イケてる子供の作り方
■親の心
昔から自分が開発に携わったシステムやサービスを我が子になぞらえるヒトは多い。消えないバグ、繰り返される仕様変更、残業に次ぐ残業、さらには徹夜に次ぐ徹夜で身も心もボロボロ。そんな産みの苦しみを乗り越えてリリースされたのだ。それは我が子同様の愛着だって湧くというものだろう。
我が子には世の中に出て立派に活躍して欲しい。そんな親心がシステムやサービスをよりよいものにしていく。そう考えると、親心とは、むやみやたらに我が子を可愛がり甘やかすことではない。本当の親心とは、子供の品質に責任を持つ、ということだ。
リリース後に市場に受け入れられるためには、我が子の品行方正さが絶対条件だ。だから眠い目をこすりながらも鬼と化してテストを繰り返し、バグをつぶして行くのだ。逆に、品質の悪い子供をリリースしてしまうのは、親にとって最大の恥辱となるだろう。
■客の心
しかし、品質だけで市場に受け入れられるわけではない。使い手側の気持をしっかりと意識することも同じくらい大切だ。
これは単純に「プロダクトアウト」から「マーケットイン」への転換とか、そういう話ではない。市場に振り回されて失敗することだって多いし、八方美人はそれほど魅力的ではない。逆に、マーケットなど気にせずにモノづくりをしてヒットを飛ばす企業だってある。
では何が必要なのかといえば、大切なのは、作り手の中にある「客の心」だ。第三者的な視点で「ユーザーはこういうものが好きに違いない」、「こういうものがあれば便利だと思うだろう」と想像するのではない。実際に自分が「欲しい!」と強く願うモノかどうか。そこに判断基準を置くべきだ。
どんなに品行方正でも、冷血で人間味がなければヒトには好かれないだろう。自分の中の「客の心」を刺激するモノを我が子に与えるのだ。自分が一番のユーザーとなれるようなモノを作れたなら最高ではないか。
たとえば「女性従業員比率が高い企業は業績が良い?」という話があるが、これは市場の半分を占める女性の「客の心」を持った従業員が多いから、業績もアップしているのだろう。きわめて自然な結果だと思う。
■イケてる子供は親心と客心に包まれて育つ
以上のように、イケてる子供を育てたいなら適切な親心と客心の注入が不可欠だ。甘やかすだけではなく、厳しくしつける親心。そして自分自身の利用者としての欲望を刺激する客心。この2つを注ぎ続ければ、きっと素晴らしいシステムやサービスに成長するだろう。
ところで、これはシステムやサービスだけに限った話ではなくて、本当の子育てにも当てはまることではないだろうか。
自分の想いだけで暴走する親や、自分がメーカーであることを忘れ、客としての側面だけがイビツに肥大化してクレーマーと化した親の、常軌を逸した行動がニュースでやたらと目につく今日この頃。
そんな親が、まともに品質管理もされていない子供を次から次へと社会にリリースしているのかと思うと、目の前が真っ暗になる。我が子(システムやサービス)の品質に責任を持つことの大切さを経験からも十分に理解している我々エンジニアの爪の垢でも煎じて飲ませたいものだ。