この箱の中身は一体何だ(2)
高校生の時、川崎製鉄千葉製造所に社会見学に行ったときのことです。製鉄所といえども、もはやコンピュータ抜きには語れません。でっかい箪笥のようなコンピュータ(確か、メインフレームと言った)が居並んでいるブースを見に行ったりしました。社会見学の、最後の締めとして、質問コーナーを設けていただきました。誰も何も質問しようとしないので、ちょっと僕が質問してみることにしました。
「なぜコンピュータは、毎年どんどん速くなるのですか?」
■試してガッテン!!
大人たちは、顔を見交わします。何か、打ち合わせをしている様子です。しばらく待つと、ある職員さんから答えが返ってきました。
「それについては、電子の動きから説明しなければなりません。導線を電子が移動する距離を短くすれば、短時間で電気信号を伝えることができます。短時間で電気信号を伝えることができるならば、回路はもっとコンパクトで済むはずです。そこで、回路をコンパクトにするために集積回路になり、その集積率は年々向上しています。もし、短時間で電気信号が伝わるのであれば、コンピュータの動作周波数を上げることが可能になり、高速処理が可能になるのです。回路が小さければ小さいほど能率が良くなるのです。また、集積度が上がるに連れ、より多くのトランジスタを積むことができ、ひいては、一度のクロック動作で扱えるビット数が増やせる訳でして、一度に多くの情報や命令を処理することが可能になるのです。お分かりいただけましたでしょうか」
合点がいきました。あー、高校生の頃からこれだもんね。一見、何でもないような素朴な質問でしたが、気がつけば、いつの間にか、ムーアの法則を、本人の知らない間に質問していたという訳です。なるほど、大人たちが打ち合わせをするはずだ。それにしても、さすがは川崎製鉄、実にわかりやすく、お見事なお答えでした。あのとき、ツバつけとけば良かった。就職に困らなかったのに。でも、僕はまだ、素朴だったので、そういう欲っちい知恵はまだありませんでした。
■名うてのクラッシャーが、今では修理を
かつて僕は「クラッシャー」という異名を持つ人間でした。そこにCMOSチップがあれば、静電気で壊す。不意に、サーバーのHDDを壊す。逆向きに接続してトランスを焼く。200V商用電源をドライバーでショートさせて溶接のような火花が散る。トランジスタを逆電圧で壊す。コンデンサを破裂させる。こういったことは若気の至りで枚挙に暇がないのですが、お恥ずかしい限りです。こうして、破壊の限りを尽くして至った結論は「ここを触ったら直る」「ここは触るとヤバイ」などという経験則となってどんどん積み重なって行きました。
人形供養があるように、もしメカ供養があるとするならば、どれだけのメカを供養しなきゃならないでしょうか。そんな反省に立ってか、いつの間にか、パソコン修理のエキスパートになって行きました。「こんな異音がしたらHDDがヤバイ」「こんな臭いがしたら無停電電源装置がヤバイ」「それは逆位相の交流電源でLANが共振している」「それはショートスパイク(瞬間停電)だ」などなど……。これは、表層的なカタログスペック的な知識ではありませんし、決まった資格でもないのですが、いわばメカをかぎわける「本能」が身についた。そういうわけです。亀の甲より、歳の功ですか。名うての「クラッシャー」は、その後改心して、名うての「修理屋さん」を目指しているのです。
それでは、お後がよろしいようで。
(今後とも、よろしくお願いします!! では次回……)