人間にパッチを当てることはできない

今日から、「人間に残したい力を、どう育てるのか」を考えていきます。
前のシリーズで見えてきたのは、いつも正解する力でも、何でも一人でできる力でもありませんでした。
違和感に気づく。
一度、立ち止まる。
状況を理解し、判断する。
分からなければ、助けを求める。
失敗しても、学びを持って戻ってくる。
私は、こうした力を「サイバー判断力」と「サイバー回復力」として考えています。
では、その力をどう育てればよいのでしょうか。
ここで考えたいのが、Human Hardeningです。
システムを硬くする
サイバーセキュリティには、システムを攻撃されにくい状態にする「ハードニング」という考え方があります。
脆弱性を見つけます。
パッチを当てます。
不要な機能を止めます。
設定を見直します。
そして、正しく動くかをテストします。
システムであれば、目指す状態をある程度は定義できます。
不要なものを取り除き、弱い部分を修正し、攻撃される場所を減らしていきます。
技術屋の私には、これはとても分かりやすい考え方です。
問題を見つけ、直し、テストする。
何が変わったのかも確認できます。
では、同じことを人間にもできるのでしょうか。
人間の弱さに、パッチを当てられるのでしょうか
セキュリティでは、人間が「最も弱いリンク」と呼ばれることがあります。
人間は間違えます。
不審なリンクを押します。
警告を見落とします。
急かされると、確認せずに行動します。
失敗を恐れて、報告が遅れることもあります。
それなら、人間の弱い部分を見つけ、教育というパッチを当てればよいのでしょうか。
間違えるたびにルールを増やし、注意を繰り返し、テストをすれば、人間も安全な状態にできるのでしょうか。
私は、そこに少し違和感があります。
人間はシステムではありません。
疲れます。
焦ります。
忘れます。
怖くなります。
誰かを信じます。
誰かの役に立ちたいと思います。
急かされれば、普段ならしない行動をすることもあります。
昨日は気づけたことに、今日は気づけないかもしれません。
同じ人でも、状況によって判断は変わります。
人間には、「ここまで直せば完成です」という状態がありません。
弱さは、欠陥なのでしょうか
人を信じることは、弱さなのでしょうか。
困っている人を助けたいと思うことは、欠陥なのでしょうか。
好奇心を持つことや、誰かの期待に応えたいと思うことも、攻撃者に利用される場合があります。
けれど、それらを人間から取り除いてしまったら、安全になるのでしょうか。
もしかすると、人間らしさまで失ってしまうのではないでしょうか。
もちろん、弱さを美化したいわけではありません。
その弱さが狙われ、被害につながることがあります。
だから、向き合う必要があります。
ただし、弱さにパッチを当てて消すのではありません。
自分が疲れていることに気づきます。
今、焦らされていると気づきます。
恐怖や善意が、自分の判断に影響していると気づきます。
そして、一度止まります。
少し間を取ります。
確かめます。
自分だけでは判断できなければ、助けを求めます。
弱さをなくすのではなく、弱さが動かされている瞬間に気づき、判断する場所へ戻ってくる。
育てたいのは、その力なのかもしれません。
硬い人ではなく、戻れる人
Human Hardeningという言葉には、人間を「硬くする」という響きがあります。
けれど、私が育てたいのは、何があっても動じない人ではありません。
疲れない人でも、迷わない人でも、間違えない人でもありません。
スーパーヒューマンをつくりたいわけではないのです。
人間は弱いです。
だからこそ、自分の弱さに気づけるようにします。
判断を動かされそうになったら、立ち止まります。
間違えたら隠さず伝え、支援を受けながら戻ってきます。
そして、その経験を次の判断へつなげます。
強さというより、しなやかさです。
Human Hardeningとは、人間を硬くすることではありません。
弱さを抱えたまま、気づき、止まり、判断し、戻ってこられる力を育てることなのではないでしょうか。
ただ、この力は、知識を教えるだけでは身につかない気がします。
攻撃の手口を知っていても、焦っているときには気づけないかもしれません。
ルールを覚えていても、怖さや善意によって判断を動かされることがあります。
では、攻撃されている「自分の状態」に、どうすれば気づけるのでしょうか。
次回は、人間の弱さがどこで狙われ、どのように判断を動かされるのかを考えてみたいと思います。
人間の弱さは、直すべき欠陥なのでしょうか。
それとも、向き合い方を学び、付き合っていくものなのでしょうか。
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