いろいろな仕事を渡り歩き、今はインフラ系エンジニアをやっている。いろんな業種からの視点も交えてコラムを綴らせていただきます。

急ぐことのデメリット

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■スピードという価値の生み出し方

 同じ仕事でも、早く処理できると良いと評価される。一か月かかる仕事を一週間で済ませたら、その分の工数にかかるお金が少なくなるので、良いとされる。IT業界でなくても常識の話だ。早いことは善だ!正義だ!働いていてもそんな感覚の人は多い。

 ただ、早く仕事を済ませるにはいろいろな手法がある。正当な方法として、仕事一つ一つをこなす速度を早くする、無駄を省く。大きくはこの二点だろう。それとは別に、多くの反則技も存在する。無理を強いる、成果物の完成度を低くしてごまかす、別のものでごまかす、本来必要なものも省いてごまかす・・・などなど。

 どのような方法を取ろうとも、早さを実現すればその場の信用は保障される。働いてる以上、これが絶対視されている。この時間を厳守するのが仕事だとも言われる。

■急ぐことのデメリット

 当たり前だが、仕事を早くこなすには条件が必要になる。高い技術や経験だったり、よく練られた作戦や下準備等だ。つまり求められるものが多い。本来なら条件が揃ってなければスピードは出ない。

 また、スピードを出した時の方が、失敗し た時のリスクは高い。同じ仕事でも、短い時間でこなそうとすれば、当然思索できる時間が減る。深く思索できないので、思わぬ勘違いを犯しやすくなる。

 そして、急いでばかりいると考えなくなる。これが最大のデメリットだ。思索する時間を取らないわけだ。繰り返せば、思索しないのが習慣化する。そして、知らず知らずのうちに考え方が安直になってしまう。これはエンジニアとしては致命的と言える。

呆れる程に問題はスルーされる

 前述のとおり、スピードを出すには条件が必要だ。実はそれを揃えるにも時間がかかる。積み重ねも必要だ。それはそうだろう。早く仕事を進める手法を考えるのは楽じゃない。結局、トータルで考えると、長期的に取り組まないと仕事の速度なんて上がらない。

 現代ではスピードが重視され過ぎて、正当な方法だけでは業務が回らなくなっている。それどころか、反則技が正当化されて疑問すら持たれなくなっている。その結果、大手の企業でも平気で反則技が使われるようになった。

 反則技が使われれば、どこかにしわ寄せがくる。それが結局、働いてる人の負担としてダイレクトに返ってくる。利用者や客にも当然、なんらかの不利益として返ってくる。スピードは市場では価値が発揮されるが、それを諸刃の剣と認識する人はどれ程いるだろうか。

■納期という名のゲーム

 成果物は条件さえ整えれば良い。納期に間に合わせるなら手段は問わない。納品した後、お客さんに利益があるか?そんなのは関係ない。言われた物を作って納めればいいんだ。・・・と、そういうノリで仕事をしてはいないだろうか。確かに、それでも社会的信用は確保できる。

 しかし、勘違いしてはいないだろうか。それでは社会的信用しか得られないのだ。単に社会的信用を確保するだけのゲームにしかならない。それで収入を得て生きていくことはできる。しかしそれでいいのか?実質、何も利益になることはしていないのだ。

 そもそもエンジニアというものが、社会的技術基盤を支えるための存在なのか、納期というゲームをクリアするための駒なのか。急ぎ過ぎてそこを見失ってはいけない。

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コメント

真っ赤なレモン

機械メーカーに就職したときに、新人研修の中に『手書き製図』の科目があって、
他の科目とともに3ヶ月程度の研修を受けました。
その時の講師の方が言っていた「拙速が大事」というのが、新人ながらどうしても腑に落ちなかった。
[※ここに入るべき文章は最後に移動]

で、研修後に配属されて部品の図面をCADで描いてたりしたんですが、
私は手堅い図面をそこそこの速さで描いてました。
数年たって気づくのですが、手書き図面のころは間接部門や部品メーカーに
優秀な方々がいまして、それも大勢いまして、
図面に多少の不備があっても資材・購買部門の方や部品メーカーの方が
誤りを読み取って正しく直して部品の製作をしてくれるという時代。
私の入社以降は、図面をCADや3D-CADで作成するので、
図面データの良し悪しが直接に部品の出来栄えに関わってくる時代。

となると、拙速などというものは許されるはずもなく。
巧遅のほうがずっとマシなのです。間違いが無くトラブルが無いのが、最善です。
もちろん、巧くて速い『巧速』がベストですが、そんなスーパーマンは、そうそういません。

『拙速』な人は、別の種類のスーパーマンに見えるのですが、スゴく見えるのは初めだけ。
結局は最終製品に仕上がるまでのコストが高くつくような仕事の内容になってる。

最終製品のクオリティを維持しながら、スピードを上げる能力を徐々に身につけていくこと。
これを忘れては、利益には結びつきません。

[※]
この新人研修後に、新人は各自で練習をして機械製図2級を受検(一応、国家検定)し、
8割は合格します。
ですが、私はこの検定に2回落ち、3回目の受検を目前にして、
全く練習をしていないのを指摘されてドクターストップがかかりました。
(受検をやめさせられた。)
全然後悔はしていない。合格する価値の見いだせない検定に受かるために練習するよりも、
会社の利益に直結する仕事の図面をCADで描くほうが大事だもの。

みんな悩んで大きくなった。

メーカーなら担当者のみでのカンパケはないから、納得(個人的な)出来るレベルの図面でなく、内容を供し合うための道具(図面)に対して『拙速が大事』と、いってならわかる。発言の場が新人研修だし、『手書き図面』の科目ですし。CADありきの環境だから敢えての『手書き図面』の研修だったんじゃないかなぁ。基本的には、頭の中の構想が『早く相手に伝えられれば』どんなやり方でもいいと思いますが…。メーカーなら『利益=製品』なので図面に描き方だけでは測れないですね。

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