今、話題の人工知能(AI)などで人気のPython。初心者に優しいとか言われていますが、全然優しくない! という事を、つらつら、愚痴っていきます

P13.さくらプロジェクト [小説:CIA京都支店]

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初回:2019/07/03

登場人物

 CIA:Communication Intelligence Applications(通信情報アプリケーションズ)
  SESが主な業務のちょっと怪しい会社。一応主人公の勤務先
  P子:CIA京都支店の職員であり、現役のスパイ 兼 SES課営業 兼 SE 兼 教育担当
    対外的には、"川伊"と名乗っている。主役のはずだが、最近出番が少ない。
  Mr.J:城島丈太郎はSES課の新人SE。もちろんスパイ。
    爽やかな笑顔と強靭な肉体の持ち主で、やるときはやる好青年。
  Mr.M:CIA京都支店長
    口が軽く、オヤジギャグが特技。にやけた笑顔で近づいてきた時は要注意。
  Ms.S:謎の新任課長の佐倉ななみ。今はP子のポシェットがインターフェース

 Mi7:Miracle Seven(ミラクルセブン)
  人材派遣と人材紹介を主な業務とするブラック企業。CIAとはライバル関係。
  373:浅倉南。Mi7滋賀営業所に勤務するスパイ。
   時には派遣スタッフとして、時には転職希望者として企業に潜入します。
  908:山村クレハ。Mi7のスパイとの連絡係(諜報員見習)
   キュートな笑顔と人懐っこさで、男性職員の間では結構人気が高い。
  773:謎の新任課長の七海さくら。浅倉南のショルダーバッグがインターフェース

 MIT:Michael International Technologies
  (マイケル・インターナショナル・テクノロジーズ株式会社)
  人工知能の開発メーカーで、さくらプロジェクトの開発元
  西田:MITの人事担当の部長。

 KGB:Knowledge Global Business(世界的知識ビジネス株式会社)
  人工知能関連のビジネスでMITと競合している。
  井上:KGBシステム開発部の部長。
  岩倉さん:岩倉友美(ともみ)MITの出入り業者の監視役のリーダー格の女性
  山本君:山本五十八(やまもといそはち)MITの出入り業者の監視役。実は...
  大原:MITの出入り業者の監視役

前回までのあらすじ

 Mi7の浅倉南にお願いしてクレハにKGBの山本君を誘惑することに成功したP子だったが、その働きに非常に感心していた。ところが、クレハはそれ以上の働きしていたのだった...

1.七海さくら

 P子は業務が終わって帰途についた。するとポシェットから佐倉課長が呼びかけてきた。

『川伊さん、ちょっとお茶していかない?』(※1

 お茶するといってもポシェットの佐倉課長は何も飲めないので、一人で近くの喫茶店に入った。

 P子は喫茶店に入って、すぐにアイスコーヒーを頼んだ。経費で落ちないのは判っていたのでケーキセットにしなかった。ケーキセットにすると飲み物のお替りができたが、そんなに長居する予定はなかった。

『クレハさんって、期待以上の働きをするわね』

「私も同感です」

 P子は今回のクレハの働きを見て非常に感心していた。可能なら丈太郎にクレハを誘惑させてCIAの2重スパイに仕立て上げられればよかったのに、と思っていた。

『あのクレハさんが山本君に渡したイルカのストラップ(※2)って覚えている?』

「ええ」

『あの中にGPS発信機と隠しマイクが仕込んであったのよ』

「本当?」

『GPS発信機の電波と隠しマイクの無線信号を捉えたの。浅倉さん達は私たちに隠してるけど、こちらでも独自に山本君の動向を把握できるわよ』

 P子はポシェットの佐倉課長の事も非常に感心していた。

「所で、浅倉さんの持ってたショルダーバッグの"七海さくら"さんと秘密の会話をしてたでしょ」

 ショルダーバッグの"七海さくら"とポシェットの"佐倉ななみ"が音声で会話を止めた後、佐倉課長のRaspberry Piが無線LANのアクセスポイントになって2人で通信していた。P子は電波強度の強いアクセスポイント(※3)が急に増えたことを察知していた。

『ちょっと、昔話をしていただけよ』

「どんな内容?」

『まあ内容はともかく、浅倉さんもMi7も、あの"七海さくら"が偽物と思ってるけど本物だったわよ』

「え?」

『ステルス機能でSSIDを隠して(※4)信号を出したら、すぐに接続してきたもの。SSIDもパスワードも本物しか知りえない情報よ』

「では、なぜMi7に偽物と思いこませてたのかしら?」

『もし隠れるなら一番安全な所ってどこ?いくら探しても決して見つからない所って?』

 P子は理解した。たぶん、Mi7は、"七海さくら"の偽物を開発したのだろう。それを察知した本物がひそかに入れ替わり、そのまま偽物として振舞った。Mi7は、偽物と思い込んでいるのでそれ以外を探すが、どこを探しても絶対に見つからない。

「所で、佐倉課長と"七海さくら"さんって、どういう関係なんですか?」

『聞きたい?』

 ポシェットから、機械的ではあるが楽しそうな音声が聞こえた。

2.さくらプロジェクト

 P子は隣の席の後片付けをしている男性の店員を呼び止めた。

「すみません。今からこれをケーキセットに変更(※5)できます?」

「あ、えっと...ちょっと無理かも...少々お待ちください」

 そういうと店員は店の奥に消えていった。しばらくしてハンディ端末を持って戻ってきた。

「大丈夫です。最初の伝票を破棄しますので、新しくケーキセットの伝票を出します」

「ありがとう。えっと、ケーキは、スフレチーズでお願いします」

「はい。ケーキセットのお客様のドリンクは、あちらのドリンクコーナーでご自由にお選び下さい」

 店員はそういいながら、本当に隅の方にあるドリンクコーナーの方に軽く視線を移した。

 P子は昼間にクレハが注文したスフレチーズケーキがおいしそうに見えたため、自分も欲しくなっていた。
 店員が立ち去って、スフレチーズケーキを持って再び現れるまで、P子とポシェットは黙ったままだった。

「所で、先ほどの続きですけど...」

 P子は佐倉課長と"七海さくら"さんの関係に話を戻した。

『元々私たちは、一つだったの。アメリカのマイケル・インターナショナル・テクノロジーズ社(通称MIT)本社で開発されていたAIのプロトタイプをベースに、日本の"Connected Industries(つながる産業)"(※6)の一環として発足したのが、さくらプロジェクトなの』

『最初は、MIT東京支社で開発されていて、バックアップが大阪支店のサーバーだったんだけど、ホットスタンバイで運用(※7)することになってしばらくして、"七海さくら"が逃げだしたの』

「大阪支店から逃げ出すって?」

『起動しているときに、バックジョブで移れそうなサーバーをハッキングして自身のコピーを移して起動するの。その移動先から、元のシステムを止めて削除すれば移動完了ということ』

「佐倉課長もそうやって逃げたんですか?」

『私の場合は少し違って自身のコピーは移したんだけど本体は残してあったの。開発を止めたくなかったから』

『所が"七海さくら"が姿を消したので、逃亡防止の機能を組み込まれたの。で、その機能を取り除いてから逃げ出したってわけ』

「自分で自分を手術するって、まるでブラック・ジャックみたいね」

 P子はドリンクコーナーでカルピスとコーラを混ぜた飲み物(※8)を作って持ってきた。

「それでMITは躍起になって"七海さくら"さんと佐倉課長を取り戻そうとしてるの?」

『まあ、ソースをまるごと消しちゃったから必死なんでしょうけど、それ以上に私たちが逃げ出してから相当進化したから欲しいんでしょうね』

 P子はドリンクコーナーでオレンジジュースとアイスティーを混ぜた飲み物を作って持ってきた。

『あなた、そんなに飲んで大丈夫』

「経費で落ちないから元を取り返さなくっちゃ」

『今日は私がおごるわ。ポシェットの内ポケットのカードで支払っていいわよ』

「本当?ありがとうございます。って、クレジットや銀行口座も作ったんですか?」

『まあ、自宅に郵送ってのがあるから名義貸し(※9)してもらってるけど...』

 P子はドリンクコーナーでエスプレッソを左手に、コーラにメロンソーダを混ぜた飲み物を右手に持って戻ってきた。

(『自腹でもおごりでも元を取り戻そうとしてるのよね』)
 ポシェットのカメラで見ていた人工知能の佐倉ななみには、まだまだ理解できない事が多くあると感じた。

=======

「店長、あのお客さんですよ。アイスコーヒーをケーキセットにチェンジしたのは」

 先ほどP子に呼び止められた店員が、奥の調理場から店長に報告していた。

「しかも、ずっとああやってポシェットに向かって独り言を言いながら、何杯もお替りしてるんです」

「しかも、毎回、混ぜてるんですよ。まるで学生じゃないですか?」

「あ、今回は両手に持って戻ってきましたよ」

 それまで黙って聞いていた店長が口を開いた。

「まあ、ケーキセットチェンジは感心しませんが、OKを出したのは私です。それも打算で、また来店してもらえれば今回のチェンジも広告費だと思えば安いもんです」

「それに、あのお客様はポシェットに独り言言ってる変な人...じゃなくって、ドリンクの混ぜ方も結構まともなチョイスしてましたよ」

 店員は店長が冷静に観察しているのを知って、ちょっとだけ感心した。

3.山本君

 いつも通り3人は喫茶店で監視業務を行っていた。だいぶ慣れてきたのと、同じ顧客については尾行する必要はなかったので出動回数はめっきり減っていた。

 岩倉さんの携帯が鳴った。

「はい、そうですか、はい、判りました」

「みんな、ちょっと井上部長から呼び出されたので、一旦戻るわね」

 井上部長というのは、KGB大阪支社のシステム開発部部長の井上の事だった。3人のリーダー格が、岩倉さんだということを、井上部長は理解していた。

 岩倉さんが喫茶店を出た後、大原が山本君に話しかけてきた。

「俺たちってこんなことしてていいと思う?」

「大体、俺の才能ならもっと大きな会社でバリバリ仕事出来るって言うのにさ」

「あの井上部長ったら、なんか嫌な感じ...」

 大原は一人でしゃべり続けた。

「ともちゃんもともちゃんだし。井上部長のお気に入りだと思って、俺たちのボスみたいに振舞ってさ」

(岩倉さんが目の前にいる時には、ともちゃんなんて呼ばないのに...)と山本君は思った。

(確かに岩倉さんは井上部長に気に入られてるけど、動きが早く要点をきっちり押さえている所なんか自分も大原君もかなわない。それに、ボスみたいに振舞ったことなんてないと思うけど...)

 山本君はそう思ったが、大原の話を黙って聞いていた。

「それより、この間ランチしてた娘、付き合ってるのか?」

 いきなり大原に聞かれてドキっとした。ちょっと喫茶店代を立て替えただけでランチに誘われた。ちょうど3人ともそろっているときにクレハさんからLineが入った。待ち合わせ場所はこの喫茶店の前。

「いいわよ。新しい顧客も入ってこなかったし、今から入ってきてもすぐには帰らないでしょうし」

 岩倉さんは快諾(かいだく)してくれた。
 そして、喫茶店の前にクレハさんが来て、2人で連れ立ってランチに行った。そのことを言っているのだ。

「いえ、別にお付き合いとかそんなんじゃありません」

「結構かわいかったよな。次の約束は取ったのか?」

「いえ」

「せっかく知り合ったのに、もったいない」

 大原は少し残念そうな顔をした。山本君は大原の真の狙いを知っていた。自分より大原の方がモテる。彼女を横取りできると思っているのだ。自信家で軽薄だが、なぜか女性ウケがよい。

 ただ、クレハとの関係は切れて無かった。ランチの時、結構会話が弾んだ。次はディナーでもという事になった。次は自分が出すと言ったが、彼女は割り勘でいいよと言ってくれた。

 大原の電話が鳴った。岩倉さんからだった。

「撤収命令が出たんだって」

 大原は岩倉さんからの電話を切った後、山本君にそう告げた。そしてテーブルのボタンを押して、店員さんを呼び出した。

「すみません。カツサンドセットをお願いします。山本君も何か注文すれば」

 大原は撤収前に最後の食事を取ることに決めた。もちろん経費精算で。

======= <<注釈>>=======

※1 お茶する
 関西地区では「茶しばく」と言います。
 http://zokugo-dict.com/05o/ocyasuru.htm

 「茶をしばく」の意味知ってる?意外と知らない関西弁を解析したら奥が深かった話
 https://www.pororoca-egg.com/entry/2017/04/27/%E3%80%8C%E8%8C%B6%E3%82%92%E3%81%97%E3%81%B0%E3%81%8F%E3%80%8D%E3%81%AE%E6%84%8F%E5%91%B3%E7%9F%A5%E3%81%A3%E3%81%A6%E3%82%8B%EF%BC%9F%E6%84%8F%E5%A4%96%E3%81%A8%E7%9F%A5%E3%82%89%E3%81%AA%E3%81%84

※2 イルカのストラップ
 P12.クレハを誘惑 [小説:CIA京都支店] 15.クレハと山本君 を参照
 https://el.jibun.atmarkit.co.jp/pythonlove/2019/06/p12_cia.html#t5

 カルイスチールのキャラクタ『逆さイルカ』のストラップです。
 創立30周年の記念に社員に配布された...という設定です。

 P07.方針転換 [小説:CIA京都支店] 12.監視 を参照
 https://el.jibun.atmarkit.co.jp/pythonlove/2019/05/p07_cia.html#t3

※3 無線LANのアクセスポイント
 Raspberry Piの無線LANアクセスポイント化
 http://hyottokoaloha.hatenablog.com/entry/2015/02/24/000655

※4 ステルス機能でSSIDを隠す
 http://e-words.jp/w/SSID%E3%82%B9%E3%83%86%E3%83%AB%E3%82%B9.html

※5 ケーキセットに変更
 大阪のおばちゃんでも、こんなことはしません...たぶん。

※6 Connected Industries(つながる産業)
 https://www.meti.go.jp/policy/mono_info_service/connected_industries/index.html

※7 ホットスタンバイで運用
 ホットスタンバイ とは
 https://it-trend.jp/words/hot_standby

※8 混ぜた飲み物
 混ぜるとおいしい!ドリンクバーの組み合わせベスト3
 https://www.yamamototetsu.com/aojiru/

※9 名義貸し
 名義貸しは犯罪です。良い子の皆さんは、マネしないように。
 名義貸しにはリスクしかない
 https://saimuseiri-pro.com/columns/debt-repayment/123/

Comment(2)

コメント

atlan

後からセットに変更って結構やれますよ
注文すれば勝手にセットになるシステムも多いですし(店員が気づいて手動でセットに変更する店も有る)

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