蝉
■蝉の声
この季節になると、蝉の声が高らかに響く。あの声を日本語に訳したら、どんな言葉になるのだろうか。地上に出た喜びを高らかに叫んでいるのだろうか。それとも、おのれの羽で空を飛ぶことへの感動の雄叫びだろうか。
……いや、現実は「女ーー!」ってとこだろうな。
■空蝉と亡骸
大阪に、靫公園(うつぼこうえん、通称うっつー)という公園がある。ここに行くと、蝉の抜け殻がたくさん木にへばりついている。エビの殻みたいなのが、木にしがみついて固まっている。大概のものは浮け殻なんだが、たまに背中が割れていないものがいる。蝉の声を聞きながら、無念だったろうなと見つめる。
蝉は、何年間も土の中にいる。もぐらに食べられたりもするだろう。ひっついてる木が枯れれば、一緒に死んでしまうかもしれない。やはり冬は寒くて凍えるのだろう。地上に出た最後の幼虫。飛べずに無念だったろうな。
■まるでエンジニアの成果物
最近、街角でタッチパネルのスマートフォンをよく見かける。ただ写るだけでなく、指で操作することができる。画面をなぞる度に、ぬるぬると画面が動く。この前まで、見開きの携帯が主流だったんだが、時代の流れは早いものだ。
そんなスマートフォンも、裏でエンジニアの方々が、蝉の幼虫のごとくジッと頑張りながら作ったものなんだろうなぁ、なんて思う。飛ぶ蝉を見て、地中の幼虫の姿を思い浮かべる人がどれだけいるだろうか。同じように、きれいな画面に心喜ばせながら、裏で必死に頑張るエンジニアを思い浮かべる人がどれだけいるだろうか。
■蝉の声には積年の重みがある
蝉の成虫は、寿命が短い。抜け殻の横には、すでにこの世を去った成虫の亡骸が横たわる。蝉の寿命は、土の中で過ごした期間に比べると、異様なほどに短い。人の人生に例えるなら、ひと夏の思いでみたいなものかもしれない。
スマートフォンだけじゃない。会社のシステムだって、何げなくつけたテレビだって、エンジニアたちが日々コツコツと積み上げてきた技術で作られたものだ。蝉の声にも積年の重さがある。
何げなく手にしたスマートフォンにだって、愚痴りながら操作する会社のシステムだって、エンジニア達の積年の努力が詰まっている。
それを感じ取って感謝しろとは言わない。ただ、そういうものが見えてくると、世界が違って見えてくるんじゃないかなと思う。見えるものが広がるんじゃなかろうか。