テストエンジニア時代の悲喜こもごもが今のわたしを作った

「WACATE 2011 冬」参加レポート(その3)――講師も成長する場

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 こんにちは、第3バイオリンです。

 「WACATE 2011 冬」参加レポート第3弾、今回は2日目のセッションの様子をお届けします。

■セッション「ISSREに参加してきた!」

 WACATE実行委員で、智美塾(さとみじゅく)一号生の小山 竜治さんと坂(ばん) 静香さんのセッションです。

 智美塾とは、テストのライフサイクルを進化させるため、各自がテスト開発方法論を作る、という理念のもとに運営されている私塾です。小山さんと坂さんも塾生として、いつも活発な議論を繰り広げています。そんなおふたりが智美塾の代表として、ISSRE(イズリー、と読みます)というシンポジウムに参加してきました。

 ISSREとは、「IEEEソフトウェア信頼性工学国際シンポジウム」のことです。2011年は広島での開催ということ、智美塾がISSREの中で開催された、InSTAとよばれるソフトウェアテストアーキテクチャのワークショップに参加することになったので、小山さんと坂さんが参加してきたのです。

 当日は基調講演の途中でも質疑応答が飛び交うほど、参加者同士で熱い議論が繰り広げられていたそうです。小山さんと坂さんは、国際的なシンポジウムでは世界の最先端の情報にじかに触れることができる、その道では世界的に有名な方と知り合いになることができると語りました。おふたりのお話によると、ISSREはかなり格式の高いシンポジウムであり、それが日本で開催されることは非常に稀なことなのだそうです。

 日本で開催される国際シンポジウムに参加することのメリットは他にもあります。それは、セッションに日本語の通訳がつくことです。しかし、それでも海外からの参加者と英語のコミュニケーションは欠かせません。これについて坂さんは「英語が話せなくても、まずは行ってみること、それが大切です。必要になれば、必ず勉強することができます」と語りました。

 わたしはエンジニアライフの編集担当者からも「旅芸人コラムニスト」と呼ばれるほど、日本中のシンポジウムや勉強会に参加してきました。しかしさすがに国際シンポジウムへの参加経験はありません。だって英語もできないし、旅費出せないし、パスポートも有効期限が切れてしまったし……しかし、小山さんと坂さんのお話を聞いて、やっぱり世界の動向に触れたい、世界中のソフトウェアテストの第一人者たちの熱い議論を聞いてみたいと思いました。いつか、国際シンポジウムにも参加してみたいですね。

■ワークショップ「お絵描きコミュニケーション―お隣さんに伝えたい」

 WACATE実行委員の中野 さやかさんのセッションです。

 中野さんは前回まで参加者でしたが、今回から実行委員になりました。ここ最近、中野さんのように参加者から実行委員になる方が増えています。

 中野さんは、まずお絵描きとアウトプットの関係について説明を始めました。

 お絵描きをする目的は2つあります。「人に分かりやすく伝えるため」と「自分の考えを整理するため」です。ものごとの全体像を捕らえたり、抽象化したりするには絵や図形のほうが早く認識できるうえに、記憶にとどまりやすいのです。つまり、人に何かを伝えるときに絵や図形を描くと、分かりやすく伝えることができます。また、自分の考えを絵や図形に描くことで発想を広げたり、漠然とした考えの見える化に役立てたりできます。絵や図形を描くことで自分の考えを整理することもできるのです。

 これがテキストだけだと、読むのに時間がかかるうえに、ほしい情報がどこにあるのか、情報同士の関連性がどうなっているのか、わかりにくいことがあります。例えばドキュメントを作ったときに、テキストだけだと自分以外の人が読んだときに「わかりにくい、このドキュメントは使えない」となる恐れがあります。読者の皆さんにも経験ないでしょうか、何年も前に、今はいない担当者が書いたドキュメントが意味不明で頭を抱えたことが。しかし、もしこの担当者が自分だったら、と考えたらどうでしょう。自分の書いたドキュメントを読んだ誰かが頭を抱えてしまうなんて、悲しくないですか。

 ここまで話したところで、中野さんは、わかりやすいお絵描きのコツについて説明しました。シンプルに四角と矢印を描くこと、四角と矢印がそれぞれ何を示すのかを表すラベルをつけること、そうして描いた絵そのものが何を言いたいものなのかを表すためにタイトルをつけること、の3点です。言いたいことを表すためには、それと無関係なことは描かないことも大事です。

 ここで、実際にお絵描きをしてみよう、ということでワークショップが始まりました。

 1日目のワークショップで使用した資料をもとに、プロジェクトの新メンバーがシステムの仕様書を読みながら疑問点をまとめる、というお題で、お絵描きをしながらシステムの情報と不明点を整理することになりました。

 わたしもさっそくワークに取り掛かりましたが、自分が情報を整理するためのお絵描きはうまくできても、人に伝えるためのお絵描きがうまくいかなかったと思います。例えば、四角と矢印で表すといっても、表したいものが複数ある場合、同じ形の四角と矢印では区別がつきにくくなってしまった、という失敗です。これは実際に描いてみないと気がつかないことでした。

 ワークの後、中野さんは「1日目のセッションの『お隣さん』のことを思い出してみてください。お絵描きも『お隣さん』を意識することが大切です。決して、お絵描き自体が目的にならないように注意してください。また、ルールにこだわりすぎないことも大事です」とおっしゃいました。

 実際にお絵描きをやってみて思ったことは、図示することが相手のためだけでなく、自分自身のためにもなるということです。お絵描きをすることで自分にとっても情報の整理ができたり、実はわかっていなかったことがわかるようになったりすることを実感しました。また、「四角と矢印」にこだわるあまり、全部同じ形で描いてしまいましたが、分かりやすくするためには、表現したいものによって形を変えるなど、ルールを見直すことができればもっとよかったのかもしれません。

 このセッションの最後に中野さんが「今回講師をやってみて、わたしのほうが勉強になりました」とおっしゃったのが印象的でした。

■グループディスカッション「テスト道ワールド」

 WACATE実行委員の上田 卓由(もとゆき)さんのセッションです。

 上田さんは、このセッションでは「ワールドカフェ」の要素を取り入れて議論をする、と説明しました。

 ワールドカフェとは、オープンな会話を行うためにカフェのような雰囲気を作り出す、というスタイルの話し合いの手法です(詳しい説明はこちら)。上田さんは、今年の夏に初めて会社でワールドカフェを経験して、ぜひWACATEの参加者と一緒にやってみたいと思ったそうです。

 ワールドカフェのルールは以下のとおりです。

  • 参加者が対話を行う(モデレータはなし)
  • 1ラウンド20分で3ラウンド制
  • 1ラウンドが終わると参加者は席を移動する

 要は結論を求めずに、参加者がお互いに言いたいことを好きなように言うというスタイルを取ります。

 WACATEでは、ワールドカフェのルールをベースに、2ラウンド制でグループディスカッションを行うことになりました。

 ディスカッションのテーマは「Beizerのテスト道」です。「Beizerのテスト道」とは、テスト担当者の精神面の区分を表したもので、以下のフェーズから成り立っています。

フェーズ0 : テストとデバッグには何の差もない。デバッグ以外にはテストには特別な目的はない。
フェーズ1 : テストの目的は、ソフトウェアが動くことを示すことである。
フェーズ2 : テストの目的は、ソフトウェアが動かないということを示すことにある。
フェーズ3 : テストの目的は、何かを証明することではなく、プログラムが動かないことによって発生する危険性をある許容範囲にまで減らすことである。
フェーズ4 : テストは行動ではない。テストをしないで品質の高いソフトウェアを作るための精神的な訓練である。

 このテスト道を踏まえて「フェーズ2からフェーズ3に移るにはどうしたらよいか」をテーマにグループディスカッションが始まりました。わたしのグループでは、まず各フェーズがどういう状態を指すのかという定義から考えることにしました。

 各フェーズの定義が終わったところで、それぞれのフェーズの関係について話し合いました。そうしているうちに第1ラウンドは終了しました。第1ラウンドが終わったところで、各グループのメンバーの何人かが、他のグループの席に移動しました。

 メンバーが入れ替わったところで、第2ラウンドが始まりました。わたしは移動しなかったので、まず移動してきたメンバーに、第1ラウンドで話し合った内容を簡単に伝えました。それから、さらにディスカッションを続けました。

 そして、各フェーズの関係についても考えて、図にまとめました。こんな感じです(さっそくお絵描きの実践です)。

わたしのチームが考えた各フェーズの関係

わたしのチームが考えた各フェーズの関係

 今回初めてワールドカフェという話し合いのスタイルを経験しましたが、途中でメンバーが入れ替わることによって、新しいメンバーから新鮮な意見を聞いたり、前のラウンドとは違った角度からの議論ができたりしたことが面白いと感じました。

 また、「Beizerのテスト道」について深く考察できたこともよかったと思います。各フェーズを定義することで、実際の業務に当てはめて考えやすくなりました。例えば、フェーズ4を「最初からテスト不要なほどの高品質なものを作る」と定義することによって、決して途方もなく難しいことではなくて、すでに実践できている部分もある、ととらえることができました。

 今回お伝えした3つのセッションを通して、WACATEという場は参加者だけでなく、セッションを担当する講師役の人も新しいことにチャレンジして、成長できるところなのだなと感じました。最近、実行委員に転身する参加者が増えてきた理由が、少しだけわかったような気がしました。

◇ ◇ ◇

 第3回目の参加レポートはここまでです。次回は最終回、クロージングセッションと後夜祭、今回のWACATEで得た気付きについてお届けする予定です。

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