今、話題の人工知能(AI)などで人気のPython。初心者に優しいとか言われていますが、全然優しくない! という事を、つらつら、愚痴っていきます

P17.外伝・ミスターQ [小説:CIA京都支店]

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初回:2019/07/31

登場人物

これまでのあらすじ

 CIA京都支店のP子は、Mi7の浅倉南や山村クレハと時にはライバル、時には共同で任務にあたっていた。
 現在はAI課長の佐倉ななみとともに大阪のMITに派遣中であった。そんな中、久しぶりに派遣先から解放された城島丈太郎は、暇を持て余していたのだった。

1.丈太郎の憂鬱

 城島丈太郎は、久しぶりにCIA京都支店に戻って来ていた。先月までの派遣業務が終了して少しだけ時間が空いていたのだった。

「室長、入りますよ」

 丈太郎は、室長の返事を待たずにデバイス開発室のドアを開けた。室長のミスターQは、一人で将棋盤に向かっていたが、ちらっとだけ丈太郎を見ると手招きして入室を許可した。

「何か用かね」

 ミスターQは、将棋盤をじっと見つめながら、声だけ丈太郎に向けて話した。

「知ってます? 最近P子先輩って、佐倉課長とばかり行動してるんですよ」

「そりゃMITへの派遣契約の中に、佐倉君を連れていくことになっとるからじゃろ」

「そうなんですけど、佐倉課長と食事に行ったりUSJに行ったりしてるんですよ」

「まあ、休みの日なら良いじゃろ」

「この間も、佐倉課長に焼肉をごちそうになったって、ツイートしてましたよ」

「何か問題でも...」

 ミスターQは、自分側の駒を動かしてから視線を丈太郎に移した。

「考えても見てくださいよ。佐倉課長はポシェットなんだから、一人焼肉に一人USJってことですよ」

 ミスターQは(「そんな事か」)と言った感じで、再び将棋盤に視線を移して、相手側の駒を動かした。

「しかも、いつもポシェットに向かって話しかけて、笑ったり愚痴ったりしてるって、他人から見たら変な人に見えるでしょ」

 ミスターQはほとんど丈太郎の話を聞いてなかった。そして、うんうん唸りながら自分側の駒を動かした。

「聞いてます?」

 ミスターQはすぐに相手側の駒を動かして(「それはないだろ」)とつぶやいた。

「課長のおごりだからって、最近浮かれ過ぎだと思いません?」

「...」

「課長も課長ですよ。お金で友達を作ろうとしてるっていうか...。あれって、詐欺とかマネーロンダリングで稼いだお金じゃないですか?」

 丈太郎が聞いても、ミスターQは将棋盤を見つめたまま黙っていたが、一言つぶやいた。

「まいりました」

「え? 何か、まずいこと言いました?」

『私に言ったのよ』

「え? 佐倉...課長...ですか?」

 丈太郎はすぐに状況が呑み込めなかった。

「え? でも、P子先輩と大阪に派遣中なんじゃないんですか?」

『あのポシェットは単なるインターフェースなのよ。川伊さんと会話しながら、こうやって"おじさま"と将棋を指しながら、株取引とかマネーロンダリングとかも出来るのよ』

「え? さっきまでの会話って、聞いてました?」

『いつでも再生できるわよ』

「すみませんでした!。堪忍してください」

 丈太郎は、何となく声のする方向に向かって頭を下げた。

2.ミスターQの憂鬱

「室長、佐倉課長って何時でも何処にでも現れるんですか?」

「まあ、CAI京都支店内の"合法領域"ならどこにでも行ける契約だったかな」

「合法領域?」

「違法領域に勝手に出入りされても困るだろ」

「違法領域?」

『あら、出入りできるわよ』

「許可は貰えたのかね」

『さあ、ね』

 佐倉課長の所在が分かった。室長の向かい、つまり将棋盤を挟んだ向かいに置いてあるRaspberryPiだ。声はダイソーのスピーカー(※1)から出していた。

「佐倉君には色々と世話になってるからな」

「室長も佐倉課長から何かおごってもらったんですか?」

 ミスターQは、真新しい将棋盤と、棚の上にしまってある測定器などを指差した。

「将棋盤はともかく、測定器は会社の予算で購入すべきでは?」

 丈太郎は、そうは言ってみたもののデバイス開発室自体が予算カットでやりくりに苦労している事を知っていた。

『気にしないで。私に必要な分はきちんと分けてあるし、家や車、食費もかからないし』

 やりくり上手な佐倉課長は、ミスターQを気遣った。

3.CIA京都支店長の憂鬱

「室長、入りますよ」

 CIA京都支店長は、ミスターQの返事を待たずにデバイス開発室のドアを開けた。ミスターQと丈太郎が同時に扉の方を見た。

「何だ、城島君も居たのか」

 支店長は、そういいながらデバイス開発室に入ってきた。

「室長。じゃあ、僕はこれで失礼します」

 丈太郎はそういいながら、扉の方に向かおうとした。

「まあ、いいじゃないか? 城島君も一緒に聞かないかい」

 支店長は、いつになく優しく声をかけた。そのやり取りを見ていたミスターQは、嫌な予感しかしなかった。

「所で室長、最近の成果を聞かせて欲しいんだが...」

(ほら来た)ミスターQは、嫌な予感が的中したと思った。

「まずはこれです」

「お、"RANGE-R"だな」(※2

「の、バッタもんです」

 RANGE-Rとは、携帯型レーダーシステムで、壁を透視できるシステムで、FBIは人質救出作戦に、消防士は倒壊した建物での捜索救助活動に、米連邦保安局は逃亡者の逮捕に、以前から使用しています。

「この機能を、Wi-Fiモジュールをベースに作り直した「Wi-Vi」システム(※3)ですが、予算の関係で完成していません」

「...」

「これは画像処理による盗聴装置です」(※4

 人の声をマイクで拾うのではなく、高速度カメラでガラスの振動や部屋の植木の葉っぱの微細な振動やコップの水の表面の振動から音声に変換する技術があります。

「高速度カメラが予算の関係で購入出来ないでいます」

「...」

「これは、心臓の鼓動から個人を特定するツールです」(※5

「ジェットソンか?」

 ペンタゴンで開発されたこの技術は、200メートル先から「レーザー振動測定」を使うことによりたった30秒で目標となる人物の身元を突き止めることを可能にしています。

「レーザー振動装置の小型化が予算の関係で進まないので、持ち運びできません」

「...」

「これは、指紋窃取(盗撮)カメラのプロトタイプです」(※6

 2000万ピクセルほどのデジタルカメラで5メートル以内の距離から撮影した指は、指紋を検出するに十分な解像度が得られます。

「2000万画素のデジタルカメラが、予算の関係で買えていません」

「...」

 ミスターQは、ひとしきり説明した後、支店長の方を見た。

「まあ、長い目で対応してくれたまえ」

 そういうと支店長は、自分の目の両端を人差し指で横に伸ばして『長い目』にして見せた。

≪完≫

======= <<注釈>>=======

※1 ダイソーのスピーカー
 https://kuruton0618.com/8216.html
 100均で話題のスピーカー ダイソー300円スピーカーを比較レビュー!
 2018.03.13

※2 "RANGE-R"だな
 https://blog.kaspersky.co.jp/watching-through-walls/8157/
 我が家が自分の城でなくなるとき:壁を透視するテクノロジー
 2015年7月15日

※3 「Wi-Vi」システム
 http://netafull.net/tech/043978.html
 「Wi-Vi」WiFi電波で壁の向こうを見通す技術
 2013年7月 2日

 https://pc.watch.impress.co.jp/docs/news/605899.html
 MIT、Wi-Fi電波で壁の向こうを見通す技術を発表
 ~犯罪捜査や災害救助から、家電、ゲームなどへの応用が可能
 2013/7/1 14:31

※4 画像処理による盗聴装置
 http://news.mit.edu/2014/algorithm-recovers-speech-from-vibrations-0804
 Extracting audio from visual information
 August 4, 2014
 無音の動画を分析すれば、会話を再現できる

※5 心臓の鼓動から個人を特定
 https://www.gizmodo.jp/2019/07/heart-beat-identify.html#cxrecs_s
 ペンタゴン製「心臓の鼓動から個人を特定」する技術。200メートル先から誰だかわかる
 2019.07.02 08:00

※6 指紋窃取(盗撮)
 https://www.j-cast.com/2017/01/12287862.html?p=all
 スマホ写真で指紋を復元 現実に起きていた「指紋盗撮」
 2017/1/12 07:30

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