DXとAIの前に、置き去りにされているもの

昨日、DXに関する講習を受けた。とても興味深い内容だったが、同時に、どこか違和感も覚えた。重要な二つのテーマが、見事に置き去りにされていたからだ。
一つ目は、セキュリティである。
DXによってシステムやデータの連携が進めば、利便性が高まる一方、攻撃を受ける範囲も広がる。セキュリティを欠いたDXが非常にもろく、危険であることは、いまや業界の常識になりつつある。
どれほど高性能な自動運転車を開発しても、ブレーキもシートベルトもエアバッグも備えていなければ、安心して乗ることはできない。DXやAIにおけるセキュリティも、それと同じではないだろうか。
そして、もう一つ気になったのが、技術だけにスポットライトが当たっていたことだ。
組織や業務の変革を考えるとき、重要なのはPeople、Process、Technology、つまり「人・プロセス・技術」の三つである。ところが、DXやAIの議論ではTechnologyばかりが明るく照らされ、PeopleとProcessは暗い舞台裏に残されがちだ。
しかし、この三つのバランスが取れていなければ、DXもAI化もうまくはいかない。
まず、人がいる。その人が、何らかのデータを一定の手順で処理している。そのプロセスを技術によって効率化し、自動化し、必要に応じてAI化していく。技術は、あくまで人とプロセスを支える道具なのである。
ところが、肝心のプロセスが整理されておらず、入力も出力も、その間で行われる処理も定義されていなければ、自動化すべき対象そのものが存在しない。そこへ最新のツールを導入しても、混乱を高速化するだけである。
CMMI(Capability Maturity Model Integration)の成熟度モデルに照らせば、まず必要なのは、属人的で場当たり的な業務から脱し、プロセスを整理し、再現可能な形で定義することだ。そのうえで結果を測定し、管理し、継続的に改善できる状態へと成熟させていく。DXやAIの本格的な導入を考えるのは、その土台ができてからである。
以前、同僚がよくこう言っていた。
「ごみを自動化しても、出てくるのはごみだ」
まさにそのとおりだと思う。
そして、忘れてはならないのが「人」である。
AIやDXの導入によって、何が変わるのか。誰の仕事が変わるのか。人にはどのような役割が残り、どのような新しい役割が生まれるのか。こうした影響を見極め、現場の理解を得ながら変革を進めるチェンジマネジメントが欠かせない。
これは、私自身がキャリアの中で嫌というほど経験したことでもある。技術を導入しただけでは、組織は変わらない。現場に定着しなければ、せっかくのシステムも、やがて誰にも使われない展示品になってしまう。
だからこそ、DXやAIを始める前に、まずビジネス全体を理解しなければならない。それぞれの業務を把握し、プロセスを整理して成熟度を高め、人と業務との関係を明らかにする。そして、そのすべてを守るセキュリティを、最初から組み込んでおく。
そこまでできて、ようやくスタートラインに立てる。
DXやAIの導入は、なぜ失敗するのか。
その理由の一つは、光の当たる技術ばかりを追いかけ、プロセスと人、そしてセキュリティを暗い舞台裏に置き去りにしているからではないだろうか。
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