テストエンジニア時代の悲喜こもごもが今のわたしを作った

室内楽とプロジェクトマネジメントの意外な共通点

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 こんにちは、第3バイオリンです。

 2月の末に、室内楽の演奏会に出演しました。この演奏会で、初めてカルテットに挑戦しました。普段はオーケストラで、大勢でひとつのパートを演奏しているわたしにとって、1人で1つのパートを担当する室内楽はいつもと違う気づきがたくさんありました。

 また、演奏会の運営のお手伝いにも初挑戦しました。

 演奏と運営の両方を経験してみて、室内楽とプロジェクトマネジメントという、一見関係ないようにみえる2つのことに多くの共通点があることに気がつきました。今回は、そのお話をします。

■プロジェクトへのアサインから始まり、要件定義、設計、実装……室内楽に置き換えると?

 演奏会の3カ月ほど前に、同じオーケストラに所属するチェロの団員さんが、「カルテットの第2バイオリンのパートを演奏する人がまだ見つかっていないんだけど、もしよかったら一緒にやらない?」と、わたしに声をかけてくれました。

 それが、わたしがカルテットにアサインされたきっかけでした。

 次は要件定義、すなわち演奏する曲を決めるわけです。

 しかしわたしがアサインされたときには、すでに曲は決まっていました。イタリアの作曲家プッチーニの作品「弦楽四重奏 “菊”」です。オペラ作曲家であるプッチーニが作った、唯一の弦楽四重奏曲です。プッチーニが亡き恩人を偲んで作っただけあって、かなりテンション低めの曲です。何でまたこんなマニアックかつ暗い曲を……と思いましたが、ともかく要件は決まりました。

 あとは演奏会当日(納期)までに曲の構成を理解し(設計)、実際に音にする(実装)のです。

 おっと、テストと保守・運用にあたるフェーズがありませんが、そこは突っ込まないでください(笑)。

■練習でPDCAサイクルを回す

 カルテットの合奏練習は第1バイオリンの人のご実家で行うことになりました。わたしが見ていたのは第2バイオリンのパート譜だけです。曲はCDを買って聴きましたが、全体像ははっきりわからないままでした。他のメンバーも同様だったらしく、とりあえず一度通してみることにしました。

 最初の通し練習は……予想通り、途中で何度か空中分解しました。何とか最後まで通した(?)ところで、メンバー全員で空中分解したポイントを確認しました。

 そこで、どのパートに合わせるべきかを再度話し合い、もう一度通し練習を始めました。

 事前に合わせるポイントを確認しあう、実際に演奏する、合わなかったところをチェックしてどうやって合わせるか決めて再度演奏する……まさにPDCAサイクルです。

 オーケストラも同じように練習しているはずですが、今まではあまり実感がありませんでした。オーケストラでは、CとAはもっぱら指揮者の仕事だからかもしれません。

■誰のレベルに合わせる?

 4人で何度か合奏をしてみて、メンバーの中でわたしの演奏が一番レベルが低いことに気がつきました。それも当然のことでした。なぜなら、第1バイオリンはうちのオーケストラのコンサートミストレス、ビオラとチェロは、それぞれのパートでトップサイドを務めたことがある人です。うちのオーケストラの精鋭ばかりの中で、わたしだけがみんなの足を引っ張っている状態でした。

 プロジェクトでもメンバーのスキルがバラバラということはよくある話です。そういう場合、誰のレベルに合わせるべきでしょうか。

 もっとも手っ取り早い方法は、一番レベルの低い人(わたし)に合わせる方法でしょう。しかし、わたしは「本当にそれでいいのか?」と思いました。

 他の人のレベルが1でも、わたしひとりが0.5であれば、0.5のレベルの演奏しかできないことになります(ひでみさんのコラム「人人月の寓話」でも同様のことが語られていましたね)。

 わたしは、それは嫌でした。せっかく声をかけていただいて、カルテットで演奏するのです。どうせなら、わたしのレベルを引き上げて、よりよい演奏をしたいと思いました。

 それから当日まで、わたしは必死に練習しました。また、合奏練習のときにも、どういう演奏をしたいか意見を言うようにしました。

■演奏会の運営はまさにプロジェクトそのもの

 今回の演奏会では、演奏だけでなく運営にも携わることになりました。当初の運営メンバーのひとり(Aさんと呼びます)が諸事情により演奏会に出られなくなったので、急遽わたしともうひとり、別の団員さん(こちらはBさん)が代理を務めることになったのです。

 さて、演奏会を開く、ということは簡単なことではありません。

 演奏会前に宣伝のチラシを配る、会場のスタッフと本番の段取りを打ち合わせする、参加者から参加費を集める、打ち上げの出欠確認から本番当日の係決めなど、タスクはたくさんありました。

 わたしとBさんは、休日に車で市民会館やCDショップなどを回ってチラシを置かせてもらえるようお願いしたり、オーケストラの練習後に他の運営メンバーと集まって当日の段取りを打ち合わせたりしました。

 わたしはたいしたことはできなかったのですが、Bさんや他の運営メンバーの皆さんのおかげで、タスクは順調に消化されていきました。

 ただ、Aさんが演奏会に出られなくなったとき、Aさんが必要な書類をすべて持ったまま連絡が取れなくなってしまう、という状況になってしまいました(詳細はここではお話できませんが)。

 プロジェクトのキーマンだけに知識やノウハウが集中した状態で、そのキーマンが突然いなくなって慌てる、ということは実際のプロジェクトでも起こりうる話です。この一件で、こういう場合のリスクマネジメントについても大いに考えさせられました。

■いざ本番!

 演奏会当日、わたしはこれまで練習で考えたこと、感じたことをすべて伝えるつもりで演奏しました。実際にすべて伝わったかどうかはわかりませんが、少しは伝わったのでしょうか、本番終了後に、カルテットのメンバーから「今までで一番良かったよ」と言ってもらえました。

 また、当日の運営にも大きなトラブルはなく、無事に終演を迎えることができました。出演者も観客も楽しめる演奏会になったと思います。

 そうはいっても、演奏面でも運営面でも反省すべきことはいくつかありました。それは次回の演奏会につなげたいと思います。これもPDCAサイクルですね。

Comment(6)

コメント

ちふ

はじめまして、ちふと申します(派遣、開発と評価少し)。

クラシックは聞く方オンリーですが:

>>あとは演奏会当日(納期)までに曲の構成を理解し(設計)、
>>実際に音にする(実装)のです。
>>おっと、テストと保守・運用にあたるフェーズがありませんが、
>>そこは突っ込まないでください(笑)。

ちと無理やりかもしれませんが、こんなのどうでしょう。

曲の構成理解 -> 要件分析
頭に(理想の)曲を思い浮かべる -> 設計
理想の曲に向けて音作り -> 実装
一人で練習 -> 単体テスト
みんなで練習 -> 結合テスト
発表 -> リリース

単体(一人で練習)とばして結合(みんなで)するとボロボロになる、とかありそうな気が。

第3バイオリン

ちふさん

コメントありがとうございます。

>曲の構成理解 -> 要件分析
>頭に(理想の)曲を思い浮かべる -> 設計
>理想の曲に向けて音作り -> 実装
>一人で練習 -> 単体テスト
>みんなで練習 -> 結合テスト
>発表 -> リリース

おおっ!そういう解釈がありましたか!素敵なアイデアありがとうございます。
コラムでは「実際に音を出す」部分をまとめて実装フェーズと書きましたが、
ちふさんの解釈のように、音作りと練習を分けて考えるというスタイルもアリですね。
(となると、アジャイル型というか、テスト駆動開発(TDD)になるのかな?)

>単体(一人で練習)とばして結合(みんなで)するとボロボロになる、とかありそうな気が。

あ、これ経験あります(汗)。
すべてのパートを合わせるのがシステムテストだとすると、弦楽器がパート内で合わせたり、
管・打楽器がセクション内で合わせたりするのが結合テストといったところかもしれませんね。

tata

はじめまして。tataと申します。世に言うSEで小さなシステムの構築・運用保守全般やります。
実は、私はViola弾きです。地元アマチュアオケに入団していますが、この運営の現場にも関わっています。仕事と趣味の両立はなかなか難しいですが…。趣味が共通?ということで第3ヴァイオリンさんのコラムは気になっていました。


『演奏会の運営はまさにプロジェクトそのもの』

まさにその通りだと私も感じています。

私が参加しているオケの特徴として、団長がきちんと「演奏会概要」を作成し、団員に配布して意識共有を図るという点がいえると思います。

この「演奏会概要」はA4サイズ1ページのものなのですが、まさに「プロジェクト計画書」なのです。以下、書かれている内容を簡単に書きますね。

------------------------------

1.創立目的
 →この団体の存在意義、目指す方向性について。
 →ただ存在するのではなく、皆が共通の目的を持って行動するための考え方を述べる。

2.企画概要
 →オケの今の状況と、今回の演奏会で目指しているもの。成果を明確にする。
 →曲目選定の背景やその他皆が知っておくとよいことを記述する。

3.日時・場所

4.曲目

5.参加を呼びかけるメンバー(未確定)
 →パートごとに想定するメンバーを洗い出し。
 →プロジェクト推進中(=本番までの練習)は、実際に参加する/しないメンバーを反映していき、オケ全体のバランスを考える。
 →メンバーや、参加メンバーの力量が不足する場合は、トラの必要性を検討し、必要に応じて支援を依頼する。

6.練習日程・場所・指導者
 →全体練習の日程を記述する。
 →A4サイズ1ページには書ききれませんが、練習計画時に「当初は曲全体を通して雰囲気をつかむことと、各個人の課題点に気づいてもらうことを目的とする」「本番○ヶ月前の練習までは弾けないところや合わせるのが難しいところが弾けるようになるための練習」「本番前○ヶ月からは表現・音づくり」といったことを考えます。

7.当面の課題
 →今わかっている問題点、リスクを明確にする。

8.予算概要
 →参加費、チケット販売目標額、助成金など収入見込額を算出する。
 →演奏会開催にかかる各種費用(場所代:本番・練習会場、宣伝:チラシ印刷・メディア広告等、各種費用:トラなど)の概要を算出する。

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如何でしょうか。。。
長文すみません。。

プロジェクト計画をするときや、プロジェクト推進中に考えていることと、ほとんど同じだなぁと私は感じました。


ああっ、練習しなきゃ。
5月に「第九」、10月に「田園」がっ。

第3バイオリン

tataさん

コメントありがとうございます。

>実は、私はViola弾きです。地元アマチュアオケに入団していますが、この運営の現場にも関わっています。仕事と趣味の両立はなかなか難しいですが…。趣味が共通?ということで第3ヴァイオリンさんのコラムは気になっていました。

ありがとうございます!
同じ仕事と趣味を持つ方がいらっしゃって嬉しいです!

>私が参加しているオケの特徴として、団長がきちんと「演奏会概要」を作成し、団員に配布して意識共有を図るという点がいえると思います。
>プロジェクト計画をするときや、プロジェクト推進中に考えていることと、ほとんど同じだなぁと私は感じました。

そうですね。
私のオケではここまではやっていませんが、今回の演奏会の運営に携わってみて、まさにプロジェクトそのものだなと思いました。

これがオケの定期演奏会ともなると、もっと多くの人やお金が動くことになるし、本当に大変なんですよね。
仕事の合間をぬって、運営に奔走する事務局のメンバーには頭が下がる思いです。

>ああっ、練習しなきゃ。
>5月に「第九」、10月に「田園」がっ。

年に2回ベートーベンの交響曲…それはまた大変なプログラムですね(笑)
いい演奏会になるよう、私もお祈りしております。

まみ

初めまして、ヴァイオリンの雰囲気係と運営をしておりますまみと申します。
ウチは小さな合奏団ですが、ヴァイオリン同士の仲たがいが起きて壊滅寸前。。。
そこでこちらを読ませていただいて、
「なるほど~!ビジョンが一致してなかったから、変なことになっちゃったのか~!」
と納得しきりでした。

第3バイオリン

まみさん

コメントありがとうございます。

>「なるほど~!ビジョンが一致してなかったから、変なことになっちゃったのか~!」

やりたい曲や、音楽活動に対するスタンスがメンバーそれぞれで違っていると、
うまくいかなくなることがありますよね。

オケ全体として、バイオリンパートとして何を目指すかがはっきりしていないと
みんな自分がやりたいようにしかやらないし、
自分と考えの異なる人のことを受け入れられなくなることもあります。

これは、オケに限ったことではないかもしれませんね。

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