草食系妙齢プログラマが見てきた現場の不思議な話をお送りします。

世界で一番お客さま?

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 こんにちは。草食系妙齢プログラマ 野口おおすけです。先日の勉強会夏祭り2010にお越しいただいた皆さま、ありがとうございました。実際にコラムを読んでくださっている皆さまのお話を直接うかがうことがあまりできないので、このような場で聞くことができてとても嬉しい限りです。今回使った資料は、こちらで公開しております。併せてご参照ください。

 イベントや勉強会(社内外問わず)で、仕様書についてや現場の生の話などを議論したい、話を聞きたいなどがございましたら、フットワーク軽くうかがいますので、regtan1210_at_gmail.comまでご連絡いただけたらとおもいます。

 さて、今週はわたしたちの仕事とは切っては切れない関係にある「お客さま」についてお送りします。

 といっても「単価が……」や「Win-Winの関係が……」というお話ではなく、もっと日常的なお客さまとの関係について考えていきます。わたしたちが仕事をする場合、お客さまの現場で常駐して作業をするというスタイルもありますし、お客さまの要求を聞き取って自社に持ち帰って開発するスタイルもあります。お客さまといっても、他社の人とは限りません。自社システムの開発であれば、そのシステムを使う部署がお客さまになります。新しいサービスの開発ともなると、ステークホルダーと呼ばれる方だけでなく、一般のサービスを使うユーザーもみんなお客さまです。

■世界で一番お客さま そういう扱い心得てよね!

 日常生活に置き換えてみると、わたしたちもレストランに入ったとき一番の扱いをしてもらえると嬉しいですね。それと同じ、自然なことなのです。お客さまから見れば、わたしたちの会社が他のどんな仕事をしているかなんて、あまり興味がないことなのです。

 つまり、わたしたちのいかなる都合もなかなか理解してもらえず、難しいわけです。いま直接関係しているお客さまは、一番の扱いをしてほしいと常に考えています。

 だからといって、昔のえらい人が言ったように「お客さまは神さまです」の精神で、何でもかんでも受け入れればよいというわけではありません。前回お送りしたとおり、わたしたちの仕事は常に、何かしらの制限があるのです。その制限の中で、最良の結果を出さなければなりません。となると、わたしたちの仕事はとてつもなく難しく感じてきます。

 では、どこから取り組めばよいのでしょうか。まず、お互いのポジションを正しく理解することから始めるべきでしょう。ここで大事なのは「お互いの」というところです。どちらか一方的に理解してもらうことは難しいのです。

 見積もりを提示する際に「○○という作業には○○くらいかかります」という提示を行います。ここでちょっとだけ工夫して、「○○という作業には○○くらいかかります。でも、お客さまの方で△△していただくと、お客さまの希望どおりにすることが可能です」という風に提案してみます。見積もりには「松・竹・梅」の3つのコースを用意しろ、とよくいわれます。それだけではなく、どちらかが一方的に要求を叶える立場にならないようにするためのアクションなのです。

 わたしたちはお客さまのすべての希望を叶えられれば最高ですが、現実には難しいことが多くあります。お客さまもエンジニアがすべての要求を叶えてくれるものであると考えてしまうと、最悪共倒れをしてしまうことさえあり得ます。お互いがお互いの立場を理解し、協力できるところは協力して、最適解を導きだすことこそが、お互いにとって利益になります。

■お客さま「わたしだってやればできるもん 後で後悔するわよ」

 ITエンジニアはITのプロです。さまざまな要求事項をシステム開発をとおして実現していくのがITエンジニアの仕事です。では、お客さまは何のプロなんでしょうか。答えは、そのシステムが実現しようとしている「実務」や「サービス」のプロなのです。

 お客さまにいきなり「ソース書いてください!」とお願いしても、それは無理な話です。それはITエンジニアのフィールドであってお客さまのフィールドではありません(たまにかなり詳しいお客さまもおられますが……)。実務に関しては、もちろんお客さまの方がよく知っています。経理のシステムであれば「ココの計算ではレート○○で計算が必要」など、仕様書などでは見落としやすい内容も隅々まで把握しています。それまでは自分たちが別の方法で行っていたわけですから、知らないことなんてないのです。

 そうであれば、ここでお客さまに協力をお願いしないのは大きな損失です。分からないことは素直にお客さまに説明を求めればいいのです。出来上がってから要求とズレているといわれてしまっては、システムの品質の問題に関わります。せっかく、正解を知っている人が近くにいるわけですから、これを利用しない手はありません。

 システムは、ITエンジニアの力だけで作ることは不可能です。お客さまとITエンジニアのお互いが得意な部分を担当することで、より良いシステムを構築できるのです。また、システム構築のコストをカットすることも可能です。お客さまもどのように手伝えばいいか分からない、と悩んでいることがあります。そういうときには、ITエンジニアから積極的にシステム開発に巻き込むよう、アクションを起こしていきたいものです。

 今回はお客さまとエンジニアの関わり方についてお送りしました。お客さまの要求をすべて叶えないといけないと盲目的に信じ込んでいるITエンジニアと、ITエンジニアはすべての要求を叶えてくれると思い込んでいるお客さまは、お互いにあまりいい関係にならないことが多くあります。彼女の願いをすべて叶えないといけないと思っている彼氏と、彼氏はすべての願いごとを叶えてくれると思っている彼女のカップルが長続きしない(経験上)のと似たようなものです。

 お互いのポジションを正しく理解して、ITエンジニアとお客さまの間でより良い関係を続けることこそ、ITエンジニアが継続的にお客さまにバリューを提供するための第1歩です。お客さまを巻き込んでのシステム開発は簡単には実現しないかもしれませんが、積極的にアプローチしていきたいものです。

 さて次回はエンジニアに求められる「ツッコミ力」についてお送りします。

 それでは。また次回。

Comment(1)

コメント

一般人

全般的に同感ですが、私は更に進めて、

「お客様は神様です」という考え方は、もうやめた方がいいのではないか?

と考えています。

 そもそも、故某演歌歌手がこの言葉を広める以前の日本では、「お客は神ではなかった」訳です。

 こんな言葉が使われているのは、世界中で日本だけです。

 他国には、「私達は、お客様に最高のサービスを提供します」と宣言するサービサーは幾らでも存在しますが、「お客様は神様です」などと言うサービサーは存在しません。

 この言葉は、日本の「お客」を尊大にし、「俺は客だぞ」みたいな姿勢で、サービスを提供する側に過剰な要求をする風潮を生み、クレーマーを生み、日本の社会を悪化させる結果をもたらしました。

 他国では、店で物を買う場合でも、必ず何らかの会話(コミュニケーション)が発生します。そこでは、店側と客の間には上下関係は存在せず、お互いに気持ち良くビジネスをしようという合意のようなものがあります。

 日本のように、客が何も言わずに黙ってカウンターに物を置いたら、店員が全てを処理してくれるという光景は、他国に比べると、異様です。

 顧客とサービス提供側が協調してコミュニケーションを取り、カスタマー・サティスファクションの最大化を図るように改めていくべきではないか、と思っています。

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