テストエンジニア時代の悲喜こもごもが今のわたしを作った

ソフトウェアテストシンポジウム「JaSST'14 Tokyo」に参加して「生きねば。」と思った話

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 こんにちは、第3バイオリンです。

 先日、ソフトウェアテストシンポジウム「JaSST’14 Tokyo」に参加しました。2日間開催のうち、参加できたのは2日目のみでしたが、久々にテストの話をたくさん聞いて楽しいひとときを過ごすことができました。

 今回は、わたしが参加した「JaSST’14 Tokyo」セッションの内容についてお届けします。

■日時と場所

日時:2014年3月7日〜8日

場所:東洋大学 白山キャンパス

 去年までは2日とも平日開催でしたが、今年は2日目が土曜日の開催となりました。残念ながら、1日目は仕事があったので今回は2日目のみの参加となりました。

 また、会場もこれまでの目黒雅叙園から初の東海大学での開催となりました。会場が大学の教室だったので、久々に大学の講義を受けている気分を味わうことができました。

■テスト設計コンテスト’14 決勝大会

 テスト設計コンテストは「ソフトウェアテストは創造的でエキサイティングな作業である。コンテストを通して、ソフトウェアテストの楽しさを体験してもらう」という理念のもと、2011年から毎年開催されています。4回目の開催となる今年は、予選も含めて過去最高の27チームが出場しました。今回は、予選を勝ち抜いてきた7チームがそれぞれのテスト設計を発表しました。

 今回のお題は「自動販売機ソフト」お金を入れて飲み物を買うという仕様をどのようにテストするのか。製品やテストに関わるステークホルダを基準にしたチーム、品質特性や過去の不具合をよりどころとしたチーム、製品の機能を整理してからテスト設計にとりかかったチームなど、どのチームにも特色がありました。テスト対象は同じでもアプローチの仕方はいろいろです。それに決勝大会だけあってどのチームもレベルが高いです。

 優勝と準優勝は、どちらも東海地域のチームでした。東海地域はテストコミュニティの活動がさかんで、わたしもよくコミュニティの方々と会う機会がありますが、いつも彼らのテストに対する知識と情熱、チャレンジ精神と個性的なキャラクターには圧倒されます。

 これまでにも何度かテスト設計コンテストの予選や決勝戦を見てきましたが、年々レベルが上がってきていることを実感しました。さらに今年の9月には、海外のチームが参加する予定だそうです。テスト設計コンテストの輪がもっと広がって、テストの楽しさもより広まっていくといいですね。そしていつかは、わたしもテスト設計コンテストに出場してみたいです。

■招待講演「ナウシカの飛行具、作ってみた。〜お客さんと作るプロジェクトの組み立て方〜」

 招待講演は、東京芸術大学の八谷和彦さんです。八谷さんは、「ポストペット」の開発など、技術とアート、デザインを融合させたものを造り出すメディアアーティストです。現在は、映画「風の谷のナウシカ」に登場する飛行具「メーヴェ」の開発プロジェクトに取り組んでいます(以前、ねとらぼの記事にもなっていました)。

 八谷さんは「ポストペット」の開発など過去の実績について説明したあとで「なぜメーヴェを作ろうと思ったのか」について語りはじめました。現在、日本では航空機を製造しているところはありません。日本の航空機産業にはYS-11の製造からじつに40年以上の空白があるわけです。航空機に限らず、ものづくりのスキルというものは実際に作っていなければすぐに失われてしまいます。このまま日本の航空機産業がなくなってしまっていいのか、日本が二度と航空機を作れない国になっていいのか。八谷さんは「だったら自分が飛行機を作りたい、自分が作るならメーヴェだ!」と考えたそうです。普通の飛行機でなくメーヴェを作ろうと思ったのは、「みんなが知っているけれど実物を見たことがないものを作りたい。まだこの世に存在しないものであれば自分で作ればいい」という考えがあったからです。

 さっそく八谷さんは、海外から航空機のエンジンを取り寄せ、部品を集めて試作機を作り始めました。メーヴェの製作には、新しい技術は使っておらずエンジンも部品もすべて既存のものを調達したそうです。

 ここで八谷さんは「枯れた技術の水平思考」という言葉を出しました。エンジニアというのは常に新しい技術を追い求めるものです。そのため枯れた技術というとちょっとつまらない、というイメージを持っている方もいるかもしれません。しかし、枯れた技術は安く使えるしいろいろなことに応用しやすいというメリットがあります。新しいことを始めるときには、枯れた技術を使ったほうがいろいろなことに挑戦しやすくなります。そのぶん企画の面白さで勝負するのです。

 こうして始まったメーヴェ製作プロジェクトでしたが、実機のテスト飛行では失敗の連続でした。八谷さんは問題の改善に取り組みましたが、エンジンの破損や資金不足などにより、とうとうプロジェクトは中断せざるを得なくなってしまいました。しかし、八谷さんは「今はいったん休んでもいい。たとえ自分ひとりになってしまっても止めなければいつかは完成する」と、ひとりでできることをコツコツと続けていきました。

 そうした地道な努力が実り、ついにメーヴェは完成しました。航空許可の関係で「高度3メートル以下」という条件付きではあったものの、ついにメーヴェは空を飛びました。民間の飛行機が空を飛んだのは1978年のMU-300以来、じつに35年ぶりの快挙でした。

 八谷さんは「わたしがポストペットを作ろうと思ったのは、インターネットにフロンティアがある、と思ったからです。今のフロンティアは空、つまり航空宇宙産業にあると考えています。近い将来、個人が飛行機を持つ時代が来るかもしれません。それは夢物語などではありません。メーヴェだって夢だけど夢じゃなかったのです。ロマンスとエンジニアリングがあれば人が空を飛ぶことだってできるのです」と講演を締めくくりました。

 わたしも子どもの頃に「風の谷のナウシカ」を見て、メーヴェを乗りこなすナウシカにちょっと憧れたことがあったので、八谷さんのお話をワクワクしながら聞きました。ロマンスとエンジニアリングの力で自分が作りたいものを作るお話もそうですが、諦めずに続けていけば実現する、というお話にも勇気をもらうことができました。

 それから、メーヴェの製作秘話についてもっと詳しく知りたい、という方は八谷さんの書籍「ナウシカの飛行具、作ってみた」を読んでみてください。ちなみに本のタイトルに「ナウシカ」の名前を入れるにあたり、八谷さんは宮崎駿さんに許可を得るためにコンタクトを取ったそうです。本の内容と企画の主旨を聞いた宮崎駿さんが快くOKしてくださったうえ「死なないでください」とおっしゃったことが印象に残ったそうです。生きねば。

■クロージングパネル「テストエンジニアの育成による組織力・チーム力の向上 〜現場が幸せになる育成とは? また、エンジニア自身が成長するためには〜」

 「JaSST’14 Tokyo」最後のセッションはクロージングパネルです。それぞれ立場の異なるパネリストが「テストエンジニアの育成、テストチームの作り方」について意見をかわしました。

 少し前に比べて、テストエンジニアを育成する環境はずいぶん整ってきているように思えます。日本各地でJaSSTが開催され、ソフトウェアテストに関する書籍やテストに関する資格も充実してきています。

 しかし、1日目の「JaSST’14 Tokyo」で開催されたBOF(Birds Of a Feather:特定のトピックについて参加者が議論する場)では、「日本ではテストの専門家がまだまだ少ない」「テストエンジニアのキャリアパスがない」「現場でテストエンジニアの価値が理解されづらい」といった悩みが多く寄せられました。現場でテストエンジニアをどう育てればいいのか、テストエンジニアとしてどのようなキャリアパスを築けばいいのか、悩みを抱えている人は大勢いるようです。

 そのような悩みに答えるべく、パネリストの皆さんがそれぞれの立場から意見を述べはじめました。今回の「JaSST’14 Tokyo」で基調講演をつとめたStuart Reidさんは「大学ではプログラミングを教えるところはあってもテストについて教えることが少ない」ことを問題として挙げました。なるほど、学生にテストの仕事について知ってもらう機会がない、そのため学生がテストエンジニアという職業があること自体を知らないというのは日本だけの問題ではないようです。

 学生も含めた若い世代の人たちにテストという仕事に興味を持ってもらうにはどうすればいいのか。テストにはワクワクする技術があることを知ってもらう、教育の内容を工夫する、いろいろな意見が出るなか、現場でテストマネージャをしているパネリストの中野直樹さんが「自分が部下や後輩の育成で大事にしていること」について語りはじめました。

 中野さんは、「失敗も成功も実際に経験しないとわからない。だから失敗も成功もどちらも体験させる。アドレナリンが出るような体験よりも、ドーパミンが出るような体験をなるべくさせる。開発者に話を聞いてもらえるようにテストだけでなく開発力もあわせて磨く」というお話をしました。アドレナリンは中毒性があるので、それよりはドーパミン、ということだそうですが、これは興味深いです。また、チームの中から無駄を省くことも大切、とも語りました。一例として「ダメなチームは『すみません』が増える」ということを挙げました。何か問題が起こったとき「すみません」で済ませるのではなく、そうなった理由をしっかり考えて再発防止できているかどうか。それが大事なのだと語りました。

 このパネルディスカッションではいろいろな意見が挙がりました。資格を取るのも大事だが取っておしまいではない、「こういう風になりたい」というモデルを見つける、現場でやりたいことをテストエンジニア自身が見つけて提唱していく、など。キャリアパスや育成の問題は「これが正解」といえる道がひとつではないのが難しいところです。

 それでも、パネリストの皆様それぞれの立場から「テストエンジニアの成長、育成」のお話が聞けたのが良かったです。キャリアパスの問題はすぐに答えが出るものではありませんが、このパネルディスカッションでそれを真剣に考える機会を持つことができたのは良かったと思います。

■打ち上げにて

 閉会後、WACATEでよくご一緒している参加者と打ち上げに行きました。先の「WACATE 2013 冬」に参加できなかったぶん、久々に会えていろいろなお話ができて楽しかったです。自分のテストエンジニアとしてのあり方や将来について悩むことも増えてきましたが、それでももうちょっとだけ頑張ってみよう、そう思えるひとときでした。生きねば。

■ついでに告知

 4月11日に、新潟でソフトウェアテストシンポジウム「JaSST’14 Niigata」を開催します。今回のテーマは「チームビルディング」です。チーム作りがソフトウェアの品質にどう影響するのか、興味がある方はぜひご参加ください。お申し込みはJaSSTのサイトから。

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