第14回:信頼の海図、責任ある資産~ノルウェー~
フィヨルドの絶景と、北海油田が生み出す世界有数の富。前回取り上げたスウェーデンと国境を接するノルウェーは、自然の恵みと高い社会制度を持つ、北欧モデルの象徴とも言える国だ。この国が現代の「アクティブデータ探訪」において特筆すべきは、その潤沢な資源を背景にした、極めて「責任あるデータ利活用」へのアプローチである。
ノルウェーは、国連の電子政府ランキングで常に上位に位置するデジタル先進国であり、国民のデジタル政府サービスへのアクセス率は非常に高い。その基盤となっているのが、国民の政府に対する積極的な関与だ。これは、特定の政治家や政権に対するものではなく、「法の支配」と制度への関心に基づいているようだ。透明性と倫理を重んじる社会規範があるからこそ、政府はAIの責任ある開発と利用、特に「公平性(Fairness)」「信頼性(Reliability)」といった倫理的課題に正面から取り組むことが可能になっている。
特筆すべきは、データと技術の「社会への定着」に注力している点だ。例えば、彼らの伝統的な基幹産業である漁業を見てみよう。「スマート漁業」の分野では、教育機関と漁業企業が連携し、実際の海洋データを教育現場に提供している。これにより、「学ぶ」ことと「データを使う」ことが一体化しており、卒業生は即戦力として現場で活躍できる。これは、技術を一部のエリート層に留めず、社会全体で活用するための具体的な人材育成モデルだ。
また、膨大な石油・ガス収入を原資とする「政府年金基金グローバル」の存在も、データガバナンスの視点から興味深い。世界最大の政府系ファンドであるこの基金は、単に投資先を選定するだけでなく、投資先企業のESG(環境・社会・ガバナンス)データを精査し、倫理的な基準を満たさない企業には厳しく対処する。これは、国家の資産運用というマクロなレベルで、「データに基づいた責任ある意思決定」を実践している他国に類を見ない事例と言える。
ノルウェーは、生成AI時代において、データ活用とは単なる経済効率化の手段ではなく、社会の持続可能性と倫理的責任を担保するための「資源」であるという姿勢を示している。その「信頼の海図」は、我々がどのようにデジタルな資産を管理し、未来世代に引き継いでいくべきか、という問いに対する明確な解答の一つとなるだろう。
■参照:
https://www.digdir.no/
https://www.nbim.no/
https://www.innovasjonnorge.no/ (Innovation Norway)
https://publicadministration.un.org/ (UN E-Government Survey)
https://ai-keiei.shift-ai.co.jp/smart-fishery-human-resource/