自己実現に関わる根幹のお話
人材育成を突き詰めていくと、どうありたいかというゴール(To Be)と、現状(As Is)とのギャップを、いかに効率よく埋めていくかということになります。それに企業と個人の視点が加わり、複雑な対応となっていくわけです。対象は人であり、考えるのも人であるかぎり、単純な話ではありません。
■人材育成の目的と理解
筆者がITSSやUISSに関わっていて強く感じることなのですが、多くの企業は本来のゴールを見ずに、目の前のことにフォーカスしてことを進めようとするきらいがあります。例えば、ITSSといえばITSS導入を目的にしてしまいます。
口では色々それらしく並べても、結局ポリシーも使命感も希薄で、短絡的な動きをしているように見えます。数は少ないですが、本格的な人材育成に取り組んでいる企業は、半月くらいでITSSやUISSという単語は出なくなります。単なる部品なのですから当然です。
また、人材育成について、重要だという割にはメリットを明確にしろと難問を突きつけ、いかにもそれらしく否定する理由にしたりする人もいます。人材育成は地道に進めるものであって、すぐに効果が出ないことをご存じない人はいないはずです。同じく重要ではないと思う人もいないはずです。
さらに、人材育成は企業の責任であり、マネジメントを進める方の重要なミッションでもあるはずです。
■企業の人材育成計画と、個人の自己実現
企業における人材育成計画立案とは、目標とするゴール(To Be)と、現状(As Is)とのギャップを効率よく埋めていくための投資計画と実施計画を立てるということになります。目標がなければいかに現状を把握しても、次のステップを考えることはできません。
また、ここでいう目標というのは、ビジネス目標達成に貢献する人材像のことであり、経営計画に沿ったものでなければなりません。
人材像やTo Be、As Isというキーワードは、人材育成の現場ではあまりなじみがないといえるかもしれません。これは、結果的に今までいかに効率の悪い人材育成策を立案・実施していたかを物語っています。何のためにという「目的」を明確にしていないということが、ここでも明らかになります。
一方、個人視点でいうと、職場で自己実現できることが最も都合のいいことです。しかしながら、企業が望むことと個人のやりたいことは、ほとんど一致しません。例えば、企業は実績のあるエンジニアにルーチンワークのように同じ仕事を任せたいと考えます。効率はいいし、ミスの可能性も少ない、何よりいつどういう形でその仕事を終われるかを容易に予測できます。しかし、任された本人からすると、同じ仕事ばかりでは大したスキルアップも望めないし、第一、面白みがありません。
給料をもらっているのだから、その分やっていればいいのじゃないかと考える方もいます。他方で、生活するために報酬は大事ですが、仕事に「何か自分が成長できる要素があるのか」ということを考えるエンジニアは多いのです。
■コンピテンシーの重要性
そうすると、次にコンピテンシーというキーワードが出てきます。将来のためにこれを伸ばせばいいのではないか、ということです。企業の人事評価などにも出てきますし、心理学の著書でも頻繁に出てきますが、概念的なものであり理解しにくいものでもあります。
図のようにスキルは、仕事をするための専門能力、ヒューマンスキル、およびコンセプチュアルスキルの3つに分類され、ヒューマンスキルとコンセプチュアルスキルは一般的にコンピテンシーと呼ばれます(カッツ教授、「スキルとは何か~あなたは人に説明できますか?」参照)。
また、次のように定義すると、コンピテンシーの意味を理解できると思います。
「自分の置かれている状況を認識し、相手の期待を把握した上で、それに応える行動をとる能力」
ITSSやUISSは仕事をするための能力定義を提供してくれていますが、それだけでは成果を出すことはできません。資格を持っているだけでは仕事ができないのと同様です。成果を出すためには、コンピテンシーが必要なのです。
以前、日経新聞にも載っていましたが、高尾山・薬王院、真言宗智山派の大本山に、十か条の看板があります。
- 高いつもりで低いのが教養
- 低いつもりで高いのは気位
- 深いつもりで浅いのは知識
- 浅いつもりで深いのは欲
- 厚いつもりで薄いのは人情
- 薄いつもりで厚いのは面の皮
- 強いつもりで弱いのは根性
- 弱いつもりで強いのは我
- 多いつもりで少ないのは分別
- 少ないつもりで多いのは無駄
「つもり十か条」というのだそうですが、あまりにうまく言い当てているので、面白さを通り越してドキリとします。
人間には、自分を客観的に見つめるための時間や環境が必要なのです。自分を知らない人がゴールを定義できたり、人をうまく動かせるわけがありません。