リーダーが来なくなった日
◆都市伝説が都市伝説でなくなった日
デスマーチという現象は、わたしのような平和なテストエンジニアには無縁の世界だとばかり思っていました。
そもそもこんな大不況のご時世です。「デスマーチ? それって都市伝説じゃないの?(笑)」という言葉を投げていました。そう、そのときが訪れるまでは。
急に仕事が忙しくなりまして、ある日急に帰れなくなりました。
なんとか帰れたと思ったら、朝早くに呼び出されました。
それがなくなったかと思えば、今度は休日に呼び出されました。
もっとひどいデスマーチはあるでしょうが、わたしにとってはこれも十分デスマーチです。そんな過酷な労働中に起こった事件と考察を、今日は書いていきたいと思います。
◆わたしよりも過酷な人
自分より過酷なのはリーダーでした。
派遣のわたしよりも早く帰れないし(まとめ業務などで遅くなっている)、お客様のクレームに必死になって対応しなければならない。さらにわたしたち派遣をまとめなければならない。
「~しなければならない」という言葉がいっぱいふりかかっているリーダー。
それでもリーダーは笑顔で働いていました。その姿をとても頼もしく「タフな人だなぁ……」と頼りにしていたと同時に、どこか心配でした。
◆前兆
体もずたぼろになっているある日のこと。出社したらいつもは早く来ているリーダーの姿がありませんでした。
今日は道路が混んでいるのかな? と思い、就業まで待っていたのですが、リーダーはあらわれませんでした。別の社員さんがリーダーに電話するも、つながらず。メールを投げても返信は来ず。
「あれ?」となっているチーム内。その日、事件は起こりました。
◆「リーダーがいないとコミットできない!!」
リーダーでないとできない仕事が一気に降ってきました。
まずはお客様からの業務の問い合わせ。メーリングリストで内容は流れてくるものの、メール窓口はリーダーです。メール機能、ストップ。
次にやってきたのはデータベースの更新作業。権限をもっているのはリーダーです。更新作業、ストップ。
さらにお客様が表れて「進ちょく表の場所がわからない。管理しているのは誰ですか?」と止まっている業務に対して青筋をたてながらやってきました。
「たしか進捗表ってリーダーだけが更新できて、管理もリーダーだったような……」
お客様大爆発。
「なんであの人今日いないんだ!!仕事にならないだろうが!!」
ひたすらお客様に怒られるサブリーダー。
その日は「申し訳ございません。リーダーは体調不良です」ということでなんとか収めてもらいました。
◆「あいつはどこにいった!!」
リーダーと連絡がとれなくなって2日目。その日もリーダーは現れず、業務はストップしたまま。お客様は頭から湯気が出そうなぐらい怒っておりました。
「あの人がいないとこのチームは何もできないじゃないか!!」
チーム内も「リーダーがいないとなにもできない!!」と来ないリーダーを恨み、サブリーダーも「すみません。すみません……」と涙を流しておりました。
リーダーの上の人が電話を離しません。しかし、電話の応答は「お客様のおかけになった電話番号は電波の届かないところにあるか、電源が入っておりません」の一点張り。
◆代わりのきかない仕事の危険性
この一連のやり取りを聞いていたわたしは本当に怖くなりました。「1人で責任を負うことの危険性」が怖いのです。
おそらくこの職場でも、リーダーにすべてのコミット権限を与えるのではなく、サブリーダーにもコミット権限を与えるなどしておけば、事態は重くならなかったでしょう。
1人で業務のなにもかもを背負うというのは三角錐を逆にして立てているぐらいバランスが悪いことなのです。つまり、いつ崩壊するかわからないということです。
◆幸いにも
パスワードを管理していたファイルは、サブリーダーにも見る権限があったため、サブリーダーがリーダーの代わりをすることで業務は徐々に回復していきました。しかし、サブリーダーも社会人3年目というまだまだ若い人でしたので、経験の豊富な派遣の方がフォローして、全員で助け合い、なんとかお客様の怒りもしずまりました。
◆「自分の代わりは常に用意しておくべき!!」
もちろん、ある程度「自分にしかできないこと」は仕事の中では必要ですが、背負いすぎるのはよくないです。
自分1人が頑張ってもいいことなんて何1つないのです。仕事は1人でやるものではありません。
「この仕事は自分にしかできない」なんて考えは捨てるべきです。
「この仕事が他の人にもできるように受け継がせよう」と、常に自分のバックアップを作るべきです。
◆好きです
リーダーは1週間後に帰ってきました。
失踪していた理由はよく分かりません。立場上、わたしから「仕事は1人でするんじゃない!!」とは言えません。
もし、このコラムを読んでいたら……仕事は1人でせずに皆で共同してやることを頭において行動してください。
1人で何もかも抱えこむんじゃない!!
愛をこめて書いておきます。
コメント
虚人
>愛をこめて書いておきます。
この最後の一言が、、、泣けます。
がると申します。
どうしても「できるできない」の問題があるので。技術スキルによる属人化(よく「属スキル化」とか言ってますが)はやむを得ない部分もあると思うのですが。
それでもなお、可能な限り(スキルの継承、伝授を含めて)「ほかの人にも出来るようにしておく」のは、とても大切な事だと思います。
…なかなかに難しくはあるのですが。