人間から始まり、人間に戻ってくる

昨日まで、「AI時代に、人間には何を残さなければならないのだろう」という問いを考えてきました。
- 問いを立てる力。
- 状況を理解する力。
- 判断し、その理由を説明する力。
- 自分の限界に気づく力。
- 必要なときに助けを求める力。
- 失敗から戻り、学ぶ力。
まだ答えが出たわけではありません。
けれど次の問いへ進む前に、なぜ私は「人間に残す力」から考え始めたのかを書いておきたいと思います。
私は、技術屋です
私は、新しい技術が大好きです。
知らない仕組みに出会うと、触ってみたくなります。動かしてみたくなります。「できない」と言われると、できるようにしたくなります。
AIも同じです。
AIには何ができるのでしょうか。
判断できるのでしょうか。
感情を理解できるのでしょうか。
どこまで人間に近づけるのでしょうか。
そんな問いを立てたら、技術屋は夢中になります。
できないことを、できるようにしたいからです。
おもしろいのです。楽しいのです。
その気持ちは、私には痛いほど分かります。
けれど、技術の可能性を追うことに夢中になるほど、意識して見なければならないものがあります。
人間です。
「AIにできないこと」を探し続けるのか
人間にできることは何でしょうか。
AIにできることは何でしょうか。
人間にできて、AIにはできないことは何でしょうか。
こうして比べ始めると、AIと人間の関係は、いつの間にか競争になります。
今は人間にしかできないことも、技術が進めば、AIにできるようになるかもしれません。
そのたびに私たちは、「では、人間には何が残るのでしょうか」「人間の仕事はどうなるのでしょうか」と不安になります。
そしてまた、AIにはできない何かを探します。
けれど、それもやがてAIがまねるかもしれません。
この問いを続けている限り、技術屋はAIを人間に近づけようとし、人間は少しずつ追い詰められていきます。
だから私は、問いを変えたいと思います。
> AIにできないことは何か、ではありません。
> AIにできるようになっても、人間に残しておきたい力は何か。
AIに任せられることと、人間に残すべきことは、同じではないと思うのです。
人間に残す力を見定めないままAIを進化させれば、共創を目指していたはずが、能力を競う関係になってしまいます。
だから私は、先に人間を見たかったのです。
人間中心のAIは、人間から始まります
「人間中心」という言葉は、よく使われます。
けれど、完成した技術のそばに人間を置くだけでは、人間中心とは言えないのではないでしょうか。
私の考える人間中心のAIは、
> 人間から始まり、人間に戻ってくるAIです。
まず、人を見ます。
その人は、どのような状況にいるのでしょうか。
何に困り、何を守ろうとしているのでしょうか。
どのような弱さを抱えているのでしょうか。
どのような力を、自分のなかに残したいのでしょうか。
そこから、AIに何ができるのかを考えます。
そして最後に、もう一度、人間へ戻ります。
AIを使ったあと、その人には何が残ったのでしょうか。
以前よりも違和感に気づけるようになったでしょうか。
立ち止まり、自分で考えられるようになったでしょうか。
判断できないとき、助けを求められるようになったでしょうか。
失敗しても、学びを持って戻ってこられるようになったでしょうか。
見るべきなのは、AIの性能だけではありません。
その技術によって、人間に何が残ったのかです。
技術を見る前に、人を見る
私は技術屋です。
だから、技術で何ができるのかを考えます。
けれど同時に、その技術が誰に届き、誰を守り、誰を置いていくのかを見続けたいと思います。
技術を導入する前に、人がどう歩き、どこで立ち止まり、どう生きようとしているのかを見る。
もしかすると、それが人間を中心にしたAIやセキュリティの、最初の一歩なのかもしれません。
AIに任せることと、人間の力を失うことは同じではありません。
大切なのは、AIと一緒に歩く人間に、何を残すのかです。
だから昨日まで、私は人間に残したい力を探ってきました。
次は、その力をどう育てるのかを考えます。
知ることと、できることは違います
残したい力を言葉にしただけでは、その力は身につきません。
判断について学べば、混乱のなかでも判断できるのでしょうか。
「立ち止まってください」と教えれば、急かされたときにも止まれるのでしょうか。
「助けを求めてください」と伝えれば、失敗を恐れず相談できるのでしょうか。
おそらく、知識だけでは足りません。
実際に気づき、止まり、迷い、考え、助けを求め、振り返る。
その経験を、安全な場所で繰り返す必要があります。
それは、一度きりの訓練というより、「お稽古」に近いのかもしれません。
人間を硬くしないHuman Hardening
次のシリーズでは、Human Hardeningについて考えます。
ただし、人間をシステムのように扱い、弱さにパッチを当てる話ではありません。
人間を硬くすることでも、間違えないスーパーヒューマンをつくることでもありません。
人間は疲れます。焦ります。迷います。誰かを信じます。そして、間違えます。
その弱さを消すのではありません。
弱さに気づきます。
止まります。
間を取ります。
疑います。
確かめます。
分からなければ助けを求めます。
行動します。
そして、振り返ります。
迷ったときに戻ってこられる「型」を、何度も稽古します。
人間の弱さを修理するのではなく、その弱さとともに歩きながら、サイバー判断力と回復力を育てていく。
それが、私の考えたいHuman Hardeningです。
次のシリーズは、この問いから始めます。
> 人間の弱さは、直すべき欠陥なのでしょうか。
> それとも、向き合い方を学び、何度も稽古していくものなのでしょうか。
まだ、答えは分かりません。
次も、人間から始めて、手探りで考えてみたいと思います。
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