常駐先で、ORACLEデータベースの管理やってます。ORACLE Platinum10g、データベーススペシャリスト保有してます。データベースの話をメインにしたいです

【小説 しょっぱいマネージャー】第一話 退職代行で辞めたアイツ

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※(注)この小説は「【小説 失格のエンジニア】 から一カ月近く経った頃の話です。所謂、続編です。
お時間に余裕のある方は、是非、前回の話に目を通してから読むと、ちょっと分かり易いかもしれません。

<今すぐ戻って来い>

 電話の向こうで福島課長がそう言っている。

「いや、何言ってるんですか? 今、仕事中ですよ。無理に決まってるじゃないですか」

 雄一はそう反論した。
 時計の針は午前10時を指していた。
 客先常駐の身である雄一は、せめて定時までは自社に戻ることは許されなかった。

<俺から野平部長に伝えておくから。兎に角、すぐに来い!>

 野平部長とは常駐先のプロパーであり、雄一が所属するプロジェクトのマネージャーだ。
 そんな人にまで断りを入れて呼びつけるということは、自社でよっぽどのことが起こっているということか。

(もしかして、安田さんがまたエンジニアを辞めるとか言い出したのか......)

 前回、「あなたの力が必要だ」と涙ながらの熱意で説得したつもりだったのだが。

<藤澤のことだよ>
「藤澤......」

 藤澤は今年の五月に第二新卒で入った23歳の男性社員だ。
 今はOJTと称して雄一の元で修業中の身だ。

「あいつがどうしたんですか?」

 そういえば、藤澤のやつ今日は現場に来ていない。
 いつも遅れる時や休む時は連絡があるはずなのに、それが今日に限ってない。

<電話で話す暇は無い。タクシー使っていいからすぐ来い>
「あっ! ちょっと......」

 一方的にブチ切りされた。

「有馬さん、どうかしたんですか?」

 呆然とスマホを手にしたままの雄一に、同じチームの大川桂子が話し掛けて来た。

「い、いや......その、今から急に自社に戻らないといけなくなって。大川さん、数時間外すけど何かあったらスマホに連絡ください」
「はい。了解しました」

 桂子はツヤのある黒くて長い髪を揺らめかせながら頷いた。
 小さな顔を上げ、大きな目を細め笑い掛けてくれた。
 それだけで雄一の不安だった気持ちは和らいだ。
 飲み会で35歳だと言っていた桂子は雄一と8歳差だが、恐らくアラサーと言っても問題ないくらい若々しかった。
 嬉しいことに年上の余裕からか、データ移行チームのリーダーである雄一を何かとサポートしてくれた。

(年上ってぇのも、いいよな......)

 とか思うことで、目の前の問題から気を紛らわそうとした。


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 それでもやはり嫌な予感が止まらない。
 雄一はそれを紛らわすため、スマホを取り出しドラゴンファンタジーを起動した。
 いつものようにログインボーナスをゲットし、ガチャを引く。

「ちっ」

 レベルの低いゴブリンおやじが三体連続でヒットした。
 桜子が言っていたように低課金ユーザには良質なキャラクターはヒットしない設定らしい。
 ゲームを止め、タクシーの車窓から街を眺める。
 10時を過ぎたばかりのオフィス街は、蒸し暑い熱気に包まれていた。
 早くもクールビズ、半袖にノーネクタイのサラリーマンが暑そうに汗を拭いながら歩いている。
 パンプスで踵が靴擦れしたのか、タイトスカートのOLが歩きづらそうにしている。
 もう6月だ。
 4月に府中屋の案件をある意味失注し、失意の日々を送っていた。
 そのまま、スポット的にGW前まで別の現場に派遣された。
 GW明け、福島課長の世話で今のプロジェクトに配属された。
 桜子に対して活躍の場を用意すると大きなことを言っておきながら、それを不可抗力とはいえ果たすことが出来ず申し訳ないと思うこともあった。
 唯一の救いは、そんな彼女が楽しそうに常駐先で二次請けとはいえ府中屋の仕事をしていることだった。
 自身のエンジニア人生のルーツとなった桜子にいつか恩を返そう。
 そう心に決めた雄一は今日も常駐先で熱心に仕事をしていた。
 そんな矢先での呼び出しだった。

ブルルル

 スマホが振動した。
 ディスプレイには「安田桜子」という文字が。

「はい」
<有馬君、藤澤君のことで向かってるんでしょ>
「はい」
<私も福島課長から来るように言われて、今向かってるの>
「何で安田さんまで......」
<説得するなら大勢がいいって思ったんでしょ>

 嫌な予感は的中した。

<彼......辞めるって言ってるらしいよ>

 スマホを持つ手が震えた。
 OJT担当である自分に何か落ち度があったのかと、雄一は藤澤と初めて接した一週間前に遡り、今に至るまでを振り返った。
 だが、自分にはそれほど思い当たる節は無かった。
 そりゃ、確かに時には厳しく接しはしたがそれは仕事の上でのことだ。
 普通の範囲を超えていない。
 はずだ。


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「福島課長なら、会議室にいますよ」

 桜子に代わって総務を担当することになった栗田富士子が案内してくれた。

「安田さんは?」
「まだ、来てません」

 そうですか、と言い残し会議室のドアノブに手を掛けようとした時、呼び止められた。

「有馬さん」
「はい」
「気を付けてくださいね」
「はっ、はい?」

 富士子の言葉に雄一は戸惑いながらも会議室の扉を開けた。
 そこには福島課長。
 そして、それに向かい合う形で雄一に背を向けた男の姿があった。

「座れ」

 福島課長が自分の隣に来るように手招きした。
 ソファーに座り、男と向かい合う形になった。
 その男はサテン地のテカテカした黒いスーツに群青色のYシャツを着こんでいた。
 髪は毛先にちょっとパーマが掛かっている。
 年は30代前半か、細面で眼鏡の白い縁取りがやたら目立つ。
 あと、香水がキツイ。

「はじめまして、株式会社ログアウトの松永です」
「は......はあ」

 雄一は松永から名刺を受け取った。
 お返しにと雄一は自分の名刺を差し出そうとしたが、福島課長がそれを制した。
 「何で?」といった顔を向ける雄一に福島課長は問い掛けた。

「お前、藤澤と何かあったのか?」
「何かって? 普通に一緒に仕事してただけですよ」

 「普通」という部分を強調したかった。

「ところで、何で当の本人がいないんですか? それに、この方は何なんですか?」

 雄一は福島課長と松永を交互に見ながら問い掛けた。

「私は藤澤さんの代わりに、御社をうかがいました」
「代わりって?」
「藤澤さんはステイヤーシステムさんを辞めると仰っています。私はその手続きの代行に来ました」

 雄一は訳が分からなかったし、腑に落ちなかった。
 藤澤が会社や仕事そして雄一自身に不満を持っていて、それで会社を辞めるという決断をしたというのなら、百歩譲って話は分かる。
 自分だって何度も会社を辞めようと思った口だからだ。
 だが、その先の話、つまり会社を辞める旨を告げるということ--
 それを代行してもらうということが良く分からない。
 辞意は自分の口から伝えるというのが、雄一の中での常識だったからだ。
 自分にとって非常識な物を目にした時、人は混乱し拒絶するのだった。

「あなたは一体何なんですか? 何でうちと関係ない第三者の会社がうちの社員の辞意を伝える必要があるんですか? からかってるんですか?」

 松永には悪いが怒りのはけ口がこの場に無いので、ついキツイ口調で攻め立ててしまった。
 怒りの矛先はチャラい格好をしたこの男では無く、自分に一言の相談も無く他人を媒介して辞意表明してくる後輩そのものだ。
 手取り足取りプログラミングを夜遅くまでレクチャーした俺の労力を返せと奴には訴えたかった。
 そして何より、この時期に辞められるのはプロジェクトにとって大きな痛手だった。
 彼の持ち物であるデータ移行プログラムは、元々雄一の受け持ちだった。
 だが、急遽リーダーに抜擢された雄一はそれに手を付ける暇が無くなった。
 そこで、福島課長がOJTと称して雄一の下に藤澤を配属させた。
 そんな藤澤がいなくなれば必然的に雄一がそれをやらなければならない。

(毎日夜9時に帰ってるのに、この上作業が増えたら終電になるじゃねえか......)

 それだけは避けたかった。
 ここのところ、仕事が忙しすぎてバンド活動も疎かになっている。

「福島課長、藤澤を呼んでくださいよ!」
「電話してるが応答しない」
「あいつの実家には?」
「親御さんは家に戻っていないと言っている」
「どうせ居留守でしょうがっ! 押し掛けましょうや!」

 鼻息を荒くした雄一は福島課長を急き立てた。
 そんな雄一を見て、松永は嘲笑うかのように「フッ」と息を吹き出すとこう言った。

「有馬さん、私は藤澤さんと話しました。彼の決意は固かった。だから私は彼の退職代行をしようと決めたんです」
「固い決意が笑わせるぜ。だったら男らしくここに来てハッキリ辞めるって言えよ! あんたみたいな代行使って、何が決意だ!」
「彼は有馬さんともう会いたくないから、弊社に代行を依頼したんですよ」

 雄一は反論の言葉すら失ってしまった。
 たったの一週間程度の付き合いで自分はこんなにも人から嫌われていたのかと、愕然としたからだ。
 瞬間、落ち込みそうになったが、そんな自分を何とか奮い立たせた。
 こっちにも落ち度はあるかもしれないが、向こうにだって落ち度はある。
 一方的に悪者にされたんじゃたまらないし、自分にだってプライドがある。

「俺は認めん。俺はあんたの口伝は認めない。藤澤の口から出たものしか耳に入れない。藤澤には厳しくしたこともあるが、新人を一人前にするには普通の事だと思ってやって来た。全部あいつのためにやったことだ。こっちの言い分も聴かず一方的に辞める何て不義理にもほどがあるし、今後この業界で生きるつもりがあるなら筋を通して辞めて行って欲しい。それが奴のためでもある」

 IT業界で三年ほど仕事した雄一は、この業界が意外に狭いということを肌身に感じていた。
 ある現場で仕事した者が、別の現場でバッタリ出くわすことを自身も経験したし、他人からも聴かされていた。
 特殊な派遣形態や多重請負という雇用により、短期間で人が循環するこの業界ならではの現象だ。
 だから、一度でも不義理をした者は当然噂になり、様々な会社のブラックリストに登録される。

「有馬さん、普通、普通って仰っていますが、あなたの普通って何なんでしょうね」
「は?」

 禅問答みたいなことを言い出した松永を睨みつけた。

「普通なんて人それぞれで、相手の受け取り方次第なんですよ」

 と、ひょうひょうと返して来た。
 そしてにニヤケ面でこう続ける。

「有馬さん、退職の自由は民法にもうたわれています。藤澤さんが辞意を伝えようが、私が彼に代わって辞意を伝えようが、彼は会社を辞めることが出来るんです」
「俺は法律の話をしてんじゃないんだよ。人間同士の話をしてんだよ」
「分からない人だなあ。そうやって力づくで退職を認めないということは労働基準法が最も忌み嫌う『強制労働』につながるんですよ。それについて罰則も用意されています」
「......そんなもんに脅されねえぞ! あんた藤澤からいくらもらったが知らないがな、こっちはそんな脅しに怯むほどお人好しじゃないんだ!」

 とはいえ罰則と聴いて怯んだ雄一は、チラと福島課長の方を向いた。

「有馬。藤澤は代行を立ててまで辞めようとしている。それはある意味よっぽどのことなんじゃないか? お前の言いたいことも分かる。だが、あいつとお前との間に何があったんだ?」
「何って、だから......」

 雄一がそう言い掛けた時、松永がこう言った。

「有馬さん、良く聞いてください」
「何だよ?」
「藤澤さんは、あなたに暴力を振るわれたと訴えているんです」

つづく

Comment(4)

コメント

VBA使い

しょっぱいマネージャーとは誰だ?
雄一と思わせつつ別の人の事か??
楽しみにしています。(あと、DBの話も)

桜子さんが一番

新しい切り口ですね。

湯二

VBA使いさん。


コメントありがとうございます。

性懲りも無く戻ってまいりました。
しょっぱい主人公が成長する話にしたいです。
データ移行の話もあるので自然DBの話も入れて行きたいです。

湯二

桜子さんが一番さん。


コメントありがとうございます。

今回も、色々トラブルを発生させたいと思います。
ありきたりの話を入れつつ
そんな中でも、トレンドもちょっとずつ拾えたら拾って行きたいなと。

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