第10回:"データ"は"環境"。~サウジアラビア~
サウジアラビアでは、2019年にサウジ・データ・AI庁(Saudi Data and Artificial Intelligence Authority)が設立され、また、国家的なビジョン「Vision 2030」も謳われる等、国をあげてのデータ利活用が急速に進んでいる。その中でも同国独自のアプローチは、特に以下の三つの領域で顕著に表れている。
まず一つ目は、データ主権とプライバシー強化だ。サウジアラビアでは、2023年に施行された個人データ保護法の制定により、国内でのデータ処理と保管等についてさまざまな形で言及された。サウジアラビアでは憲法上、イスラム法(シャリーア)が最高法規とされており、これに基づき個人のプライバシーが保護され、データの越境移転にも厳しい規制がある。企業は例外的に許可を得なければならないという。こうした規制等により、同国は個人のプライバシーを保護しながら、国内経済のデジタル化を推進する基盤を築いている。
二つ目は、スマートシティの推進だ。リヤドやサウジアラビア北西部、タブーク州に建設中の計画都市 NEOM等、サウジアラビアの都市開発はデータ活用の最前線と言えよう。例えばNEOMプロジェクトでは、AIとIoTを駆使した持続可能な都市設計が進行中で、データを基にしたエネルギー効率化、水資源管理、交通最適化などに取り組んでいる。これらは世界で類を見ないスケールのスマートシティ計画といえる。また、大気汚染や都市インフラのモニタリングシステムも導入され、環境保護と都市生活の向上が目指されている。
最後は、環境関連、グリーン経済への転換について。サウジアラビアの「Public Investment Fund (PIF)」は、環境に配慮した建築プロジェクトや持続可能なインフラ開発に注力し、データを活用してエネルギー効率の高い設計を実現している。これにより、年間20%のエネルギー削減や、数千トンの温室効果ガス排出削減が達成される見込みと言われている。特にNEOMでは、水資源の効率的利用や再生可能エネルギーへの切り替えが進んでおり、データ駆動型の環境政策がその鍵となっている。
こうした国を挙げての新都市開発を通じて、サウジアラビアはデータ活用による経済成長と環境保護の両立を目指している。データ主権の確保やスマートシティプロジェクトの成功は、他国のモデルケースとなる可能性もあり、特に中東地域におけるデジタルリーダーシップの強化が期待されているという。
これらの取り組みは、同国の特有の地理的・経済的条件を活かした独自の方向性を示しており、国際的な注目が集まっているようだ。"データ"と"環境"との共存の在り方は、この先の世界においての最重要課題になるだろう。いや、むしろ、もはや現代社会では、"データ"は"環境"の一要素と言ってもいいのではないだろうか。
■参照:
サウジアラビア:個人データ保護法施行規則の施行(2023年10月12日号) | N&Aニューズレター | ナレッジ | 西村あさひ