ソフトウェア・エンジニアの語る、虚々実々の物語

本当にグーグルでいいんですか?

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「ググる……」

 最初、その単語を聞いたとき、非常な違和感を伴っていた。しかし、この言葉も今となっては我々の生活の中にしっかりと市民権を得ているようだ。

 会社にいても……。
 自宅にいても……。
 喫茶店でコーヒーを飲んでいようが……。
 夕飯を終えて自室でくつろいでいるとき……。
 そしてプライベートで彼女とデートしていても……。
 パソコンや携帯電話と通して、確実に“奴”はそこに居る。

 スタンド・バイ・ミー……。

 う~ん。意味はちょっと違うかもしれないが我々の「傍らに立つ」のである(座敷童子の話じゃないよ)。

 例えば……。あなたは今会社に出社しています。そして、とある会議に参加していると仮定しよう。議題の中で何か分からないことが出てきた場合に、あなたはどうするだろうか? 一昔前なら、会議の席で分からなかったことをノートにでもメモしておいて、自分の机に戻ってきてから、辞書を調べたり、文献を引っ張り出したり。結構いろいろな道具を駆使して調べたはずだ。

 それが今ではどうだろう? 私の会社では、ほとんどの社員が自分のノートパソコンを持っている(それはそれで凄いことなんだが……)。

 会議中でも、ほとんどの出席者がノートパソコンを開いて、何やらカタカタとキーボードを操作している(つまり会議に集中していないことは明白)。

 しかし、出席者の誰もが分からない単語が話題に上ると「待ってました!」とばかりに話題に飛びつく輩はどこにでも居るものである。

 「あ、それ。今調べますね」

 そんなことは誰も頼んでいない。でも、彼(または彼女)にとって、検索しなければならないのである。そう、自分で自分に課した使命でもあるように。

 彼(または彼女)はさっとキーボードを叩き、瞬時に画面に表示された情報を読み上げるのである(瞬時に回答(らしきもの)が画面に表示されるって事実も、じつは物凄いことなんだけど)。

 「その問題はですね。xxのxxって言って……(以下略、永久説明モード突入)」

 画面に踊る情報を、あたかも自分が最初から知っていた「事柄」のように語り出す。一瞬呆気にとられることもあるが、これくらいなら可愛いもんだ。必要が無ければ聞き流せば済む。本当に重要な事案なら、誰か別の人にメモを取っておくように依頼すればそれでOK。彼(または彼女)は、読み上げ専用マシンだから、メモを取っておくなんて高等テクニックは持ち合わせていない。

 しかし、次のような「こまったちゃんケース」もある。「先輩、そのケースはすでにxxで実施済みですよ。失敗だったみたいです」とか。 「ああ、それは古い情報ですね。こっちが最新です」とか。「失敗データベースって知ってますか? 同じ事例が載ってますよ」などなど。やたらと「ネガティブモード」に引きずり込むのである。この揚げ「ネガティブモード」は他の人にも伝染するから困ったものだ。一度伝染すると、どんどん拡散して行き、何を議論していたのだか分からなくなるくらいに膨れ上がる。

 彼(または彼女)はテキストを読み上げるだけ。「出来ない」「しない」理由は湯水のように湧き上がるが、「可能にするためには」についてはまったく言及しない。彼(または彼女)の表情は得意満面である。鬼の首でも取ったかのような態度である。本当に鬼が居るなら、取ってきてもらいたいくらいだ。

 嵐のような不毛な議論が収まると、そこから元に話題を引き戻すのにかなり苦労する(あ、すいません。私の話も脱線してしまいました……)。

 すでに誰かがトライしていた情報は、確かに有用だ。情報は最新であった方が良いに決まっている。失敗事例はとても参考になる。でも、でも、である。その情報を鵜呑みにしていいのか? それが真実か? 本当にそれだけなのか? っていう「疑い」を持つことはとても重要だと思うのだ。何でも便利に調べ物が出来るようになって、確か! に便利にはなりました。すぐに答え(と思わしき)が得られるってことは、それなりに生産性向上に寄与すると”は”思います。

 ここで、わざわざ限定の「は」を使ったのは、その弊害も計り知れないからだと思ったからです。何でもすぐに分かっちゃって良いの? 努力するなんて古臭いの? 他人の情報をあたかも自分で考えたかのように言っていて良いの?

……。

 なんだかねぇ。最近、いろんな人の仕様書なり設計書なり計画書なんかを見る機会が多くなったので、愚痴(いや評価ですね)が多くなってしまうのかもしれませんが。

 考えが浅いんですよね。かなり。もしかして、脳まで信号が届かずに、脊椎だけで仕事しているんじゃないか? って思う時もあります。

 「汝は脳みそまでグーグルに献上するのですか?」

 便利は便利。それは認めましょう。でもねぇ、、、それで良いの? 頭は使ってこそ「あたま」ですからね。もしかして全世界の人間を白痴化することがグーグルの最終目標ではないかとさえ思ってしまいます。

 本当に頭を使って仕事をするには、ネットワークから遮断された執務室や会議室が必要かもしれません。そして、執務室や会議室の壁にデカデカと書きだしておくのです。

 「頭を使え!」
 「安易にググるな!」
 「自分の言葉で書きなおせ!」

 書くことで、頭の中の情報が整理される。まずは書くこと。そして考えること。読んだ物がそのまま出力になることなんて、そんなに有りはしない。会社に入ったとき、最初に現場指導をしてくれた恩師が言っていました。「おい、あんちゃん。頭とxxxは生きているときに使ってナンボのもんじゃからな」(上記のxxxには好きな文字をお入れください。(笑))

Comment(2)

コメント

ハムレット

はじめまして。

確かにそういうケースって多いですね。あまりに多いと気が滅入るのも判ります。
個人的には以下のように対応しています。

>「先輩、そのケースはすでにxxで実施済みですよ。失敗だったみたいです」

なぜ××ではそのような方針になったのか背景を質す。
なぜ失敗したか見解を質す。
失敗から得られる教訓は何か
(つまり失敗を回避して目的を達成するにはどうすれば良いか)を質す。

>「失敗データベースって知ってますか? 同じ事例が載ってますよ」

失敗データベースの事例が、取り組み中の事例に適用できる判断した根拠を質す。
以下、・・・上の例と同様。

よく「なぜ」を五回繰り返して根本原因を追究すると云う「なぜなぜ分析」とかあります。実施してみると意外と大変なんですが、「No,Pain No Gain」でこの辺で苦労しているからこそ、日本の製造業は現場レベルで強いのかなと感じます。

虚数(i)

ハムレットさん、コメントありがとうございます。
「なぜなぜ5回」は私の会社でも良くやっています。
うまく出来ないことが多いですが、それでも続けています。
質問することで、考えてもらうことが出来るのも、このツールの良いところですね。
ほうっておくと、すぐに結論が
・チェックリストを作る。
・教育する。
になっちゃいますけどね(笑)

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