「残業課長」スピンオフ ラブライフハック企画『アットマークX'mas-久実チヨ編-』(5)
クリスマス特別企画・ IT業界の恋愛模様を描く集中連載。 ITエンジニアたちよ、恋愛していますか? 毎回、ちょっとしたライフハックネタも紹介します。12月20日から12月24日まで、毎日更新!
◇ ◇ ◇
◆前回までのあらすじ
鋼野とのことを回想するチヨ。チヨが新米ヘルプデスクだった頃、講習で講師を務めていた鋼野と急接近し、付き合うことに。無事にヘルプデスクとして初めての現場に配属され、2人が付き合い始めて半年が経った頃、鋼野は大阪への転勤が決まった。
鋼野の転勤に落ち込むチヨ。「遠距離になるけど、とりあえず頑張ろう」ということになったが、やっぱり大変。激務で東京に来れない鋼野に会うため、結果的にチヨが一方的に大阪に通うことになった。電話やメールでのやり取りは、辛うじてマメに返してくれる鋼野だったが、やはり顔を合わせて話すことができないため、些細な言葉のすれ違いで喧嘩になることもあった。
連絡が途絶えることで、「このままダメになってしまうのでは」と不安に駆られ、柄にもなく毎回、自分から謝ってしまうことに次第に疲れ始めるチヨ。鋼野もまた、いつ東京へ帰れるのか分からず、チヨとの将来が無意識にプレッシャーとなり始めていた。
<鋼野のグチ>
あの時の大阪営業所は、まだ顧客の新規開拓期だから残念ながら駆け出しのチヨが異動なんて無理、無理。やっと仕事に遣り甲斐が出始めたチヨを、辞めさせてまでこっちに呼ぶ訳にいかないだろーが。まとまった休みも取れないから、なかなか東京まで会いに帰れないし、そもそも東京の本社に戻れる保証もなかったからな。田所所長には「東京に帰らんと、こっちに骨を埋めたらどうや」って言われてたし……。
付き合い始めて1年。2人にとって2回目のクリスマスイブ。チヨは「帰りが遅くなるかも」という鋼野を、大阪の彼の自宅で待っていた。意外と早く帰宅することができた鋼野に、用意していたプレゼントを渡す。
「お疲れさまです。鋼野部長、社内報の回覧をお持ちしました。」
「ありがとうございます。……どうしたんですか、川場田部長が自らお出ましなんて」
「……。ちょっと来てっ!😡」
「え、あ、はいっ」
有無を言わさぬ川場田に迫力に押され、部屋を出る鋼野。開いている会議室に引っ張り込まれ……
「ねぇ、鋼野さん、いきなりで悪いんだけど、チヨのことどう思ってるの?」
「ど、どうって……。本当にいきなりだな。」
「まったく。チヨも鋼野さんも、歯がゆくって見てらんないわよ! 2人とも未練がましく、昔もらったプレゼントいまだに持ってるしさ。今日のネクタイ、チヨにもらったやつでしょ? チヨだって、『物は単なる物だから関係ない』とか言って、鋼野さんにもらったブレスレット、まだ大事にしてるのよ。アタシと2人で旅行したときにうっかり失くしちゃって、チヨ必死で探してたんだから!」
「……」
「ねぇ、このままで良いわけ? せっかく、東京本社に戻って来れたのに! 最終的にはあの時の誤解は解けたけど、2人の関係がこのまま壊れたままで良いの?」
「・……」
「チヨは今日、アタシ達と六本木で呑もうってことになってるけど、ねぇ、もう一度チヨとちゃんと話してみたら? 今日を逃したら、きっと本当にダメになっちゃうよ!」
「……」
<チヨのメール>
もう、そっちには行きません。さようなら。
12月25日。出勤する鋼野と一緒に部屋を出て、駅へ向かったチヨ。どうせ休みだから何時に帰っても良いと思い、こっそり追いかけて行って鋼野を驚かせようとした。しかし、鋼野に追いついたチヨが見たものは、見知らぬ女性と腕を組んで楽しげに歩く姿。ショックで立ち尽くすチヨ。
帰宅後、鋼野にメールや電話をしてみるが不通。実は、鋼野の携帯電話が故障し、それを機に鋼野は通話料の節約のため、チヨと同じ携帯電話会社に乗り換えようと していた。そのため、一時的に連絡が取れない状態となっていたのである。ちなみに、チヨが目撃した女性は大阪に住む鋼野の従妹であり、子供の頃から妹同然の仲というだけのことであった……。
<アイの心配>
すっごいショック受けてたよ、チヨ。でも、運悪く直接話せる状況じゃなかったから、すぐに誤解が解けなかったんだね。鋼野さんの携帯は通じないし。勉強のためってことで鋼野さん、自分でサーバ立ててドメイン取って、そこからメール送ってたから、迷惑メール扱いでチヨが使ってるプロバイダのメールサーバにはじかれちゃってたみたいなのよね。だから、結局、最後はうやむやな感じで別れちゃった、みたいな。もうー! 早まるな、ちゃんと確かめてから決めなさいって散々、言ったのにー!!
<チヨの後悔>
アタシが今、いろんな部署へ首突っ込んでは、いろんな人の悩みやらグチやらを「面談」と称して聞いているのは、「ちゃんと顔を合わせて話しさえすれば、大抵の誤解はすぐ解ける」って思ってるから。自分がそれを怠ったというか、上手くやれなくて壊れちゃったからなんだ……。メールや手紙に書かれた文字や言葉だけだと十分、伝わらない。
よく言うじゃない? コミュニケーションにおける「言語」が果たす役割は、たったの10%程度だって。顔の表情、話すスピードや抑揚、声のトーン、しぐさ、全部含めて始めて「コミュニケーション」って成り立つものだと思うから。
「やったー! 終わったぁ! さー、帰ろ、帰ろ」
人もまばらになって来たオフィス。チヨはやっと仕事に区切りを付け、部屋を出た。既に21時。アイやサラ達は、30分ほど前に既に飲み屋に到着したというメールが来ていた。帰りに何となく開発部をのぞいてみると、既に鋼野の姿はない……。会社のエントランスを出て駅へ向かおうとした時、
「チヨ!」
「あ、あぁ、直樹さん。今帰るとこ? さっき開発部をのぞいたらいなかったから。入れ違いだったんだね。あの……じゃあ、お疲れ様!」
「おい、待てよ。お前がいつ出てくるのか分からないから、定時後からずっと待ってたんだ。ちょっと話があるんだけど」
「……」
「……そのブレスレット、まだ着けててくれたんだな。」
「べ、別に、デザインが気に入ってるし、細身だからキーボード打つ時も邪魔にならないし、そ、それに……」
「ありがとう」
「……」
「…………。チヨ、俺たち、やり直さないか。」
「直樹さん……」
そんな2人の近くを走り去る朝田ススム。想いはそれぞれ、大切な人の元へ。クリスマスはそもそもキリストさんとやらの誕生日らしいけど、国民の大半が仏教系の国、日本では、大切な人へ、大切に想っているということを伝える日、ということにしておきませんか。家族でも、恋人でも、友達でもね。
それでは、みなさん、メリークリスマース!!
コメント
森姫
最終話、お疲れ様ですー。
にやにやで読んでました。
その後の二人はどうなったのー!!(笑)
あ、あのコミュニケーションって本当大切ですよね。
ちゃんと会って話していれば・・・ということはけっこうあります。
メールが便利な世の中にはなりましたが、それだけじゃいかんですよね。
やっぱり会って話すのが一番です★
第3バイオリン
久実チヨさん
最終回、お疲れ様でした。
鋼野さんとチヨさんにとっても、素敵なクリスマスイブになりそうですね。
個人的には、上手く立ち回ってキューピッド役を果たした川場田アイさんが結構好きです。こういう友人は大切にしたいですよね。
>コミュニケーションにおける「言語」が果たす役割は、たったの10%程度だって。
この話、WACATEのプレゼンテーションの講師の細川宣啓さんがおっしゃっていました。
「メラビアンの法則」というそうです。
プレゼンでは話の内容だけでなく、話し方や表情、身振りも大切です。
私も社内の同じフロアの人とは、なるべく対面で話すようにしています。
内線やメールもいいんですが、なんか顔を見ないと落ち着かないんですわ。
はがねのつるぎ
久実チヨさん
余計なコメントを挟むと
雰囲気を壊してしまいそうで……ひとことだけにしておきますね。
ドキドキしながら読ませてもらいました。
森姫さん
>その後の二人はどうなったのー!!(笑)
ふたりで仲良くこのコラム読んでるじゃないですかね。
とか言ってみたい気分です。
組長
>森姫さん
お疲れさまでしたー。
どうなったかというと、「後は言わずもがなー♪」ですよっ★
私は森村ちゃんのように自分からストレートに、真摯に、真正面から愛の告白が出来ないタイプなので、チヨも結局はウダウダして一旦、鋼野部長と別れちゃったという設定になってました。私が将来結婚したら、チヨもグレードアップさせて(?)、仕事と家庭を両立する姿を描きたいですね。笑
>第3バイオリンさん
コメントありがとうございます★
チヨはアイちゃん無しでは生きていけないのです。笑
このコラムを書いていて、自然にコミュニケーション、しかも、相手と直接顔を合わせてのコミュニケーションの大事さについて自然とストーリーに組み込むことが出来ました。一応、ラブ以外の要素も取り込めたのでほっとしてます。
メールや電話と、直接対話のバランスが大事ですよね。
組長
はがねのつるぎさん
コメントありがとうございます。
>ドキドキしながら読ませてもらいました。
ドキドキしていただけましたか!良かったです!!(よかったんでしょうかね?笑)
ラブ一辺倒にはならないように頑張ってみましたが、なんか妙にリアルで確かに自分自身でも、ちょっと恥ずかしかったです。はがねさんの実像とは別人格の鋼野部長の姿だとは思いますが、いずれにせよ、今頃チヨと仲良くしてるはずです!!笑