AIを脱いだあとに、何が残るのでしょうか

この4日間、「AI時代に、人間には何を残さなければならないのだろう」という問いを考えてきました。
判断する力。
「分からない」と分かる力。
助けを求める力。
失敗しても、学びを持って戻ってくる力。
今日は、このシリーズの最終日です。けれど、まだ答えが出たわけではありません。少しずつ見えてきたものを、いったん並べてみたいと思います。
AIを使っているときだけ、強く見える
AIは、私たちのできることを増やしてくれます。
分からないことを教えてくれます。
情報を整理してくれます。
選択肢を比べてくれます。
判断に迷えば、次の行動を提案してくれます。
AIを使っているあいだ、私たちは以前よりも速く、賢く、強くなったように感じます。技術屋として、私はそこに大きな可能性を感じています。けれど、同時に少し気になります。AIの支援がなくなったとき、人間には何が残っているのでしょうか。
AIが答えを出し続け、人間がそれに従っていただけなら、便利さは残っても、人間の力は育っていないかもしれません。私たちは、AIを使って強くなったのでしょうか。それとも、AIが強いだけなのでしょうか。
AIは、パワースーツのようなものかもしれません
私は、AIをパワースーツのようなものとして考えることがあります。必要なときに身につけ、人間の力を増幅してくれるものです。一人では扱えないほど多くの情報を整理できます。
見落としていた危険を知らせてくれます。
自分だけでは見つけられなかった選択肢を示してくれます。
パワースーツを着ることが悪いわけではありません。使える力は、使えばよいと思います。けれど、スーツを脱いだとき、自分の足で立てなくなっていたらどうでしょうか。
AIがなければ、何を疑えばよいのか分からない。
AIがなければ、自分では決められない。
AIがなければ、助けを求めるべき場面にも気づけない。
それでは、人間の力を増幅したというより、人間の判断を置き換えただけなのかもしれません。良いパワースーツとは、人間の代わりになるものではなく、人間が自分の力を使うのを助けるものではないでしょうか。
AIは、伴走者にもなれるでしょうか
もう一つ、私はAIを伴走者として考えています。伴走者は、代わりに歩いてくれる人ではありません。一緒に歩きながら、道を確かめ、迷ったときには問いを返し、必要なときには支えてくれる存在です。
「なぜ、そう考えましたか」
「まだ分かっていないことは何ですか」
「今、焦っていませんか」
「誰かに助けを求めたほうがよくありませんか」
「結果を振り返ると、何が見えてきますか」
AIがすぐに正解を教えるのではなく、こうした問いを返してくれたらどうでしょうか。人間は、自分の考えを言葉にします。見落としていたことに気づきます。
一度立ち止まり、もう一度考えます。
そのようなAIとの関わりであれば、支援を受けている時間そのものが、人間にとっての練習になるかもしれません。そして、いつかAIがそばにいないときにも、自分で同じ問いを立てられるようになるかもしれません。私が考えているコーチング型AIの姿は、ここにあるような気がしています。
良い支援とは、何を残すのでしょうか
良い支援とは、その瞬間だけ人間を強く見せるものではないと思います。支援がなくなったあとにも、何かを残すものです。
一度支えてもらったから、次は少し早く違和感に気づけます。
一緒に考えてもらったから、次は自分の判断理由を言葉にできます。
助けを求めてもよいと知ったから、次は一人で抱え込まずに済みます。失敗を振り返ったから、次はもう少し早く戻ってこられます。もちろん、最終的に何でも一人でできるようになることが目標ではありません。
一人で歩けるときは、自分で歩きます。
自分だけでは判断できないと気づいたら、もう一度、伴走を求めます。必要なときに支援を受けることも、人間に残したい力の一つです。
人間に残したい力
この5日間を通して、人間に残したい力が少しずつ見えてきました。
今のところ、私は次のように考えています。
- 問いを立てる力
- 状況を理解する力
- 判断し、その理由を説明する力
- 自分の限界に気づく力
- 判断を保留し、立ち止まる力
- 適切な相手に助けを求める力
- 決断の責任を引き受ける力
- 失敗から回復し、学ぶ力
これは、何でも知っている人をつくるための力ではありません。いつも正解する人をつくるための力でもありません。まして、間違えないスーパーヒューマンをつくるためのものでもありません。
人は弱いです。
疲れます。焦ります。迷います。間違えます。
その弱さをなくすのではなく、自分の弱さに気づき、一度立ち止まり、必要な助けを受けながら、また戻ってくる。
私は、そのようなしなやかな力を、人間に残したいのだと思います。それが、Human Hardeningだと考えています。
Human Hardeningとは、人間にパッチを当て、弱さを修理することではありません。自分の弱さに気づき、受け入れ、向き合い、判断と回復の型を繰り返し稽古してサイバーの世界でしなやかに生き残る力です。
残したい力は、どうすれば育つのでしょうか
ここまで、人間に何を残したいのかを考えてきました。けれど、残したい力を言葉にしただけでは、その力は身につきません。
判断の知識を学べば、判断できるようになるのでしょうか。
助けを求めるように教えれば、混乱したときにも相談できるのでしょうか。
失敗から学ぶべきだと伝えれば、本当に戻ってこられるようになるのでしょうか。
おそらく、知識だけでは足りません。実際の場面に近いところで、何度も練習する必要があります。
気づく。今の環境。今の状態。今の自分。違和感。何かを感じて気づく。
止まる。進むことだけではなく、立ち止まれること
間を取る。
疑う。
確かめる。
行動する。
分からなければ助けを求める。
そして、振り返る。
迷ったときに戻るための「型」を、稽古のように身につけていく。次のシリーズでは、そこを考えてみたいと思います。
AIを脱いだあとに残るもの、人間に残したい力を、どう育てられるのでしょうか。
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