迷惑な伝説
■営業職でやっていた時の話
昔、営業職をやっていた頃に、こんなやり取りがあった。
私:「すんません、アポとれません。」
上司:「電話何回かけて何本アポ取れた?」
私:「100本かけて1本取れました」
上司:「アポ5本で契約にこぎつけるのが1本だ。500本かけろ。」
このやり取りをしたのが、確か19時。この日は結局、23時まで電話をかけ続けた記憶がある。一応、お客さんといっても一般家庭だ。当然、電話をかけた際に怒り出す人は多かった。だが、どういう奇跡が起きたのか、アポが1件とれた。そして契約に繋がってしまったのだ。
後日朝礼で、がんばれば結果が出る。という見本としてこの話が取り上げられた。契約を取った人は拍手喝采。まるで、どっかの安っぽい映画の主人公のようにもてはやされた。そして、社内ではこの話は伝説のように語り継がれたのだった。
■伝説の裏にある迷惑
契約が上がったのはよしとする。しかし、その裏でどれだけの人が迷惑を被ったであろうか。まず、夜中に一般家庭へテレアポの電話かけてた訳だ。これは凄く迷惑だったと思う。しかも、一本や二本ではない。何十本単位で電話した。さぞかし迷惑だったろう。実際、取れたアポも、話聞きたいというより文句言いたかった雰囲気だった。
また、成功例として取り上げられることで、無茶が一つの手段として確立してしまった。おかげさまで、アポが取れないと夜中まで電話をかける文化ができた。契約を取るのは大事だが、その他大勢に多大な迷惑をかけたり、効率が悪いまま突っ走っても意味が無い。出した結果の反面、問題を積み重ねることになってしまう。
■どこにでもある迷惑な伝説
これがIT系の仕事になると、俗にいうデスマーチの話が伝説になったりする。例えば、納期が迫って何日通しで徹夜したとか、何日間休みが無かったとか。いつも不思議に思うのだが、これらがなぜか武勇伝として語られているのだ。明らかに失敗談なのにだ。
私は、無茶をして出した成果は、借金して手に入れた成果だと思っている。当たり前だ。同じことを繰り返せば破綻するからだ。この手の伝説は、成果ばかり語られてマイナス面についてはまったく思索が行き届いていない。
気軽に語る内容だから、思索が行き届いていないのは仕方無いのかもしれない。しかし、気軽に語る内容としても、あまりに短絡的・・・というか、ずれている感が強い。どれだけ自分たちがものを考えていないのか、自問自答してしまう。
■何でこんな事するんだ?の理由
携帯電話を持っている人なら、誰でも迷惑メールを受け取ったことがあると思う。以前からくだらな過ぎる内容だったが、最近では、知り合いのメールと勘違いさせるような表題を、わざわざ考えてくる。あれは非常に迷惑だ。企業名が出てたら、そこのイメージは確実に悪くなる。
迷惑メールも、迷惑な伝説のなれの果てなのかもしれない。ずれた理論がまかり通ってしまって、結果が出てしまい、徐々にエスカレートして現在に至ったのだろうか。普通の人では、迷惑メールを出してる企業の感覚は理解できないと思う。
しかし、これは他人事ではない。正当な手段を常に講じているのなら、今のような問題だらけの社会にはならないはずだ。ITという業界だけを見ても、感性を疑うような理不尽がまかり通っている。結果とか成果ばかり追いすぎて、実はもっと重要なことが抜けてるのではないだろうか。身の回りの諸問題の原因、それは迷惑な伝説の成れの果てなのかもしれない。