カイシャの怪談 (参の章)
壱の章、弐の章と続いた「カイシャの怪談」シリーズも、本編の「参の章」をもって、いったん終了にします。
今後は「カイシャの怪談(番外編)」にて、妖怪たちの攻防(?)を扱っていきたいと思います。ご期待ください。
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妖怪ファイル:11
「賽の河原の鬼」
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この妖怪を紹介する前に、皆様は「賽の河原」というものをご存知でしょうか?
ご存じない方のために、ちょっとだけ紹介しますと、「賽の河原は、親に先立って死亡した子供がその親不孝の報いで苦を受ける場とされる。そのような子供たちが賽の河原で、親の供養のために積み石(ケアン)による塔を完成させると供養になると言うが、完成する前に鬼が来て塔を破壊し、再度や再々度塔を築いてもその繰り返しになってしまうという俗信がある。このことから「賽の河原」の語は「報われない努力」「徒労」の意でも使用される」(出典:Wikipedia)
ここに登場する鬼は、実は私のカイシャにも生息しています(それも結構な数が生息しています)。
考えようによっては、最も理不尽な要求をする鬼かもしれません。私のカイシャを賽の河原に例えると、
死亡した子供 = エンジニア
鬼 = その上司
石 = 仕様書や設計書などのドキュメント
に相当します。
どんなに一生懸命にドキュメントを書いても(石を積んでも)、鬼(上司)がやってきて、レビューと称してドキュメントを駄目出し(石を蹴ってしまう)してしまうのです。
鬼の役割は、いつまでも……永遠にドキュメントに「承認」を出さないことです。
そして、賽の河原(現場)で石を積む(ドキュメントを書く)亡霊たち(エンジニア達)は、永遠に報われないドキュメントを書き続けることになるのです。
ああ、恐ろしい。
生地獄とはまさにこのようなことを言うのでしょう。ここで、懸命な読者諸氏に置かれましては、次のような疑問が湧いて来ていると思われます。
「それじゃあ、いつまで経っても製品ができないじゃないか?」
鋭い指摘です。完璧です。で、その指摘に対する回答はというと……。
「はい、そうです。できません」ってなります。
「え?なんで?」って思われるかもしれませんが、そこが「賽の河原」の魔力なんでしょう。
「できないこと」=「通常」なんです。
2~3年もこの調子なんですが、一向に改善される気配がありません。
やっぱり異次元(黄泉の国)のことなのですね。触らぬ神に祟りなし。
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妖怪ファイル:12
「ご隠居爺」
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爺、婆シリーズのトリを務めるのが、この妖怪です。
「この印籠が目に入らぬか!」と言って、いつまでも院政を続ける、水戸の黄門様ならぬ、ただのご隠居爺です。
諸藩を遊説していてくれれば良いのですが、居残って院政を押し付けます。出て行く気配がない。
加えて、過去の栄光(経験)を押し付けて、家来達(部下達)を迫害します。
ご隠居様ご自身は、部下思いの良い上司♪ を演じているつもりでしょうが、部下は堪りません。
権力は蜜の味ってわけですね。一度手に入れた権力は、簡単に手放せないというわけでしょう。
この妖怪の仕事は、スキル・知識を部下に公開せず、自分で独り占めすることです。基本的に部下を信用していません。自分にできないことが、部下にできてしまうのが許せないタイプなのです。決して、部下には自分を“超えさせない”ように、部下を操作する妖怪です。組織としては、本当に迷惑な妖怪ですね。
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妖怪ファイル:13
「ネバー・エンディング・ライター」
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エンジニアよりも小説家になった方が良かったかもしれない妖怪です(多分、売れっ子になることはありませんが)。
技術ドキュメントを書くべきところで、なぜか「物語」を書きます。
内容はさまざまです。
血沸き肉踊る、大冒険活劇になったり、ラブストーリーになったり、昔話になったり……、。そして最後は「ネバー・エンディング・ストーリー」へ突入。終わりの”見えない”物語になります。
例えば、詳細設計書の冒頭文に、「この開発に至った背景」が書かれたりします。そこに至る苦労話に花が咲きます。
そんなのは企画書に書けばいいことですが、この妖怪にとって、この一文は必須の項目らしいのです。必ず! 書きます。義務でもあるかのように。
また、機能仕様書に、今回の「開発体制図」や、「マーケット情報」が入ったりします。締めには「販売予測」が書かれたり……「要求の分析方法」「残課題」と続きます。
何でもかんでも、ごちゃまぜが好きで、いつまでも書き続けたい妖怪です。
一度、ある開発者(妖怪)に聞いてみたことがあります。
私:「この章は、不要な気がするんだけどね(内心→絶対不要! 怒)」
開発者:「え? そうですか? だって、これを書かないと、ページ数が少なくってさぁ……ははは」
と反応されたことがあります。
もしかして、仕様書や設計書の質を、紙に印字した時の重さ(紙の厚さでも良いです)で判断しているんじゃないか? と疑ってしまいました(昔、プログラムの単価がステップ数で計上されていた時代には、無闇にステップ数に下駄を履かせて単価を嵩上げする輩がいましたけど。この妖怪の上記の妖怪の子孫なのでしょうか?)
いつになったら仕様書や設計書が書き上がるのか、それは誰にも(きっと本人にも)分かりません。
まさに終りのない……終わることができない妖怪なのです。
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妖怪ファイル:14
「オレオレ鬼」
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部下がやっている実務(設計書書きや、コーディング)を、自分でやりたくて仕方がない妖怪です。本音を言えば「部下なんかにさせたくない」のです。
俺はコーディングがしたいんだぁ~!!
俺は設計がしたいんだぁ~!!
……と突っ走る妖怪です。
マネジメントもしっかりこなせば、プレーイング・マネージャって言うわけでカッコイイですが。この妖怪は、やることなすこと「俺が! 俺が!」が前面に出てきてしまいます。
先に紹介した「ご隠居爺」の場合は、自分からやることはありませんが、この妖怪は「自分だけ」で仕事をしようとしてしまいます。
ある意味、ここで仕事をする部下達は、ご隠居爺の部下達とは違った苦悩を味わいます。この妖怪の下では「やりたくても、やらせてもらえない」状態になります。
おいしい仕事は全部「オレオレ鬼」がさらっていきます。やらせてもらえるのは、おこぼれで、つまらない仕事ばかり……。
コバンザメだって、たまには美味しいご飯(仕事)が欲しくなりますよね。でも、ここではそれは望めません。
この妖怪は、部下を信用していないわけではありません。基本的に、技術が好きすぎて、周りが見えなくなっているだけなのでしょう。
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妖怪ファイル:15
「サンプラー」
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何でもいいから「サンプルプログラム」をコピーして使用する妖怪です。
グーグル様命の「ぐぐらでおくものか(妖怪ファイル:10)」と似た傾向を持つ妖怪です。自分で考える機能が極度に低下しているところは、前述の妖怪に似ています。
サンプル・プログラム命! です。
サンプルプログラムを探し当てたら、何も考えずに自分のプログラムに組み込んでしまいます。そして、そのプログラムに不適合が発生すると、元のサンプルプログラムの悪口を散々言いまくり、自分の非は認めません。
サンプルがサンプルである所以などはお構いなし。ネットに公開されている情報は、自己責任で使用するべき! って理屈は、この妖怪の辞書には載っていません。
この妖怪の弱点は「コードレビュー」です。
とにかくレビューされることに弱いので、この弱点をグイグイ突いてあげると良いでしょう。ただし、逃げまくりますけどね。
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妖怪ファイル:16
「ボンバー」
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別名を「メール・ボンバー」と言います。
メールで情報共有をすることに命をかける妖怪です。手段としてのメールに、情報を載せて発信さえすれば「あ~ら不思議、簡単に情報共有が完成してしまうわぁ~♪」って感じに、無作為に(無制限に)メールを送信するメール魔です。
同僚:「な、なんだ! これは?」
私:「ん? どうした?」
同僚:「こ……こんなことは有りえない!」
私:「だから……何が?」
同僚:「ものすごい勢いで、メールが送信されてくるんだ」
私:「へ? メール? 何のメール?」
同僚:「メーリングリストなんだけど……有りえない!通常の3倍以上のスピードだ!(ギャグです)」
私:「ま……まさか……赤い惰性か!(これもギャグです)」
この妖怪は、どう利用したら良いのかまったく理解できない内容のメールをしつこく送信します。「惰性」で情報共有しているとしか思えません。そして、メールを送信してる実体(妖怪本体)を見たことはありません。まさにステルス妖怪です。
ネットワークの向こうから、ほとんど無意味な大量の情報を打ち込んできます。この妖怪の存在意義は、どこにあるんでしょう。うーん。理解できないから、妖怪なんでしょうけど。
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妖怪ファイル:17
「オレオレ餓鬼」(Not オレオレ詐欺)
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この妖怪は、先に紹介した「オレオレ鬼」と似ている名称ですが、行動はまったく違います。
レビュー結果やテスト結果よりも「俺の人間性を見て、俺を信じてくれ!」と懇願するタイプの妖怪です。
結果がどんなに”ボロボロ”であろうが、人情(おっと、妖怪情?)に訴えるのです。
この妖怪の手口は、
「結果よりも、プロセスだ」
「成果よりも、過程だ」
と言って、他の妖怪(時々、人も含まれますが)たちを騙して、仕事を終わらせてしまいます。
大したプロセスを踏んでいなくても、あたかも「プロセスは正しく実施された」と思わせてしまうところが、この妖怪の能力です。製品を出荷した後に、大クレームになっても、しらばっくれるので、始末が悪い妖怪でもあります。
どんなに適当に仕事をしていても、この妖怪の巧みな話術に騙されます。なぜか憎めないのも、この妖怪の特徴でしょう。