エンジニアとしてどうあればいいのか、企業の期待とどう折り合いをつけるのか、激しく変化する環境下で生き抜くための考え方

IT活用よもやま話

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 最近あるIT系企業を訪問した時のことですが、広いオフィスにエンジニアらしき方々が大勢座っていました。しかし、聞こえてくるのはパソコンのキーボードをたたくカチャカチャいう音だけです。何かものすごく不気味に思えてぞっとしました。

 ここ何年かの間に、メールやファイル管理の仕組みが発達して、メールが使えないと仕事にならない状態にまでなっています。ペーパーレス指向の企業も多いことから、紙を回すということもなくなりつつあり、すぐ後ろの席にいる人にもメールで連絡します。見かけ上、人と人のコミュニケーションをあまり必要としない仕組みが成り立っています。

 また、最近本の売り上げが下がりつつあります。本を読まないと分かりやすい文章を書くことはとてもできません。

 文章も満足に書けない人が、メールだけで真意を伝えられるでしょうか。送られてきたメールにメールで返して、その繰り返しの結果、大問題に発展したケースを幾度となく見てきました。メールは、あくまで1つの手段であって、うまくコミュニケーションするための道具でしかありません。直接目を見ながら話すことの大切さは、あえて強調する必要もないでしょう。

 先ほど「ぞっとした」と書いたのは、このような状況の中で、まるでそこにいるのは意志を持たないロボットか何かのように思えたからです。別にその人がそこに座っていなくても他の人でも構わないわけです。大げさかもしれませんが、まるで使い捨てロボットのようです。企業として信頼されるとか、個人が夢を持って、というような言葉は、そこからは浮かんできません。

 企業としては、収益を上げていけばいい、人材なんて、ましてや育成なんて金のかかることはどうでもいい、個人としては、もらっている給料分だけ働けばいい、できたら手を抜きたい、夢なんて持てない、という極端な状態が頭をよぎります。

 一方、一般家庭に目を向けてみると、リーマンショック以来少しかげりが出始めていますが、ここ数年はデジタル家電の売り上げの伸びが上がっています。そのデジタル家電の主役は薄型のプラズマTV、液晶TV、そしてDVD・ブルーレイレコーダーです。価格も大幅に下がってきました。購入側にとっては、ありがたいことですが、各メーカーにとっては試練の連続のようです。特に家電量販店の伸びがすさまじく、しかもそれぞれの量販店の価格競争が激しいのは、ご存知の通りです。

 製造側は量販店から価格の引き下げを迫られ、否応なくそれに従う構図が出来上がっているようです。製造側にとっては販売ルートを失うわけにいかないので、苦渋の選択を強いられている状態でしょう。製造コストの改善より価格引き下げのスピードが勝っている状態です。それ故、販売数は伸びているにもかかわらず、大幅な利益減に陥ったメーカーもあるほどです。

 それらデジタル家電は、基本的な構成や動き、操作の手順などは理解していないと使いこなせません。画面にメニューが出てきて応えていくような形態がほとんどですが、まるでパソコンを扱っているようです。

 日々仕事でパソコンを使っている我々などは、それほど違和感もなく扱えますが、ふと考えると昔の家電とはかなり違います。あまりパソコンなどに触れたことのない方々には、ほとんど知らない外国語に接したような感覚になってしまうのではないでしょうか。取扱説明書も専門用語が多く、意味不明の部分が多いに違いありません。

 このように、かつての家電のイメージは完全に壊れてしまっています。そんな中で、パソコンの初期設定や扱い方を訪問してサポートしてくれるサービスが喜ばれていますが、それをデジタル家電で実践しているサービスもあります。

 これは、量販店のように安く売り切っていくような形ではなく、町の電器店がまるでかかりつけの医者のように面倒をみてくれるというものです。値段は量販店にはかないませんが、設置から操作の説明までを自宅に訪問して丁寧に教えてくれるサービスです。家電のあまりの変わりように面食らった人たちも、安心して最新のものを使えるのですから、少しくらい値段が張ってもそちらで購入しますし、以降も引き続きその店を愛用されることになるでしょう。

 担当の販売員の方とも仲良くなり、家電のことだけでない色々なことにまで話が及び、楽しいコミュニケーションが成り立っています。これが広がり、一種のコミュニティを形成しつつあります。このように部分的ではありますが、デジタル家電の普及や量販店の台頭の中で、顧客思考のサービスが受け入れられています。

 また、少し前ですがTVで農村地帯のお年寄りがパソコンを使ってインターネット・サイトを立ち上げ、農作物の販売をしているのを見た方もいるでしょう。最初は指導員がついても困難な状況でしたが、パソコンなど触れたことのないお年寄りが、今では存分に使いこなされています。お年寄りで村を出ることはできないのですが、インターネットを使って沢山の方を相手に商売されているのです。圧倒的に不利な条件を、パソコンやインターネットを使って解消したのです。

 企業内での話と一般家庭の話の2種類を、同じITの活用という視点で捉えてみました。

 ここから明らかなのは、目的とやる気があれば使いこなせるということです。ITは、企業と個人を支える大きな武器です。しかし、あくまでITは手段であり、それを使いこなすのは我々人間だということです。

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