なめられないITスペシャリストになろう

帰納法『のようなもの』講座(1)

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 2009年も残すところわずかとなりましたが、ITエンジニアの皆さんはいかがお過ごしでしょうか。正月休みのない方も多数いらっしゃると思いますが、お体にはくれぐれも気を付けて下さい。

 さて、前回のコラムで、これからITコンサルタントについての話に加え、新ロジカル・シンキング体系MALTに関連して、本には書ききれなかったことや、出版後に発展した内容などを紹介してきたいと書きました。今回は、その流れでロジカル・シンキングに関連する小ネタを紹介する第1弾になります。

 今回のテーマは帰納法についてです。この帰納法というのは論理の組み立て方のひとつなのですが、わたしの本ではこの話題に触れるのを明確に避けました。これには理由があって、帰納法については誤解や勘違いが多く、その説明をしないと混乱が生じてしまうのですが、この説明が結構面倒でそのために紙面を割くことができなかったためです。

 そこでこのコラムの場を借りて、そこで書けなかった内容を紹介しようというわけです。題して、「帰納法『のようなもの』講座」です。3回くらいに分けて提供の予定です。このタイトルの意味はおいおい説明していきます。

◆正直、納得感ありますか?

 さて、詳しい説明をするまえに次の文章を読んでみてもらえますでしょうか? そして、ご自身の正直な意見として「納得できる」か「納得できない」かを判断してみてください。

  1. 「フランスの戦車がポーランド国境にいる」
  2. 「ドイツの戦車がポーランド国境にいる」
  3. 「ロシアの戦車がポーランド国境にいる」
    よって
  4. 「ポーランドが戦車によって侵略されようとしている」

 これはとても有名な例で、わたしはかねがねどれだけの人にとって納得感があるのかをぜひ知りたいと思っていました。そこで、ここから先を読む前に、もしよかったら以下のアンケートにお答え下さい。

 上の文章を読んで、「そりゃあ当然そうだろう」「あたりまえじゃん」と思われた方は「納得できる」の回答を、「なぜこんな結論出せるか理解できん」「理由になってないじゃん」と思われた方は「納得できない」のほうの回答をお願いします。なんとなくくらいの軽い気持ちで結構です。来年はじめに締め切って結果はお伝えしたいと思います。

 上でも書いたように、これはとても有名な例なので、出典を聞くと判断が変わってしまうかも知れません。ですから、知っている人がいても、コメントでネタばらししないようお願いします。出典は次回に紹介します。

 ググっても出てきます。ググっても特に危険はありません。が、まずは自分の正直な感想で答えてみて下さい。これからのITエンジニアにとってもっとも大切なのは、自分の頭で考えられる力だ、ということで。

◆ロジカル・シンキングができないエンジニア向け教育

 上の例は、わたしがITエンジニア向けにロジカル・シンキングを整理しようと思い始めたある出来事の中で遭遇したものです。では、その出来事のあった5年以上前にさかのぼってみましょう。

 ウルシステムズという会社は、ITコンサルティングを行う会社で、その主要な構成メンバはSI会社出身のエンジニアとコンサルティング会社出身のコンサルタントになります。それぞれ、得意分野が違っているわけですが、当時はまだコンサルスキルの育成が十分ではありませんでした。そんな背景から、コンサルタント出身者のグループリーダから、次の問題提起を受けました。

  • リーダー:「エンジニア出身の皆さんのほとんどは、このままではコンサルティングの仕事は難しいですね」
  • わたし:「それはどうしてでしょうか?」
  • リーダー:「ロジカル・シンキングの基本ができていません」
  • わたし:「それでは、エンジニア出身のメンバにロジカル・シンキングの基本の手ほどきをしてあげてくれませんか?」

ということで、そのコンサルタント出身のリーダに資料を作ってもらい、エンジニア出身メンバ向けのロジカル・シンキング講座を開催してもらうことになったのです。さて、その資料を見せてもらったところ、最初のほうのページでこんなことが書いてありました。

  • 論理には演繹法と帰納法がある

  • 演繹法の例
  1. 「鳥は空を飛ぶ」
  2. 「わたしは鳥だ」
    それゆえに
  3. 「わたしは空を飛ぶ」

 もし本当に自分が鳥だと主張する人がいたら、あまり関わり合いになりたくないなあ、といった余計な感想はひとまず置いておくことにすると、これは確かに納得できる理由付けになっています。

 さて、これに続いて出てきたのが冒頭の例になります。

  • 帰納法の例
  1. 「フランスの戦車がポーランド国境にいる」
  2. 「ドイツの戦車がポーランド国境にいる」
  3. 「ロシアの戦車がポーランド国境にいる」
    よって
  4. 「ポーランドが戦車によって侵略されようとしている」

 これを読んだわたしは次のようにコメントせざるをえませんでした。

  • わたし:「帰納法でこの結論は出せないと思いますよ」
  • リーダ:「えええー、そうなんですか?」

 この時の彼の顔に浮かんだ驚愕の表情は今だに忘れられません。

 もちろん、これには理由があります。わたしは続けて、

  • わたし:「帰納法とかいう以前に、正直、納得感ありますか?」

と聞きました。これが、今回の冒頭の質問です。

◆帰納法『のようなもの

 ここで使われている帰納法『のようなもの』は、帰納法とは別の論理の組み立て方です。すでにご承知の方も多いと思いますが、意外に知られていなかったりするようです。これについての解説は、年が明けた次回にしたいと思います。

 それでは、皆様、良いお年を。

Comment(7)

コメント

ひら

林さま

こんばんは。
検索が下手なのか、ググっても簡単に答えが出てこなかったので
無い頭を搾って考えてみました。

命題には、フランス・ドイツ・ロシアの敵・味方の区別が明示されていないの
ではないでしょうか?

第二次世界大戦を先に連想すると、納得感ありますけど、冷静に
命題として捉えるとうまく筋がとおりませんね。

といった答え方で宜しいのでしょうか?

wona

テーマよりもこのグループリーダーがその後どうなったのかの方が気になります。この人すごいなあ・・・。(笑)

ひらさん、

今度「帰納 ポーランド 戦車 侵略」でググってみて下さい。
でも、ネタはらしはなしでお願いしますね。

ググる前に頭を絞るのはとても良いことだと思います。
詳しくは次回議論しますが、与えられた情報だけから結論が出せるのかどうかというのは重要な視点になります。

wonaさん、
リーダーの彼は今別の会社にいますが、当時も今も非常にしっかりしたコンサルタントとして活躍しています。多くの戦略コンサルタントはこの資料に、違和感を感じないんじゃないかと思いますね。彼が驚愕したのはそのためです。この理由はやはり次回説明します。

あさくら

こんにちは。

問題の出し方に”問題”があると思います。
「納得できるか」は、非常にあいまいです。

プログラマが、この仕様でプログラミングできるかと聞かれたら、絶対にできない(まったく納得できない)と答えるでしょう。私はそう言います。
しかし、状況を想像して(自分で想定して)、答えるとなると、かなり難しいと思います。結局、投票は、どちらかというと納得できないにしました。
(ググッっていないので、問題の本質などはわからず言っています)

筋道を立てて物を考え、人を納得させるということは、すべての仕事の最初のステップだと思います。今回の問題で、これはおかしいと思わない人は”おかしい”と思ってしまいますが、それは話の筋道を”純粋に”考えるか、”状況に則して”(または言葉に表れない言葉を読んで)考えるかの、”訓練の違い”と思います。

コンサルにとって、筋道を立てて考えることは最初のステップとして重要な課題と思いますが、(自分で想定して)が、”コンサルティング”の仕事のような気がします。

自分で想定して/=自分の思い込み  ← 念のため。

余計な一言ですが、私は仕事の上でこのようなあいまいな質問をされると(まして前提条件から結論が必然な場合)、言葉の裏を考えてしまいます。

あさくらさん、

コメントありがとうございます。

ひょっとしたら能力を試す”問題”のように見えてしまったかも知れませんね。でも、この質問は純粋にアンケートなんです。

この後、「納得できる」と「納得できない」のどちらのほうが正解とかいう話を展開するつもりはありません。ではこのアンケートの結果にどんな意味があるんだ、という話は次回に説明します。

ご指摘のとおり「訓練の違い」という側面がかなりあります。この点についても次回、わたしの考えを述べます。

しっぱ

こんにちは。しっぱと申します。

帰納法・・・・
いやいやなんか懐かしい響きです^^;

帰納法はあくまでも「推測」の域を出ることはできないので、「納得」するかどうかは状況によりますが、
1~4の箇条書き文だけでは納得しかねますね。

まず上ですでにひらさんがおっしゃられているように
「敵・味方の区別が明示されていない」

次に
「ポーランド国境にいる」とだけで侵略の意思については触れられていない。
(同盟国でも裏切りがあるかも・・・)

さらに日本語の問題として
「~の戦車」というものが~で作られた戦車を指すのか~軍に所属する戦車なのか不明で、且つ国境の「内側」なのか「外側」なのかも不明ですね。
あと「侵略されようとしている」となっているのも気になります。。。。
(これは的外れかな・・・・・)
ひょっとしたら「侵略」が終わった後の引き上げかもしれない・・・・

まあ、言葉尻を取りだしたら切りがありませんが、少なくとも与えられた条件が抽象的且つ多重の意味にとれてしまう段階で「帰納法」以前のもんだいかもしれませんね。。。

というより意図的に作られたパラドックス的要素をもった問題なんですかね???

次回のコラムが楽しみです!
検索なしで書きたい放題書いてしまいました・・・
大変申し訳ありません^^;

しっぱさん、

こんにちは。
いろいろな観点から考察して下さり、ありがとうございます。
ご指摘の通り突っ込みどころ満載ですよね。でも特にパラドックス的な問題ではなくて、普通の説明の記述なんですよ。
解説(というかネタばらし)は、投票数がもう少しだけ増えたら公開しますね。
本コラムに関してはツイッターでもつぶやいていこうと思っています。覗いてみて下さい。
http://www.twitter.com/ko1hayashi

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