シンガポールでアジアのエンジニアと一緒にソフトウエア開発をして日々感じること、アジャイル開発、.NET、SaaS、 Cloud computing について書きます。

これからの時代、日本人にも英語は必須

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 最近、「楽天やユニクロが社内での公用語を英語にした」という話が話題になっているが、そんな簡単にはいかないだろう、と小生の経験から思う。英語というものは必要に迫られないと使わないものだ。ましてや、日本語で話すほうがはるかに簡単で、かつ効率が高いことが分かっている状況で、無理に英語を使うことは難しいだろう。

 小生、昔イギリスに駐在していたころは、日本人が多数を占めるオフィスに勤務していた。せっかく、イギリスに勤務しているのに、時々かかってくる外からの電話や出張に出て英語を使うだけ。これでは若い駐在員の英語力向上がおぼつかないということで、オフィスでの日本語を禁止にしたことがある。日本語を話す度に、1ポンドの罰金を払わなければならないようにした。最初のうち、若手は頑張って日本語を話さないように努力していたが、1カ月程度しかもたなかった。

 仕事を遂行するうえで、英語を話すことが絶対必要なイギリスの駐在員事務員でもこうなってしまうのだ。仕事を遂行するうえで英語が特に必要ない日本の楽天オフィスで、「日本語禁止」などうまくいくはずがないだろう。楽天やユニクロの名が記事になる「広告効果」を狙っているのかもしれない。それとも、これからどんどん採用する現地法人の外国人社員に、日本では英語で仕事が行われていることをアピールして、「日本本社への登用もありえる」ことを示唆して、優秀な人材を確保しようとする狙いなのだろうか。素直に考えて、楽天とユニクロ両社とも、「このままではいけない。何とかしなければならない。とにかくできることからやっていこう」ということかと思う。

 小生、実は、この「このままではいけない」というスタンスには大いに賛成する。このことは、世界を見渡してみて、一定の生活水準や知的レベルを持つ人が知的活動のために使う言語の分布状況が移り変わっていることを考えると明らかだからだ。

●いままで

英語 米国、英国、カナダ、オーストラリア、シンガポール、ドイツ 4億人ぐらい?
日本語 日本 1億人
フランス語 フランス 6000万人?
               

●今後

英語 米国、英国、カナダ、オーストラリア、ドイツ、インド、東南アジアの国々、東欧の国、ブラジル 20億人ぐらい?
日本語 日本 1億人
中国語 中国、台湾 10億人?
            

 フランスは、英語を使っての知的活動に傾いていくと推定される。

 これまでは、人口比で見ると世界の知的活動の5分の1ぐらいが日本で行われていた。さらに、日本の経済大国としての立場、つまりGDPを考慮した重み付けなどを入れると、日本語を使用した知的活動は、世界全体の知的活動のうち3分の1ぐらいを占めていたと考える。

 ところが、これからの世界では、日本語の世界での影響力は微小なものとなっていくだろう。今後、インドや東南アジア諸国の膨大な人口が英語文化圏に組み込まれていき、それとは別に、中国文化圏が国際的に通用するものになっていく結果、世界の知的活動の言語分布は、「英語と中国語」になっていくのではないだろうか。強大な英語文化圏と中国語文化圏に、日本語文化圏ははもはや対抗できないだろう。

 本コラムを読んでいる人の中には、Wikipediaを使っている人は多いと思う。2010年8月14日時点で、Wikipediaに掲載されている日本語の記事数が69万9354本なのに対して、英語は337万7382本である。英語の記事数は、実に日本語の記事数の5倍弱もある。フランス語は98万504本、ドイツ語が101万6000本。日本語とそれほど変わらない。中国語は31万9048本とまだまだ少ないが、おそらく今後は英語と並ぶ本数になっていくと小生は推定する。とはいえ、中国が米国のWebサイトを利用したオンライン辞書をどれだけ使うことになるのか未知数ということもあり、Wikipediaの記事数で文化活動の差を論じるのは、中国語に関しては無理があるのかもしれない。さらに、ここでは一番分かりやすいこともあって「記事の本数」に注目したが、1つひとつの記事内容の濃さも、英語版Wikipadiaは圧倒的なものがある。

 Bioinformatics(バイオインフォマティクス)を勉強するため、わたしはいま生物学を勉強している。シンガポールの大学院へ進学を考えているので、勉強は英語の専門書を読んで行っている。ときどき分からない語句が出てきたときに使うのはWikipediaだ。英語の語句なので、まず英語で検索する。大体において、膨大な解説が期待できる。ときどき、あまりに膨大な解説に面倒になるときや、英語を読んでもピンとこないときに日本語の解説を読む。日本語の解説は実に簡潔だが、「味も素っ気もない解説があるだけ」ということが多い。例えば、 「protein」を検索してほしい。膨大な解説が出てくる。一方、日本語訳の「たんぱく質」を見ると、その違いが分かるだろう。

 そんなことを考えると、いまはまだ日本の大学では授業を日本語で行っているが、近い将来それも無理になってくるのではないか、と小生は考える。ITエンジニアとしての知識習得は、いままでは日本語だけでも可能だったが、今後はどうなるのか?

 日本人ノーベル賞物理学者の湯川秀樹氏の中間子理論、そして最近の小林誠氏と益川敏英氏などは、一度も海外に留学せずにノーベル賞を受賞できたわけだが、これからの時代においては、そういうことは難しいのではと思う。

Comment(2)

コメント

湯川博士をはじめ小林氏、益川氏も留学経験はありませんが、英語の論文を読み書きできなかったわけではありませんよ。といいますか、ITエンジニアリングにしても最新の理論や技術を学ぶには当然英語の読み書きは不可欠ですので、おっしゃることには同感ですが。

やまもと

私は今シンガポールで仕事をしています。東南アジアのエンジニアの英語力にはどうがんばっても勝てません。エンジニアに要求される英語力に高いレベルは必要ありません。それゆえ、なんとか仕事できています。現在は、日本人の私が、日本語を使って仕事をしていれば、こんな苦労をする必要はないでしょう。今はそれを言えるだけの日本語文化圏が日本には存在します。しかし、多分それがいつまで続くか。10年後も同じかと言うと、そうとも言えないような気がします。今から英語を習いはじまえる、12歳の中学生が、22歳になったころ、どうなっているのか、そこらあたりが心配です。

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