるようにと考えられたものです。

 「ITスキル標準」そのものの理解については次回以降にまわし、今回は現況についてお話しましょう。

自分は何者か

 思春期に「自分は何者か」という思いに悩まされ、その答えを追い求め見つからずに苦しんだ経験をされた方は多いと思います。ニュアンスは少し異なるかもしれませんが、現在のIT関連組織で業務に従事されている皆さん個々の状態はそれにかなり近いのではないでしょうか。特に若手にその傾向が強いと感じます。会社から仕事を与えられ無我夢中でそれに取り組む時期は確かにあり、やりがいもありますが、2、3年するとこれでいいのかという不安に襲われます。

 当然ですが、ビジネスを進めることを主体とする企業が個人に求めるものと、個人が進みたい方向は必ずしも一致していません。さらに、個人個人が自らの進むべき方向をよく分かっていないことも原因の1つだと思われます。また分かっていないことが、本人のストレスにもなっている現状があります。

 これまでキャリアパスやスキルセットなどについて、企業側の立場で語られることは多かったわけですが、仕事に従事している個人としての話は同じテーブルで議論されることがほとんどありませんでした。したがって自分が進みたい方向が分からぬまま忙しさに流されていく中で、ある瞬間に「自分は何者か、このままでいいのか」と自問自答してしまうということなのです。

企業の中での個人

 企業では独自に社員の能力を管理し、人材育成を進めているという状態でした。その結果、IT人材育成の仕組みが企業内にクローズされてしまい、IT業界やそのサービスを受ける側にとって大変効率の悪い状況を作り出しています。また、教育機関とのインターフェイスもできておらず、一貫した人材育成とは程遠い形態になっています。この旧態依然とした中で、本人自身も日を追うごとに複雑になる技術にさらされて徐々に競争心を失い、切磋琢磨するという姿勢が後退して、自らのキャリアデザインという観点が希薄になっていることは否めないでしょう。

 また、仕事の仕方も人海戦術でカバーしていた時代は終わり、それぞれ役割を持った技術者をプロジェクトの中でどう体制作るかが重要になってきています。残念なことに、それらの対応が後手に回ってしまう状況をも作り出してしまっています。そればかりか、システマティックに産官学が協同した形でIT人材育成を捉えているアジア諸国に、猛烈な勢いで質・量ともに追いつかれ追い越されようとしています。一方で、まさに海外の技術者に自分たちの仕事を奪われようとしている日本の技術者自身が、ほとんど危機感を持っていない現実も、かなり危険な状態であるといえます。

企業の「ITスキル標準」に対する取り組みは?

 このような危機的な状況の中で、経済産業省から「ITスキル標準」という共通の指標が出されたことは、大変大きな意味があります。言い換えると、これを逃すと雪崩のように悪い方向に行ってしまうギリギリのタイミングであったと想定されるということです。

 「IT国際競争力の強化」がうたい文句ですが、これは疑うべくもなくアジアに対して日本のIT企業、IT技術者のポジショニングを明確にしていくのが狙いです。共通の指標でIT企業やIT技術者を捉え、人材戦略を立てた上で育成計画を策定し、具体的で効率的なIT人材の育成を促すことが大きな目的です。大手IT企業は積極的に取り入れようと考えており、具体化された企業もありますが、それ以外の企業については、何のメリットがあるのか分からない、これに取り組めば儲かるのか、取り組めるような暇もお金もない、経営層の理解を得られない、などという意見(言い訳?)が聞こえてくる有様で、企業としての人材育成に対する優先順位が、まだまだ低いことを痛感させられます。自らが人材育成を課題として取り上げ検討するのではなく、与えてもらうのを待っているという状況にもみえます。

 また、「ITスキル標準」はIT人材育成のためのツールという位置づけですが、初期の理解のまま人事制度にそのまま取り入れて終わってしまっていたり、スキル診断をしてその結果トレーニングを受けて終わっていたり、結果として、手段であることを目的と取り違えている企業も目に付きます。企業のビジネスに必要のない能力まで評価されることになるなら、ビジネスに貢献してきた個人にとってたまったものではありません。まずITスキル標準ベースで自らの強み弱みを認識し、その上で経営戦略から来る、あるべき姿へ向けての育成・調達Planを策定する、というのが真の姿です。

 企業の取り組みの基本は、「ITスキル標準」を理解し、自らのためにどう使うかを目的を持ってしっかりと考えるということです。

エンジニア個人の取り組み

 自らのキャリアは自らでデザインしなければなりません。そのためには、現時点の自分の強みはどこにあるか、何をゴールとし、そのために今何をしなければならないかを具体的にする必要があります。「ITスキル標準」は、それらや自分自身の価値を可視化するための優れたツールです。自分の将来を自分で創るために、積極的に取り組むべきです。

 また、自分を知り将来をデザインするということは、会社から与えられる仕事の中にも、自分のための可能性を見出せるということにもつながります。

 仕事は、必ずしも自分のやりたいことではない場合が多いでしょう。いや、むしろやりたくない仕事の方が多いのが現実です。しかし、自分の目標や、そのために何をすればいいかをしっかりと認識していれば、その仕事の中にも自分の役に立つことを必ず見つけることができます。逆に会社に対して提案していくことも可能になります。

 仕事だから仕方がないといやいややるよりも、そうした姿勢で臨む方が自分にとっても企業にとってもいいに決まっています。

 自分を高めるいいチャンスでもあり、アピールするまたとないチャンスとポジティブにとらえ、さらに上を目指しましょう。

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