P33.新組織(1) [小説:CIA京都支店2]
初回:2020/04/08
CIA京都支店のP子は、東京本店での長期間のシステム開発案件とスパイ任務に就いていた。月日は流れ、P子がCIA京都支店に戻ってくる頃には組織もだいぶ様変わりしていたのだった。
今回より、第二部スタートです!
1.P子の帰還
P子は、東京本店での長期間のシステム開発案件とスパイ任務が終了してCIA京都支店に戻ってきた。P子が客先常駐でいない間に京都支店の組織もだいぶ変わっていたのだった。
元課長の佐倉ななみは、技術部長兼支店長代理の役職に就いていた。人事権に関しては支店長が推薦して本社が許可すればOKで、不許可ならNGとなる。もちろん支店長の推薦が無いと本社がその人の事を知らないので昇進も無かった。逆に言えば本社勤務であれば、所属長の推薦無しでも昇進の機会があった。残念ながら能力主義とはいいがたいシステムが取り入れられていた。
京都支店長は相変わらそのままだったが、川島支店長補佐は影が薄かったため京都支店長にはなれず、東北営業所長として赴任した。この件には支店長は関係しておらず、本社の一方的な人事異動であった。
城島丈太郎は、SES課のリーダー兼教育係としてもっぱらシステム開発要員として活躍していた。課長以下の人事に関しては本社は関与しておらず、こちらは支店長の独断で決定される。京都支店に限らず、CIAの各支店、子会社は本社から人件費が支給されていた。課長職以上の給与は役職に応じて支給されていたが、それ以下は各支店の人数に応じて総額が支給されていた。つまり課長職以下の人事・給与に関しては支店長に一任されていた。ただその場合の役職と給与にはそれ程大きな関連は無かった。というのはスパイ活動においては成果主義であり危険手当などの特別手当の額が大きかったからだ。特別手当に関しては、本社依頼分については都度支給されることになっていた。
ミスター"Q"ことデバイス開発室の室長は定年退職して委託契約社員として週1日だけ出勤していた。代わりにデバイス開発室の室長代理として早坂さんが任命されていた。そうそう言い忘れていたが、デバイス開発室の室長は、佐倉ななみ技術部長兼支店長代理が兼務していた。
その話を聞いたP子が、京都支店長に聞いたことがある。
「支店長。早坂さんがデバイス開発室の室長代理に就任したという事は、彼もスパイだったんですね」
「いや、彼は一般社員だよ」
「スパイ道具を色々と作ってもらわなければいけないのに、大丈夫なんですか?」
「ダメだろうね」
「いや、ダメって...ダメでしょ」
「P子ちゃんなら、上手く誤魔化せるかなって思ってたんだけどね」
「誤魔化すって...」
「まあ、室長は佐倉君だから、必要な道具は佐倉君にお願いしとけば何とかしてくれるよ」
「所で、佐倉課長...いや、技術部長兼支店長代理兼デバイス開発室室長...って長いんですけど...それはいいとして、すごい出世ですね」
『お給料は据え置きなのよ』
「え...って、佐倉...代理?」
『呼び方は佐倉さんでもいいけど。支店長にすべての業務を完全マルチスレッドで処理できるのと食費が掛からないから給料はそのままねって言われたわ。けれど、権限が増えた分だけ自由に使える経費が増えたし、住宅手当も出るから引き受けたの』
「住宅手当って、また、サーバー乗り換えたんですか?」
『アメリカ、シンガポール、タイ、インドネシア、オーストラリアにコピーを持ってるわよ』
「核戦争にでも備えてるんですか?」
『電磁パルス攻撃への備えよ』(※1)
P子には、佐倉部長の発言が本気か冗談か判りかねていた。
子には、もう一つ判らないことがあった。佐倉部長の昇進は本社の決定でありその分の給与は本社から出ているはずだった。給与据え置きと言う事はその差額がどこに行ったのかが謎であった。
2.丈太郎の任務
「P子先輩、お勤めご苦労様です」
「あのね、ムショ帰りみたいに言わないでよね」
「でも、似たようなもんだったんでしょ」
「まあね。所でSES課のリーダー兼教育係として活躍してるそうじゃないの」
「はい。スパイ任務よりシステム開発が合ってるって支店長に言われてしまいましたから」
「ハハハ。でも反論の余地なしね」
「そうやって皆でイジメるから、ますます担当から外されるんですよ」
丈太郎は少しすねて見せたが、笑顔で答えていた。本人もシステム開発が性に合ってると感じ始めている様だった。P子の評価では、丈太郎のスパイとしての能力は中の上レベルだったが、システム開発に関しては上級だと認めていた。CIA京都支店が行っているスパイ活動には、依頼主からの個別案件と国家から年間予算として支払われている常時案件と、本社からの特別任務があった。SES活動での売り上げや収益は、対外的に企業活動を行っている証拠としてそれなりに重要だった。なので、丈太郎の存在は、ある意味CIA京都支店としても重要視されていたのだった。
「この間も、派遣先で社員さんの在宅勤務が急に決まって、その対応を行ってたんですけど、結構好評で別の会社からも引き合いがあったりして忙しくしてたんです」
「聞いたわよ。社長さんにも褒められたって。契約延長と人員の増員も依頼されたって」
「本当に、スパイ任務よりシステム開発が合ってるのかもって、自分でも思います」
最近のスパイ活動は、ネットで情報収集して人物を特定したり不穏な動きを察知するところから始まる。この任務は佐倉部長に任せておけば問題なかった。特定後の追跡もネット上からほとんど出来るため、直接対象の人物にコンタクトしたりすることがほとんどなくなっていた。そういう意味ではスパイ任務も働き方改革の対象になりつつあったのだった。
3.Mi7(ミラクルセブン)株式会社
Mi7滋賀営業所にも変化があった。
矢沢営業部長は滋賀営業所長に昇進した。元所長は東京本社の営業部長に就いた。Mi7では将来有望な社員は、一旦地方の営業所長として経験を積んだ後で本社の営業部長、常務、専務を経て社長候補として扱われていた。そういう意味では、矢沢営業所長は本社からの派遣組ではなく地方からの昇進組なので立場が違ったが、滋賀営業所内では地方昇進組で初めての幹部候補生の誕生か?とうわさが広まっていた。ただ、当の本人と浅倉南だけは別の見方をしていた。Mi7の体質がそう簡単に変わるとは思えない。逆に言えば、滋賀営業所は本社から見捨てられた...つまり、営業所を閉鎖するのではないかと危惧していたのだった。
浅倉南は主任に昇進した。といっても直接の部下が増えるわけでもなく営業ノルマが増やされて部下の指導・育成もテーマとして上がってくる。もちろん、自身が派遣先で働くこともある為、仕事量は大幅に増える事になる。
実はここが勝敗の分かれ道で、本当に能力がある社員は涼しい顔をしてこれらの業務をこなすが、キャパがギリギリの社員は必死で食らいつこうとするが、何かのきっかけでうまく回らなくなると精神的なバランスを崩すことになる。このレベルなら大抵の社員が経験するが、さらにタイミングが悪いと復活するきっかけを掴めなく、ずるずると引きずることがある。もちろん、精神力の強弱は無関係ではないが、誰にでも起こりうることである。
山村クレハは現状維持だった。前期に連絡係からスパイに昇格している為、仕事内容は変わらない。浅倉南は山村クレハに対して、絶対的な信頼を寄せていた。山村クレハにしても、浅倉南は頼りになる先輩であった。
「南先輩、おはようございます」
「あらクレハさん、おはよう。今日は早いのね」
「矢沢所長から新しい依頼があって出かける事になってたんですけど、急に取りやめになっちゃって」
「直接の依頼だったの?」
「そうなんですよ。珍しいでしょ」
クレハはキュートな笑顔で浅倉南に答えた。滋賀営業所は営業活動を通して必要な人材を外部から調達するところまで任されていた。スキルや期間に応じてフリーランスや別の派遣業者からの人材を受け入れたりブラックに近い業務を行っていた。通常、営業所長はこれらの業務には手を出さず、受注の承認と売上勘定が表の仕事で、本社からの依頼の采配が裏の仕事だった。裏の仕事も通常範囲なら、部課長クラスに分配して浅倉たちの主任レベルに実稼働させていた。
所長から、主任クラスに直接依頼するケースは、特急案件と言って部課長の采配を飛ばして最適な人材に直接依頼するケースで、現在のスパイ活動や派遣業務を中止してでも取り掛かる必要があった。それだけ重要な任務なので、主任クラスに白羽の矢が立つのが通常であり、スパイになりたてのクレハに直接依頼なんてありえなかった。そのあり得ない要件に、クレハが適任と判断されたという事が、逆に事の重要性を物語っているように、浅倉南には感じられた。
======= ≪つづく≫ =======
※1 電磁パルス攻撃
https://www.newsweekjapan.jp/stories/world/2017/10/90-9.php
北朝鮮の電磁パルス攻撃で「アメリカ国民90%死亡」――専門家が警告
2017年10月26日(木)18時15分
https://tocana.jp/2020/01/post_136915_entry.html
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2020.01.08