今、話題の人工知能(AI)などで人気のPython。初心者に優しいとか言われていますが、全然優しくない! という事を、つらつら、愚痴っていきます

P05.南の秘密 [小説:CIA京都支店]

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初回:2019/05/08

1.南の秘密

 浅倉南は京都市に本社がある Miracle Seven(ミラクルセブン株式会社 略してMi7)の滋賀営業所に勤務する派遣スタッフだった。この会社は人材派遣と人材紹介を主な業務としており、学生アルバイトやフリーターなども多数登録していた。

 ここまでなら『普通に派遣スタッフやってます』で終わるのだが、浅倉南には秘密があった。
 それはこの会社には実体はなく派遣業者へ人材を派遣するという派遣の卸のような商売をしている会社だったからだ。つまり、浅倉南は多重派遣業者のスタッフだった。その為、彼女が実際に派遣される会社へは、毎回異なる人材派遣会社から派遣されることになる。

 ...ではなく、浅倉南の本当の秘密は、本物のMi6(イギリス秘密情報部)の職員(※1)であり、コードネーム"373"を持つ、日本国内で諜報活動しているスパイだったのだ。

 浅倉南は根っからのシャーロキアン(※2)で、ロンドンのベーカー街221Bまで出かけて行って、そこでMi6にスカウトされた経歴を持つ。当初コードネームを"221B"にするという希望を持っていたが、"B"は付けられなかったため『ミナミ⇒373』として登録したのだった。

「浅倉君、ちょっと来てくれないかな」

 浅倉の上司である矢沢部長が、浅倉南を呼び止めた。矢沢部長は滋賀営業所では営業所長に次ぐNo2で、コードネームヤザワ⇒"830"を持つ諜報部員だった。間仕切りのある4人掛けの丸テーブルに2人で座ると、矢沢部長が話を始めた。

「いや~この間はお手柄(※3)だったね。本部も君のことを高く評価しておくと言っていたよ。我が滋賀営業所も鼻高々だったよ」

「ありがとうございます。ほんの偶然で運が良かっただけです」

 実際、前の派遣先にたまたま来たSEが手にしていたペンが、『おじさま』から頂いたペンと同じだった。そこで彼が席を外している間に机の下を捜索して、ファイバースコープを見つけることができたのだった。その後彼の行動を観察していると、何やら床下を調査しているところまで判明した。

「いやいや。君の洞察力は前から一目置いてたからな~。ところで明日から、カルイスチール様へ事務要員として行ってもらいたいんだ。期間は2週間という事で、場所は製造現場のある本社工場の生産管理部なんだ」

 矢沢部長の説明では、カルイスチールの軽井社長はドライカーボン(※4)を使用した超軽量ラックを開発中とのことで、その製法を探るというものであった。

「2週間程度では社長や工場長に近づくのが精いっぱいではないでしょうか?」

「実は数か月前から潜入させている諜報員がいるんだ。その諜報員の山村クレハ君(※5)に会って状況を確認して、今後の方針を指示して欲しいんだ」

 山村クレハ(コードネーム"908")は、Mi7滋賀営業所の若手の諜報部員であった。浅倉南とは面識はなかったが、男性職員の間では結構人気が高いという噂は耳にしていた。

2.UVケア

 P子は新しい派遣先の顧客と交渉中であったが、担当を誰にするか決めかねていた。城島丈太郎はすでに別の派遣先に出向いており割り当てることができなかった。今回の任務は極秘情報の保護だったが、場合によっては監視活動を長期間続ける必要があった。

「P子さん、おはようございます」

 声をかけたのは、ミスター"U"こと、双子スパイの兄のタツヤだった。彼にはミスター"V"こと、弟のカツヤがいた。(※6
 CIA京都支店では『エージェント・UV』(※7)と言われる双子のスパイだった。

「おはよう。今日はカッちゃんは?...」

 と言った瞬間に、P子は良いことを思いついた。

「タっちゃんって、今お仕事入ってないよね。良いお仕事があるんだけど...」

 P子はタツヤを手招きして、ミスター"Q"のいる『デバイス開発室』まで呼び寄せた。

「室長、また部屋借りるね」

 P子がそういうと、ミスター"Q"は笑顔で応じた。

「今度、カルイスチール様に常駐派遣で行ってもらいたいの。生産管理部で使用する在庫管理システムの改修業務なんだけど、目的は新製品のカーボンラックの製造方法が狙われているので、その阻止ね」

 カーボンラックの材料となるドライカーボンは、カーボン(炭素繊維)にエポキシ樹脂を染みこませたシート状の高品質カーボンクロスを使用して、これに芯材となるワイヤーを編み込むことでスチールよりも軽量で丈夫なラックを作ろうとしていた。

「この製法は、アメリカとの共同開発なの。だから他国に渡ると競争優位性が失われて折角の研究開発費が回収できないってことなの」

 ミスター"U"ことタツヤは、話を聞きながら『なかなか大変そうだな』と思った。守るべき製造方法の機密がどこに管理されているか判らないとのことや、社長や工場長には今回の極秘任務は秘密ということ。誰がその機密情報を狙っているか判らないということがそう思った理由だ。

(なるほど、長期になる可能性があるってことか)

 タツヤは今回の任務に選ばれた理由が判った気がした。

 ミスター"U"のタツヤとミスター"V"のカツヤは、チームUVとか UVペアと呼ばれていた。日本の戸籍上には、一人しか存在していないため、2人同時に働くことは出来なかった。(※8

「きちんと2人のケアもするから」(※9

 2人は双子だけあってほとんどそっくりだった。ただし見分け方もある。(※10
左目の下にほくろがある方が弟のカツヤで、ミスター"V"(Victory⇒勝利⇒かつやん⇒カツヤ)。そうでない方が兄のタツヤで、ミスター"U"(Up⇒立っている⇒たつやん⇒タツヤ)だ。

「来週から業務開始ですね。判りました。カツヤにも伝えておきます」

 タツヤは、そういうとミスター"Q"に軽く会釈して『デバイス開発室』から出て行った。

3.南とクレハ

 浅倉南はカルイスチール本社工場で山村クレハに状況の確認を行った。ドライカーボンの製造方法などの機密情報にはアクセス出来ていなかったが、製造現場の隠し撮り写真と材料の発注情報は掴んでいた。

「山村さん。機密情報の保管場所って判った?」

「南先輩。『クレハ』でいいですよ」

 クレハはキュートな笑顔でそういうと、サーバーのフォルダのアクセス権が管理者のみになっている所が怪しいとにらんで、何とかセキュリティを破れないか何度か試みたそうだ。

 ちょうど、昼礼の後のミーティングが終わり、工場長以下事務方の社員が席に戻り始めたころ、内線が鳴った。

 浅倉南は、人差し指でちょっと待っての合図を行って電話に出た。

「お待たせしました。生産管理部です」

「お忙しい中恐れ入ります。私、CIA京都の川伊と申します。工場長のタナベ様は居られますでしょうか?」

「はい、少々お待ちください」

 浅倉南はそういうと、一旦保留にして工場長の席の電話に転送した。それと並行して工場長の電子スケジュールを確認した。そこには、『203 13:30 CIA京都 2名』と書かれていた。

「クレハさん。悪いんだけど、お客様を203応接に案内して。あと、4人分のお茶を出してもらえるかしら」

 浅倉南は、生産管理部のメンバーの『行動予定』を確認した。工場長と主任の予定が 203 となっていたので、4人分のお茶を要求したのだった。通常の来客時は自らお茶出しをするが、前の派遣先でスッパ抜いたSEを紹介していた会社が、確か『CIA京都』だったような気がした。相手が覚えているかどうかは判らないが、余計な接触は避けた方が無難だと判断したのだった。

 クレハが応接室から戻ってくると、浅倉南は担当の女性の事を確認した。

「あの方もCIAの諜報員なんですか?感じの良い方でしたよ」

「とりあえず、今回派遣されてきたSEも要注意ね」

 2人で確認し合って、それぞれの席に戻っていった。

4.派遣の任務

 P子はカツヤを連れてカルイスチール本社に伺った。約束の13時30分には少し早かったが、正門の受付を通って生産管理部のある建屋に向かった。

「カッちゃんも大変ね。てっきり初日はタッちゃんが来ると思ってたんだけど」

「兄貴は邪魔くさがりですから」

 P子は『カッちゃんは優等生だもんね』と言いながら、建屋に入ってすぐ横にあった呼び出し電話を取った。

「お忙しい中恐れ入ります。私、CIA京都の川伊と申します。工場長のタナベ様は居られますでしょうか?」

「はい、少々お待ちください」

 P子は(なんとなく聞き覚えのある声だわ)と思いつつも、出迎えてくれた若い女性を見て単なる勘違いだと思った。階段を上がり、203と書かれた小部屋に通されると「しばらくお待ちください」と言い残して彼女は去った。

(鼻の下が伸びてるわよ)

 P子が小声でカツヤに言いながら(優等生のカッちゃんでもデレっとするんだから、タッちゃんじゃなくって良かったかも)などと思った。

 しばらくすると、先ほどの女性がお茶を持って入るのとほぼ同時に、タナベ工場長とカナイ主任が入ってきた。

「いつもお世話になっております。この度の在庫管理システムの改修案件を担当させていただく担当の上杉です」

 P子はいつもの通り一通りの挨拶を済ませると、応接室から退室した。

「あの、良かったらこちらの 202応接をお使いください」

 先ほどの女性がP子に話しかけてきた。昼過ぎのこの時間に使われていないなら30分程度は大丈夫か?と思っていると、その女性がタブレットを見せながら、

「15時まで空いてるんです。使っても大丈夫ですよ」と言った。

「ご親切にありがとうございます。ではこちらで待たせていただきます。所で便利ですね。会議室の予約情報がいつでも見られるのですか?」

「生産管理部の皆さんの予定と、会議室の使用状況が見られるんです。休みの状況と行先が見られるので電話の取次ぎなんかは結構助かるんです」

「便利そうで良いですね。私たちも他社にSEを派遣してる場合じゃないですね」

 二人は笑顔でクスクスと笑いながら、軽く会釈をして別れた。


======= <<注釈>>=======

※1 秘密情報部
 ウィキペディア(Wikipedia)より
 https://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%A7%98%E5%AF%86%E6%83%85%E5%A0%B1%E9%83%A8

※2 シャーロキアン
 ウィキペディア(Wikipedia)より
 https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%B7%E3%83%A3%E3%83%BC%E3%83%AD%E3%82%AD%E3%82%A2%E3%83%B3

※3 この間はお手柄
 P04.最後の課題 [小説:CIA京都支店]
 https://el.jibun.atmarkit.co.jp/pythonlove/2019/04/p04_cia.html

※4 ドライカーボン
 炭素繊維強化プラスチック ウィキペディア(Wikipedia)より
 https://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%82%AD%E7%B4%A0%E7%B9%8A%E7%B6%AD%E5%BC%B7%E5%8C%96%E3%83%97%E3%83%A9%E3%82%B9%E3%83%81%E3%83%83%E3%82%AF

※5 山村クレハ
 紅葉と書いてクレハと読みます。山村紅葉(もみじ)さんとは全く無関係です。
 https://ameblo.jp/yamamura-momiji/

※6 カツヤとタツヤ
 浅倉南に双子の和也と達也。前振りなのか単なるパクリなのか?

※7 エージェント・UV
 https://ja.wikipedia.org/wiki/UV
 紫外線 (ultraviolet)
 胃潰瘍 (ulcus ventriculi)
 UVマッピング
 PC-9801UV - NECのパソコン

 全て違います。Ultra(過激な) Violence(暴力)の略です。

※8 双子のアリバイ
 彼らは同時に同じ場所には現れません。ディズニーランドのミッキーマウスと同じです。
 ミッキーマウスは世界に一人という都市伝説の事。
 https://castel.jp/p/732
 ミッキーは本当に世界に1人?調べてはいけない魔法の裏

※9 2人のケアもするから
 段落タイトルの意味、判っていただけました?

※10 双子の見分け方
 https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%9E%E3%83%8A%E3%82%AB%E3%83%8A#%E8%A6%8B%E5%88%86%E3%81%91%E6%96%B9

Comment(1)

コメント

atlan

自分でバクリかと書いてしまう著者・・・
CIAvsMI6の戦いかぁ

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