いろいろな仕事を渡り歩き、今はインフラ系エンジニアをやっている。いろんな業種からの視点も交えてコラムを綴らせていただきます。

エンジニア目線で”読書感想文”というものを考察し、強引に業務に結びつけて役に立ちそうな事を言ってみるコラム

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▪️読書感想文の悪夢

 学生時代の長期休みの課題で、いつも困っていた読書感想文。今思い返すと、教師に問いただしたい事がいろいろと浮かぶ。もやもやしているだけでも仕方がない。だからと言って、思いをぶちまけるだけでは利益が無い。

 そこで、「走れメロス」を題材に実際に感想文を書いてみる。仮にもエンジニアライフなので、感想文を元にエンジニアっぽい話に持っていって、業務の役に立ちそうな考察に繋げてみようと思う。

 まず、感想文とはどういうものか調べてみた。Google先生に聞いてみて一番最初に出たこのページを参考にしてみようと思う。出処はZ会だ。感想文を書く基準としては信頼性が高い。これを基準に、早速感想文を書いてみる。

▪️走れメロス -感想文とやらを書いてみた-

 とりあえず、課題図書として指定されたので読んでみた。課題を出さなければ成績に響く。脅迫じみた課題に理不尽を感じるが、自分の成績には代えられない。あまり乗り気ではないが、18歳の青春の数時間を、この本のために捧げることにした。

 まず、内容としてはありふれた古典作品という感じだ。人間不信の王様が田舎者をけしかけて覆される。そういう話だ。いかにもと言った感じの、古き日本人のロマンが漂っている。まさに勧善懲悪、ハッピーエンドのテンプレート的な作品だった。

 だが、終盤でメロスが全裸の全力疾走。あれは無い。戦後間もない頃の日本であれば許されたかもしれないが、現代の日本ではあり得ない。また、どんなに走って疲れても、血を吐くというのもあり得ない。普通なら貧血のような症状が出て、その場に倒れ込むはずだ。血を吐くということは、メロスは肺になんらかの病を抱えていたのではないだろうか。そんな心配がよぎった。

 もし私が太宰治なら、実はメロスは肺の病を患っていたという設定で続編を書く。最後に「私を友にしてくれないだろうか?」と言った王が敵国の策略にはまり、共に友情を誓ったセリヌンティウスを刺し殺してしまう。激怒したメロスが王のところにやってくるが、肺の病の為に王の目前で倒れる。メロスとの誤解を解くため、そして、メロスとの真の友情のため、王は肺の病に効く薬草を取りに走り出すのだ。

 この本を読んで、物語は終わらない。そう思った。人の世が無常である限り、何度でもドラマは起こる。そのドラマを一つ一つ拾い上げることで、必ず続編は書ける。そんな可能性を感じさせる一冊だった。

▪️課題としての要件をチェックする

 課題としてきちんと要件をクリアしているだろうか。先に出したこちらのページの基準を元にチェックしてみる。

 まず、"第一段落は、『その本と出会ったきっかけ』"に関しては、課題図書として指定されたのがきっかけだ。その旨は文中に明記してある。"第二段落では、わかりやすく簡潔に、『その本のあらすじ』を書く"に関しても、第二段落で分かりやすく要約した。次に"第三段落。分量的にも内容的にも、もっとも力を入れてください。"とあるが、力余って、第三段落と第四段落に分かれてしまった。

 "『どの部分が、なぜおもしろかったのか』"に関しては、作品をつまらないと感じた場合どうするのだろうか。これは課題図書を指定した側の「俺が薦めるんだ、面白いに決まってるだろ?」という無言の圧力を感じる。ここは独自の解釈で圧力に抗うことで、青少年らしさをアピールしてみた。

 そして最後の締めとして、"『その本を読んだ経験によって得たもの』"を明記しろとある。その指示に従い、自分なりに得た結論を明確に書き記した。段落は一つ増えてしまったが、内容としてはほぼ要件を網羅しているはずだ。

▪️これは本当に感想文なのか

 実際に感想文を書いてみて疑問に思う。これは感想文ではなく、考察ではないだろうか。書き方の基準には "「なぜおもしろかったのか」の部分が、実は読書感想文の核心"とあるが、つまらないと感じたら感想文は書けないことになる。

 課題で出されている感想文の実情は、本を売るための販促文章ではないだろうか。面白いという結論を断定されている以上、書く側に自由な感想を語る権利は認められていない。

 順序は逆だが、買わせてから面白い本だという前提で感想を書かせる。それを根拠に面白い本だと断定して、課題図書に指定して買わせる。そういう仕組みがバックボーンにある。これを根拠として販促文章と判断する。

 もし、要求された課題が本当に感想文ならこうなると思う。

--以下、感想文--

 課題図書の中からなんとなく選んだんですが、これ、すごいですよね!メロスが全裸で走るんですよ。しかも、そのまま群衆の前に躍り出て、殴り合いまでするんですよ!これ、マジ、超ウケるんだけどwww。多分、課題図書の中で一番笑えるのは間違いないと思う。

--以上--

 感想の実情なんてこんなものだろう。感想だけで文章なんてそうそう書けるものではない。課題を出した教師はそこまで思考が行き届いていたのだろうか?生徒に対する成果物を具体的にイメージできているとは思えない。それでも想定する内容で課題が提出されるのは、そこに「暗黙の了解」があるからではないだろうか。

 IT業界でもこのような、「暗黙の了解」に頼り過ぎる傾向は強い。自分が出した指示を振り返ってみよう。「暗黙の了解」を多く含んではいないだろうか。もし、多く含まれているのなら、思いもよらない成果物が出されて面食らうリスクが伴う。自分の望む成果物を正確に伝えるような指示を心がけよう。

Comment(6)

コメント

名作すぎる

この読書感想文、普通におもしろかった。まさかこういうオチが来るとは・・。そして、よくできてる。笑いのセンスを感じた。

nsh1960

コラム最終段の提言に共感する論理的思考を有する教師が忠実な論理の奴婢として感想文の仕様を生徒指導に指導して感想文を書かせた場合の悲劇というものが騒動できる。
この件に限らず日本の学校教育には不条理かつ非合理的な因習がまかり通っている。

Jitta

高校生なら、小学生向けのページを参考にしないように。
bingで「読書感想文」を検索した場合のトップはこれ
http://www.dokusyokansoubun.jp
「読書感想文 書き方」の場合、トップは知恵袋だったので2番目
http://dokusho.shisyou.com

Anubis

> Jitta さん
ただ調べたの貼り付けただけでしょ。
中身は確認しましたか?

基準に選んだ理由は、内容が簡素にまとまっていて分かりやすいからです。

・・・このネタでコラム一本書けそうなので今度書いてみようかな。

Jitta

・教師が出す課題は「課題図書のない読書感想文」である
・その課題の目的(の1つ)は「読書感想文コンクールに応募するため」である
・課題図書はコンクールの主催団体が決める
・コンクールで求められる感想文は感想ではない
・教師は、生徒の理解にあわせて、「読書感想文はどう書くべきか」を教科の中で教える

どうも、著者、読者間の暗黙の了解事項のようですね。

Anubis

> Jitta さん

そんな暗黙知りません。難しく考え過ぎです。
もっと気軽にコラムを楽しんで頂きたいです。

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