第6回:"なりたい"気持ちの集合体~ドイツ~
ドイツと言えば、文化的な職人気質も感じられ、これまでもさまざまなプロダクトの名作を世界中の各分野にいくつも送りだしている。そんなドイツには、インダストリー4.0(Industrie 4.0)という、ドイツ政府が提唱する製造業のデジタル化と自動化を推進するプロジェクトがあり、製造業における第四次産業革命とも呼ばれている。このプロジェクトの中心には、データの利活用がある。
インダストリー4.0の主要な目的は、製造業の生産性向上と競争力強化だ。特にデータの収集、分析、活用を通じて、製造プロセス全体の最適化を図っていく。ドイツは歴史的に製造業が経済の中心を担っており、高品質な工業製品で知られている。しかし、グローバル化の進展とともに、コスト競争力が低下し、労働力不足や技術革新の必要性が高まっていた。このような背景の中で、インダストリー4.0は、製造業のデジタル化とデータ利活用を通じて、競争力を維持し、さらなる成長を遂げるための戦略として2011年に宣言された。
これまでのさまざまな分野での事例としては、例えば、大手電機メーカー、自動車メーカーやエンジニアリング企業の工場等でのデータ利活用があげられる。製造ラインに多数のセンサーを配置しリアルタイムでのデータ収集と分析を行うことで、生産プロセスの最適化や予知保全が実現し、ダウンタイムの大幅な削減と生産効率の向上が図れている。マーケティング戦略においては、顧客の個別ニーズに対応するためのデータ利活用を駆使したカスタマイズ生産が実行されている。さらに、製造プロセス全体で収集されるデータを基に、リアルタイムでの生産計画の調整や在庫管理の最適化も実施されている。これにより、個別化された高品質な製品を効率的に提供することが可能となっている。
一方、AIの領域で言えば、製造設備の予知保全システムを導入しIoTセンサーからのデータを収集、AIを用いて分析することで、設備の故障を予測し計画的なメンテナンスを遂行する。これにより、設備の稼働率を最大化し、予期しないダウンタイムを防ぐことを目指している。こうした一連のコンセプト、実践によって、インダストリー4.0は、以下のような効果が期待されている。
- 生産性の向上: データ利活用により、製造プロセス全体の最適化が図られる。リアルタイムでのデータ収集と分析により、ボトルネックの特定や解消が迅速に行われ、生産性が向上する。
- コスト削減: 効率的な生産スケジューリングと在庫管理により、無駄なコストが削減される。予知保全により、設備の故障による予期しない生産停止が防止され、メンテナンスコストも低減される。
- 品質の向上: 製造プロセス全体でのデータ収集と分析により、品質管理が徹底される。異常検知や予防的措置が可能となり、製品の品質が向上する。
- 柔軟性の向上: カスタマイズ生産が容易になり、顧客の多様なニーズに迅速に対応できるようになる。これにより、市場の変化に柔軟に対応し、競争力が強化される。
- 新しいビジネスモデルの創出: データ利活用により、新しいサービスやビジネスモデルが生まれていく。例えば、データ分析に基づくサービス提供や、製品の使用状況に応じたサブスクリプションモデルなどが考えられる。
このように、インダストリー4.0は、データ利活用を中核に据えた製造業の革新プロジェクトであり、ドイツの製造業が直面する課題に対処するための重要な戦略だ。もともと、こうした潮流が生まれてきたのも、ドイツには古くから"マイスター制度"というものがあり、"ゲゼレ"という国家資格を経て、所謂"その道のプロ(匠)"を目指していくという文化がある。冒頭にも述べたこのような"気質"は、この先さらに"データ"という媒体を通じて、国と匠と文化を繋げていくのだろう。いや、彼らの"気質"こそが、まさにドイツが国をあげて大切にする"データ"そのものなのかもしれない。
■参照:
総務省|平成30年版 情報通信白書|インダストリー4.0とは (soumu.go.jp)
インダストリー4.0とは?ドイツ、日本の現状と取り組みの課題 - 株式会社STANDARD (standard-dx.com)
Plattform Industrie 4.0 - Homepage (plattform-i40.de)
ドイツのマイスター制度 - マイスター制度を理解するためのキーワード - ドイツ生活情報満載!ドイツニュースダイジェスト (newsdigest.de)
Plattform Industrie 4.0 - Use cases (plattform-i40.de)
ドイツが描く第4次産業革命「インダストリー4.0」とは?【前編】:インダストリー4.0(1/4 ページ) - MONOist (itmedia.co.jp)