テストエンジニア時代の悲喜こもごもが今のわたしを作った

「WACATE 2009 冬」参加レポート(その3)――心が変われば、否!心を変えるのだ!

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 こんにちは、第3バイオリンです。

 参加レポート(その1)と(その2)で「WACATE 2009 冬」の1日目の様子をお伝えしました。

 今回は、2日目のセッションの内容をお送りします。

■メトリクスのWhyを考えよう

 2日目最初のセッションは、WACATE実行委員の原 佑貴子さんによる「メトリクスのWhyを考えよう」でした。

 仕事でなんらかのメトリクスを測っている、という人はわたしも含め多いと思います。しかし、何を測るのか、何のために測るのか、きちんと意識できているでしょうか? このセッションでは、GQM法の演習を通して、メトリクスを測る目的について考えてみました。

 GQM法について簡単に説明しますと、まずメトリクスを測定する目的(Goal)を定め、その目的を達成するために何が分かればいいかという質問事項(Question)を決めます。その質問に答えるために必要なメトリクス(Metric)を割り出す、ということです。

 GQM法では本来ならG→ Q→ Mの順番で決めるのですが、演習では順番を逆にして、まずメトリクスが与えられることになりました。

 「あるプロジェクトのトラブルの原因を突き止めるため、ソースコードのコメント率(コードの全行数に対するコメント行数の割合)を測定することになった」というシチュエーションで、提示されたコメント率のグラフから読み取れることをまとめ、なぜコメント率を測定するのか、測定することで何がわかるかをグループでディスカッションしました。

 このときのディスカッションは白熱しました。わたしも言いたいことは十分言えたと思います。最後に、各グループの見解を順番に発表しました。同じデータを見ていても、グループによって見解が異なるのが印象的でした。

 最後に、このセッションを見ていた細川 宣啓さんから「単にメトリクスを測るだけでは人を動かすことはできない」というお言葉がありました。今まさにこの状況に陥ってしまっているわたしにとっては耳の痛い一言でした。

 このセッションのあとの昼休みに、参加者と昼食を取りながらコメント率について話しました。コメント率の定義から始まり、「コメントの付け方って性格出るよね」という話題に移り、しまいにはコーディング担当者の血液型とコメントの付け方の関係にまで話が飛躍してしまいました。いやー、楽しかった! わたしも「この人たち、何者!?」の仲間になれたような気がします。

■BPPセッション

 昼休みの後は、BPPセッションです。

 まずはBPPセッションとは何かを説明します。WACATE参加者は申し込み時にポジションペーパー(立場表明書)を提出します。参加者は全員分のポジションペーパーの中から、一番良いと思ったものに投票します。参加者からもっとも支持を集めたポジションペーパーを書いた人に「ベストポジションペーパー賞(Best Positionpaper Prize)」(以下、BPP賞)が贈呈されます。

 BPP賞を受賞した人は、次回のWACATEに無料でご招待となります。その代わり、そこで「BPP賞を受賞してからの半年」というテーマで発表を行う義務があります。その発表がBPPセッションです。

 今回は、「WACATE 2008 冬」のBPP賞受賞者の近江 久美子さん、「WACATE 2009 夏」のBPP賞受賞者の渡辺 由希子さんのご両名の発表がありました。

■変化の中でテストしてみての気づき

 まずは、近江さんの発表です。

 テストの作業では、仕様変更などの思わぬ「変化」によってテスト内容が変更になる、または先の見通しが立てにくくなるということがよくあります。そんな状況の中でテストをするために工夫できることはないでしょうか。近江さんは次の2つのことを自らの気づきとして挙げました。

1. テストの観点を事前に明確にする
 テストで何を確認するか、どのテストに注力するかを明確にしておくことで、考える基と出発点ができます。そうすれば想定外のことが起こっても、すぐに立て直しが可能です。

2.日ごろからトレーニングをする
 見通しが立てにくいときこそ、基礎体力がものを言います。それに、トレーニングは事前にひとりでも行うことができます。

 開発チームや親会社の都合に翻弄されることがあるわたしにとって、非常に参考になるお話でした。近江さんは最後に「自分自身、まだまだトレーニングが必要です」とおっしゃっていましたが、それはわたしも同じです。

■品質について考える

 次は、渡辺さんの発表です。

 渡辺さんは、去年の冬ごろからテスト設計、障害対応の仕事をする中で「本当に顧客に寄り添ったテストができているのか。開発側に都合がいいようになっていないだろうか」という疑問に悩まされるようになったそうです。

 そんな折、WACATEの存在を知り、今年の夏に初めて参加しました。参加したことで、レビューの観点には経験から得られるものと、経験がなくても得られるものがあることを知ったそうです。

 渡辺さんは自分の観点を広げるために、社内で最もチャレンジングなプロジェクトへの参画を決めました。また、社外の勉強会に参加し、そこで得たものを社内の勉強会でフィードバックしてテスターの意識を高める活動も行っているそうです。

 テストを改善するために学び、実行している渡辺さんのお話を聞いて、わたしも見習いたいと思いました。わたしも学んだことを現場にフィードバックしたいと思います。

■技術者としての心・態度・習慣

 BPPセッションの後はWACATE副実行委員長の山崎 崇さんによるグループディスカッションでした。

 このセッションでは、事前に参考文献として、清水 吉男さんの「わがSE人生に一片の悔いなし」という本が紹介されていました。セッションの最初に、この本に掲載されている言葉が紹介されました。元々は、アンリー・フレデリック・アミエルという人の「帝王学ノート」という本の言葉だそうです。

「心が変われば 態度が変わる
態度が変われば 習慣が変わる
習慣が変われば 人格が変わる
人格が変われば 人生が変わる」

 さすがに人格、人生までは今すぐどうにかできるものではないので、技術者としての心と態度、習慣について、グループディスカッションを通して考えてみました。

 まずはグループ分けです。年齢やキャリアが異なると、技術者としての心構えも異なります。そのため、比較的年齢が近い人が同じグループになるように編成されました。各チームでメンバーがそれぞれ考える技術者としての心、その心から現れる態度、態度から生まれる習慣について意見を出し合い、模造紙にまとめて発表しました。

 永遠の20歳チーム、ベテランチーム、(0x)20代チームetc. ……さまざまなチームがありましたが、みごとにチームのカラーが出ていました。ベテランチームの「健康に気をつける」「オヤジギャグ封印」なんてなかなか若い者には思いつきません。

 グループのメンバー同士で、お互いにこれから自分がどうなりたいのかを真剣に考え、意見をぶつけ合った時間はとても濃い時間でした。

■先人たちの生き方から学んだSE人生  ――自らも “莫作の力” を求め続けて――

 「WACATE 2009 冬」の最後を締めくくるのは、先ほど紹介した本の著者、清水 吉男さんによるクロージングセッションでした。

 まずは、清水さんのことを簡単に紹介します。清水さんは1968年にソフトウェアの世界に入り、途中で組み込みシステムの世界に転向しました。さらにCMMと出会ったことでUSDMやXDDPといった開発プロセスを発表し、プロセス改善のコンサルティングに転向した方です。

 清水さんがソフトウェアの世界に飛び込んだころ、「プログラマ」という職業はまだ世の中に認知されていない時代でした。当時、友人に「プログラムを作っている」と言ったら「運動会のプログラムを印刷しているの? 変わった仕事だね」と返されたそうです。

 コンピュータに夢を持って飛び込んだ清水さんでしたが、そこで大きな挫折を経験し、一度はコンピュータの世界を飛び出してしまいました。しかし、そんなとき「論語」に出会い、思いなおして再びコンピュータの世界に戻ることを決めました。それから紆余曲折あり、たどり着いたのは「仕事の仕方」という技術でした。

 セッションのサブタイトルにある「莫作の力(まくさのちから)」とは、「悪いことをしようと思ってもさせてくれない力」をいうそうです。残念な話ですが、IT業界ではいまだに「顧客の要望に矛盾があるけど、言われたことだけやればいい」「とりあえず動くものを出せばいい」といったことがまかり通ってしまっています(このあたりは、他のコラムニストさんも指摘されていますね)。

 そのような空気の中で生きていれば、内心「これってマズイよね」と思っていてもついついやってしまう、そのうち「マズイよね」という感覚すら麻痺してしまう……という状態に陥ってしまいます。

 だから今のIT業界にこそ、この莫作の力が必要なのですが、そのためには気持ちだけではダメです。きちんとした知識や技術を身に付けなくてはならない、というお話がありました。

 さすがにセッションの内容すべてをこの場で語ることはできないので、ぜひ「わがSE人生に一片の悔いなし」を読むことをおすすめします。私も読みましたが、本当に良い本です。特に若いエンジニア、現在仕事に行き詰っている人、自分の将来について不安や迷いがある人は絶対に読んで欲しいと思います。必ずこの本が助けてくれるはずです。

 セッションの最後に、清水さんはこうおっしゃいました。

「『心が変われば 態度が変わる』ではなく『心を変えれば 態度が変わる』。能動的に心を変えていってほしい、そして、あなたがたを生み育ててくれたご両親に、自分の生き様を見せてあげてほしい」

 正直言って、この言葉を聞いたとき、わたしはちょっと泣きそうになりました。年末に実家に帰ったとき、両親に自分の生き様を見せたいと思います!

■二日間の終わりに

 クロージングセッションの後、WACATE実行委員長の池田 暁さんから、閉会のご挨拶がありました。そして、今回のBPP賞の発表がありました。今回受賞されたのは、ベテランの男性の方でした! WACATEでは若手エンジニアが主役です。しかし、ベテランの方も負けてはいません。若手とベテランがともに切磋琢磨できる場であることを実感しました。

 最後に、全員で記念撮影を行って、テスト三昧の2日間は終了しました。

 ◇ ◇ ◇

 テストエンジニアになってから、ここまでテストのことだけを真剣に考えた2日間は初めてでした。会社にいるだけでは絶対にできないような経験を積むことができ、たくさんの気づきを得ることができました。本当に、来てよかったと思います。

 次回はいよいよ参加レポート最終回。後夜祭の様子と、参加してみて思ったあれこれをお伝えしたいと思います。

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