技と名がつくと深入りしてしまうスキルマニアのエンジニア

デジタルネイティブとパーソナルナラティブ(4) デジタルなソクラテス 前編

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 ミルの言葉からはじめましょう。「満足な豚であるより、不満足なソクラテスを」

 不満足であるがゆえに、永遠のベータ版です。問題点をあぶり出し、カイゼンを続ける。わたしたちの言葉と行動もまた哲学的ではないでしょうか。人生、システム開発。日々、デバッグです。

 哲学ネイティブのはがねのつるぎです。

 目の前に広がる情報の海。たとえ、情報の波が荒れ狂うとしても、わたしたちはまだ何もしらない。「無知の知」という存在でありましょう。

■デジタルネイティブは「年齢・肩書き・所属を重視しない」

 それを、フラット化といいます。以上。

 と言い切れば話は終わります。わたしたちは、フラット化された世界でどう生きていけばいいのでしょうか。

 ソクラテスにとって属性は昔からどうでもいいことでした。アテナイの街ゆく人々と会話を続けます。しかし、今の時代。哲学者たちは、デジタルという城壁に囲まれた都市で生活しています。

 市民権が欲しいと思いました。どうすればいいのでしょうか。移民するには、ITスキルというあたらしい属性が必要です。

 パソコンが使える/使えない。ネットが利用できる/利用できない。そこはあまり重要な問題ではありません。パソコンを買いました。ネットにつながりました。お遊びで触っています。それでは、足りません。デジタルネイティブたちの街はその先にあります。ITスキルが、年齢・肩書き・所属の変わりとなるのです。

■何を重視するのか

 哲学者たちの住む街は、どこにでもあるありふれた都市。気心のしれた仲間ならリアル世界でもみつかります。ソクラテスはどこにいるのでしょうか。

 デジタルネイティブに権威という属性は存在しません。人と人はお互いに対等な立場の関係です。いままで、まったく接点のなかった人たち。ネット住人は星の数ほど存在します。個と個が何を求めてつながるのか。集う理由が必要です。

 ソクラテスに会いたい。そのためにデジタルの街で暮らしはじめました。自分の部屋にいて、座して待つだけではアポイントメントもコンタクトもとれません。

■自分のターンは行動する

 アクティブに、こちら側から探します。どうやってみつけるのか? SNSやブログから情報を収集する。もはや、常識となりました。

 ネット上での「コミュニケーション」スキルが必要です。

 パッシブに、相手からのコネクトを待つ。それは、何もしないという意味ではありません。情報を配信する。その行動はアクティブです。アウトプットを出して待ち続けるのです。たとえば、ブログのアクセス数はパッシブといえましょう。ネット上には、パッシブに情報を提供している人がたくさんいます。

 ネットに対してコンテンツというカタチでサービスを提供する。自分自身を出力するサーバにするのです。

 アクティブとパッシブ。アクティブにおもしろいブログを探す人。おもしろいブログを書いてパッシブに待つ人。

 ポートをファイアウォールでブロックしていては受信も送信もできません。コミュニケーションプロトコルを閉じてはダメです。リッスンするポートを明示的に開きましょう。

■自分のターンを有利にする

 毎日、欠かさずチェックするブログ。選択する基準は何でしょうか。なぜ人気のあるブログと人気のないブログが存在するのでしょうか。

 ひとつは、リアル世界の友人。もうひとつは、独自の何かを持っていること。文体なり、意見なり、あるいは、有名人であったり。

 「何ができるのか」

 言葉だけではありません。絵でも音楽でもなんでもいい。パケットはデジタルに還元できるものすべてを運びます。自分にはできないこと。その人にしかできないこと。あるいは自分のかわりに実行してくれる人。それらを求めて人はつながろうとします。

 「コミュニケーション」と「何ができるのか」。このふたつを持っていればソクラテスにあえることでしょう。

■その1「コミュニケーション」

 ソクラテスは対話を重視しました。コミュニケーションは哲学者たち、ひとりひとりをつなげる接着剤です。同時に、お互いを補完するもうひとつのカタチを持たない頭脳でもあります。

 それは、ただの対話ではありません。道具を使ったコミュニケーションです。

■デジタル以前のツール

 パソコン、ワープロが普及し始めたころ、「文章は手書きじゃないとダメだ。温かみがないじゃないか」と言っていた人はどこにいったのでしょうか。

 機械や道具は感情がない。冷たいもの。だとしたら、万年筆やえんぴつにも感情なんてありません。筆やすずりでさえ道具です。いや、粘土に文字を刻むことすら気持ちを伝えることは不可能でしょう。

■デジタル以降のツール

 会話から言葉だけを取り出して何かを伝える。言葉の技法は発展してきました。ディスプレイ上の文字にさえ人の思いは乗せることができるのです。

 何を使うかではなく、どう使うのか。自分たちが使い慣れた道具だけでなく、新しいツールも積極的に取り込もうとする姿勢。それも、重要なコミュニケーションスキルのひとつでありましょう。

■ツールは進化する

 心を運ぶのは、文字だけではありません。文字で書かれた言葉も心の乗り物です。言葉はパケットに乗ります。そして、ハードの進化とともに、パケットの可能性はひろがりました。言葉以外の要素をのせることもできるようになります。音声や、映像までも。パケットは運びつづけます。

 活字やデジタルデータでそぎ落とされた部分。パケットはそれも飲み込みます。回収してネットワークに流すのです。アンチデジタルがいう「温かみ」が復活したのです。完全ではないにせよ。

 それは、あたらしい属性が増えたことを意味します。もはや、言葉だけでは足りません。

■進化のはてに

 たとえば、友達とスカイプで会話中。むこう側から送られてくる画像には本人の顔、表情がありありと映し出されています。とうぜん、その背景は彼の部屋。日常が見えて楽しいと思うのは、ごく親しい間柄だけでしょう。恥ずかしいポスターはありませんか? 部屋干ししている洗濯物が残っていたりしませんか? 今のうちにマイルームぐらいはコギレイにする習慣は身につけておきたいものです。

 動画によるコミュニケーションの普及。今まで以上に見た目属性が重視されることでしょう。ネットも見た目が9割になる日がくるのです。ネットによる見た目社会が実現するのです。正確には、パケットが送信可能な見た目です。

 話し方やしぐさ、あるいは空気とかオーラとか雰囲気とか。言語以外の要素。ノンバーバルなものすべてをパケットに乗せることもできましょう。量子化できないものが情報落ちすることもあります。しかし、量にしてごくわずか。普段の自分からほんの少しだけ割り引かれる程度のこと。不満なら自分を大きく成長させればいいだけです。

■仕事とは契約を結び、契約をまもること。

 話を番組に戻します。

 15歳のCEO。インドの少年。アンシュール・サマーくん。デジタルネイティブの代表者としてクローズアップされていました。彼は、自分の考案したカードゲームをカタチにするために奔走します。自分に必要な人材を探し出すのにネットを利用しました。世界中からつぎつぎと有用な人物をピックアップし、仕事をオーダーします。

 ネットで仕事が完結する。それは、あたらしいことなのでしょうか。むかしも今も、手紙やFAXで仕事の契約を結ぶことはよくありました。通販はお客さまの顔も、販売員の顔も知らないままに、商品の購入ができるシステムです。仕事とは一方通行ではありません。依頼する側、される側がいて成立します。つまり、ネットで仕事を引き受ける人が存在するということです。

 ネットで仕事の受発注ができる。すでに、そうゆう合意がある。

 アンシュール・サマーくんから仕事を請けたデザイナーこそ、デジタルネイティブではないでしょうか。ネット上に作品を公開し、コミュニケーションチャネルを開きました。そして、仕事の依頼を待ちます。クライアントが彼の作品を見る。必要だと判断する。メール経由で仕事を発注する。そして、仕事が受注される。依頼主が誰であろうと関係ありません。

 「お金さえもらえればいいのですから」

 年齢・肩書き・所属を重視しない姿がここにありました。

 対価を受け取るのは仕事である以上、あたりまえのことです。デジタルネイティブといえど、霞を食べているわけではありません。不特定多数に向けた情報は無料でも、オーダーメイドの情報には値段がつくのです。

 アンシュール・サマーくんは、カードゲーム作りというプロジェクトのためにネットを利用しました。デザイナーは、仕事のひとつとして、営業活動のひとつとして、作品を公開します。コミュニケーションのきっかけをネットに常駐させているです。

■己を知る

 15歳の彼はインターネットを最大限に利用します。なかなか、自分自身の見せ方が上手ではないでしょうか。メールで仕事を発注するときは、年齢を出す意味がないのを知っています。いっぽうで、動画では「大人になるまで待たなくてもいい」と若すぎる年齢をアピールします。

 コミュニケーション能力というよりも、プレゼンテーション能力に近いと思いませんか。デザイナーもしかり。みずからの作品をアップロードし、ポートフォリオをならべます。

 ネットの見た目社会。世界中でオレがオレがとプレゼンをする日がやってきました。それは日々、バージョンアップを繰り返し進化し続けます。彼らの自己主張も永遠のベータ版なのでしょう。

■次回予告

 ソクラテスは会話を通じて真理を求めました。デジタルネイティブはコミュニケーションツールを通じて何を求めるのでしょうか。

 涼宮ハルヒはいいました。

 「ただの人間には興味ありません。この中に宇宙人、未来人、異世界人、超能力者がいたら、あたしのところに来なさい。以上」

 遠くからレベルアップを告げるアラート音が聞こえてきました。

【本日のスキル】

  • コラムニストスキル:レベル12
  • デジタルネイティブスキル:レベル4
  • 哲学スキル:レベル1
  • フラット化スキル:レベル1
  • ITスキル:レベル99
  • コミュニケーションスキル:レベル4
  • 何かを成し遂げるスキル:レベル8
  • パケットスキル:レベル3
  • プレゼンスキル:レベル5
  • 自己紹介スキル:レベル0

【「デジタルネイティブとパーソナルナラティブ」バックナンバー】
 ・デジタルネイティブとパーソナルナラティブ(3) 情報の錬金術師
 ・デジタルネイティブとパーソナルナラティブ(2) Dear friend
 ・デジタルネイティブとパーソナルナラティブ(1) Born to be Digital

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