「生活イチバン、ITニバン」という視点で、自分なりのITを追及するフリーエンジニアです。ストレスを減らすIT、心身ともにラクチンにしてくれるITとはどんなものかを考えていきます。

エンジニアはcafeにいる

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 俺は小さな開発会社に勤めるソフトウェアエンジニアだ。

 どうも世間ではエンジニアに対して「おたく」っぽいイメージを抱く人が多いようだ。しかし実際のエンジニアは、かなりハードボイルドな職業だと俺は思っている。

 例えば、死にかけのプログラムが最後のチカラを振り絞って吐き出した不完全で謎に満ちたダイイングメッセージを起点として、注意深く、繊細に、根気強く事象の断片をたぐり寄せ犯人を探し出す。ときには、何日も徹夜を続ける体力と精神力が必要となる。まさにハードボイルドな生き方ではないか。

 今も迷宮入り寸前のバグを徹夜で解決し、ソースをチェックインしたばかりだ。疲れ切った頭にはカフェインが効く。俺はいつものカフェのいつもの席に座り、独り濃いコーヒーでバグの解決を祝っている。

 モバイルデバイスの普及にともない、通信インフラや電源の整備によって、今ではカフェはエンジニアにとって第2のオフィスともいえる場所になった。とはいえ、一仕事終えた後にはやはりすべてのデバイスの電源を切ってゆったりとコーヒーを味わいたい。これぞエンジニアにとっての至福のひとときだ。

 と、カフェの扉が開き、ひとりの女が店に入ってきた。とっさに、俺の頭の中で警戒警報が鳴り響く。『あいつはいつも厄介な依頼を持ってくる……』

 案の定、女は注文カウンターには目もくれず、微塵の迷いもなく俺のいる席に向かって来る。俺は女を見つめながらコーヒーカップに手を伸ばした。

 「先輩!!」

 「うむ。よくここがわかったな。また仕事の依頼か?」

 「ていうか、仕事中ですよ! ケータイの電源も切って、何してるんすか?」

 「あぁ、一仕事終えて一服しているんだ」

 「仕事終わってないし……。バグです! 今すぐ直して下さい!!」

 「ほほぅ、またバグか。で、容疑者は挙がっているのか?」

 「いやいやいや……。犯人は先輩っすから。単体通ってないソースをチェックインすんのやめてくださいよ! 何度言ったら分かるんすか!!」

 ふむ、なるほど。至福の休憩時間は終わったようだ。そろそろ行かねばなるまい。

 「よし、行こうか」カフェの窓から差し込む日差しに目を細めつつ、カップに半分ほど残っていたコーヒーを一気に飲み干すと、俺は立ち上がった。またタフな一日が始まりそうだ。

 さぁ、あなたもブラウザを閉じて自分の仕事に戻りたまえ。いずれまた、このカフェでお会いすることもあるだろう。

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