開発現場のシュルレアリスト
先日、『<遊ぶ>シュルレアリスム』という展覧会(*1)に行って来た。
シュルレアリスムとは「超現実主義」と訳されたりするが、その訳では今ひとつピンと来ない。我々が「シュールだね」と言うとき、そこには「わけわかんねぇ」というニュアンスが含まれる。不可解な言動、非現実的な出来事、奇抜で思わずのけぞってしまうようなファッションなど。ただし、「わからない」と言いつつも、実はニヤリとしてしまうユーモアとかジョーク的なスパイスの味を楽しめるのがシュルレアリスムの良いところだ。
■現場にはシュルレアリストがいっぱい
さて、この展覧会でわたしは様々なシュールな作品を楽しんできたわけだが、とあるコーナーでシュルレアリスムを説明する壁の解説文の中に、「シュルレアリストはモノを意味や機能などを持ったThingとしてではなく、単なるObjectとして扱った」というのを見つけた。一言一句正確に覚えているわけではないのだが、そのような意味のことが書いてあった。
その説明を読んだときに、objectという言葉からITシステムを連想し、「開発の現場には、実はシュルレアリストがあふれているのではないだろうか?」などとシュールなことを考えたりしてしまった。
我々エンジニアはアーティストではない。だからシュルレアリスム的なアート作品としてのシステムを構築したところで、なんの評価も得られない。しかし、「これはなかなかステキだね、オブジェとしては」と言いたくなるようなドキュメント、ソースコード、そして完成品としてのシステムに出会うことがよくあるのも事実だ。
■シュールなエンジニアとは
上述したような、アート作品としてのオブジェとしか思えないような成果物を生産するエンジニアは、まさにシュルレアリストということができる。シュルレアリスムの技法を駆使してシュールなオブジェを制作しているアーティストというわけだ。しかし、そんなエンジニアなど本当にいるのだろうか?
それを確認するために、いくつかシュルレアリスムの技法を覗いてみよう(*2)。
『オートマティスム』
この技法は、もともと心理学用語で「自動筆記」と呼ばれているものだ。シュルレアリストは、眠りながらの口述や、常軌を逸した高速で文章を書く実験などをしながら超現実的な文章を表現しようとした。
ITエンジニアも、睡眠不足で半ば眠りながらキーボードを叩いたり、常軌を逸した納期を守るために高速でコーディングすることにより、超現実的なシステムを表現する場合がある。コーディングだけではない。超現実的な文章という意味では一級品と呼べるような意味不明な仕様書を鑑賞させられるプログラマもいるだろう。
『デペイズマン』
この手法は、意外な組み合わせによって受け手を驚かせたり途方に暮れさせたりするものだ。たとえば、モノをそれが本来あるはずがない場所に置く、対象のサイズを実際より大きくあるいは小さく描く、カタチはそのままで材質を異質なものに変える、など。
この技法がお得意なITエンジニアも少なくない。「この機能がなんでこのクラスに実装されているんだ?」「この変数のサイズは・・・、っていうか初期化してねぇだろ!」「ええと、ここ、呼び出すクラス間違ってるから。」
『デカルコマニー』
「転写法」を意味する用語。まず、ガラスや紙に絵具を塗る。すぐに別のガラスや紙をそこに重ねて押し付けた後、はがす。するとそこには制作者の意図ではコントロールすることのできない模様が生成されている。これがデカルコマニーだ。
制作者の意図でコントロールできない?それはまるで、テストが不十分なままリリースされるシステムそのものではないか。
『トロンプ・ルイユ』
これはトリックアート、騙し絵のことだ。
見た目(UI)だけは超立派なトロンプ・ルユイ的なシステムは、きっとこれからも大領生産されるだろう。
■エンジニアはリアリストでなければならない
このように、シュルレアリスムの作品を生み出すための壮大な実験場のようなシステム開発の現場を、わたしは数多く見て来た。あなたも見たことがあるのではないだろうか?
しかしこれではいけない。我々エンジニアは、徹底的なリアリストでなければならないのだ。ではどうすればよいのか。シュルレアリスムの技法は、コントロールを外すベクトルを持っている。その逆を心がければいいのだ。
自分がコントロールできないものは作らない。意味不明なものは作らない。当たり前のことではあるが、もう一度、いや、常に確認し続けてて欲しい。あなたが生み出している成果物は、100%あなたのコントロール下にあるだろうか?
もちろん、ハードな仕事で疲れきった心を癒すために、良質なアートに触れるのは大切なことだ。わたしもマン・レイやサルバドール・ダリ、植田正治などの作品が大好きだ。しかし、シュルレアリスムを楽しむのは、職場の外だけにしておいた方がよいだろう。
(*1)損保ジャパン東郷青児美術館(2013/07/09~2013/08/25)
(*2)シュルレアリスムの技法については、Wikipediaを参考にした。
コメント
仲澤@失業者
過去に発見したシュールなクラス群(発見者:仲澤研究員)
■犬種紹介アプリにおける不具合報告
及び当該アプリの雛形となった雑貨品DBについて。
■経過
○月×日、当該アプリのコードにおいて、「犬」と「椅子」が共通の祖先
「四つ足」から派生していることを発見。
この設計によると、複数の犬種に混じって「丸型スツール」が
リストされる可能性があることを確認した。
■調査
「四つ足」の派生元は「足を持つもの」であったが、
「歩く」メソッドが実装済みであるため、当該の「丸型スツール」は
実際に歩行可能だったと思われる。
■対応
「四つ足」の担当者は、これに「吠える」メソッドを追加作業中であった、
危うく、歩きながら吠える椅子ができあがるところであったが、すみやかに中止させた。
以上。
onoT
仲澤研究員さま、詳細なレポートありがとうございますw
早い段階で問題を発見出来て何よりでした。
放っておいたら、リードに繋いで毎日散歩させなきゃいけない椅子になりそうな勢いでしたね。